アカヒダササタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

紫式部の『源氏物語』と言えば、
日本文学史上の最高傑作とされ、
名前くらいは誰でも知っていますよね。

でも、古典の教科書で苦戦した経験はあっても、
小説として最後まで読んだことがある、
という人は案外少ないでしょうね。
もちろん、ぼくも、例外ではありません。
ぼくの『源氏物語』に関する知識のほぼすべてが、
大和和紀の傑作漫画『あさきゆめみし』によるものだと、
断言しちゃいます。

身分が高くて、美しくて、
才気あふれる女子が多く登場する『源氏物語』において、
例外的な人が、一人存在します。
その人の名は、末摘花(すえつむはな)。

座高が高くて、やせ細っていて、顔は青白く、
驚嘆すべき、大きく垂れ下がって先っぽが赤い鼻!
しかも、
教養イマイチ、貧乏で、ドン臭くて、
恥ずかしがり屋で、気位だけは高い……。
(皇族の一人娘ではあるんですけどね)
もう、好き放題言われてますな。

でも、でも、
ドン臭くて、恥ずかしがり屋で、
気位が高い、ということは、
純真で素直だ、ということの裏返し……。
最後の最後には、光源氏によって引き取られ、
妻の一人として晩年を不自由なく過しましたとさ。
めでたし、めでたし……。

そして、光源氏が、この、
容姿のあまりよろしくない赤鼻の女性に、
付けたアダ名こそ、巻名の「末摘花」。
末摘花とは、紅花のことで、
つまり、ハナが赤いってシャレですな!

と、いうことで、紅つながりで、
紅いきのこ、ベニタケの話へ(笑)。

写真のきのこは、アカヌマベニタケです。
名前に「赤」と「紅」が含まれているほどに、
燃えるような真紅の色合いをしています。
でも、どことなく、哀愁を感じませんか?

傘の大きさは直径1〜3cmくらい。
夏から初秋にかけて、トドマツやエゾマツなど、
マツの森の林床で見かけることが多く、
コケの間に生えていることもしばしばです。

傘の表面は、フェルトっぽい触り心地。
やや黄色みを帯びた細かくて鱗片状の、
ザラザラした物質をまとうのが特徴です。
柄は、傘とほとんど同じ色で、中空。
指でつまむとぺこぺこ凹みます。

やや薄暗い林床で、緑のコケの間に、
真っ赤なきのこが生えているのですから、
そりゃあ、目立ちます。
すごく小さいし、毒々しいほど真っ赤だし、
あまり食欲を誘うきのこではありません。
食不適は、まあ、当然でしょう。

三文きのこ写真家は、
アカヌマベニタケのような、
真っ赤で小さなきのこを見ると、ついつい、
光源氏が末摘花に対して抱いた幻想のように、
没落した後運命に弄ばれる悲劇の姫君とみなし(笑)、
ひたすらシャッターを切るのでありました。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする