オウバイタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

前日見つけたきのこを、翌日も見に行ったとき、
ふと、疑問に思ったりするわけです。

このきのこは、昨日と同じきのこなのだろうか?
このきのこは、ぼくが見つけなくても、
やはりここに存在し続けているのだろうか?
何よりも、昨夜寝て、今朝目覚めた自分は、
本当の本当に、昨日と同じ自分なのだろうか?

きのこはもとより、自分の存在すらあやふやです(笑)。

イギリスの哲学者・バートランド・ラッセルが提唱した、
世界は5分前に始まったのかもしれない、という、
有名な哲学的思考実験がありますけど、
世界が5分前に生まれたわけがない!と主張しても、
それを科学的に証明することって、
実際のところは不可能なんですよね……。

化石があるじゃないか!
化石ができたのはずっと昔だ!
歴史が続いてきたことの証拠だろう!
と言ったところで、
化石も歴史も含めて5分前に世界がつくられたのだ、
と言われたらぐうの音も出ません。

きのこをじっくり観察することは、
その時、そのきのこの状態を知ることであり、
かつ、あれこれいろいろ考えて、
理解していないことがまだまだたくさんあるぞお、
ということを知ることでもあるのかなあ、と思います。

などと、前日と同じく、コケコケの森で、
思考空想想像妄想しつつうろうろしていると、
ベニカノアシタケ発見!

ん?ちょっと、違うかも……。
じっくりチェック。

傘はオレンジ色っぽいような黄色のような。
柄はうすい黄色。
これは、ベニカノアシタケにも、
オウバイタケにも当てはまります。

傘の裏側、ヒダの色が白。
お、オウバイタケに、1票。
(ベニカノアシタケは色付き)
そして、柄に細い毛が見られない。
はい、オウバイタケでほぼ決まり。

オウバイタケは、アカエゾマツなど、
トウヒ類の落葉から発生するのですが、
この森に生えている木は、ほとんどがトドマツなのに、
ここだけ、アカエゾマツが生えています。
オウバイタケで、確定!

ちなみに、黄梅(おうばい)とは、
黄色い花が梅に似ているからそう名付けられたものの、
梅ではなく、ジャスミンの仲間なのだとか。
(香りはありません)

傘の直径は1cm弱とあまりにも小さく、
数もそんなにまとまって生えているわけでもなく、
食べる価値はないと思われます。
かわいいから食べないで!
と言っているわけではありません(笑)。

そうそう、ラッセルの「世界5分前仮説」ですけど、
自分は1日前のことをはっきり覚えている!
ゆえに世界は5分前につくられたのではない!
と反論する人がいるかもしれません。
でも、でも、
1日前のことをはっきり覚えている、という記憶も、
5分前に同時につくられたとしたらどうでしょう?

ぐぬぬ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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