マメザヤタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

実は、森の中って、
死体がごろごろしているんです……。
いちばん目立つのは、木の死体。
そう、倒木です。

大きな木が倒れたら、
その空間がぽっかり空きますね。
太陽の光が林床まで届くようになり、
機会をじっと伺っていた次の世代が、
競争するようにぐんぐん成長していきます。

倒木の上から次世代が育つことを、
「倒木更新」と言います。
地面よりも高い場所から発芽するので、
生い茂るササなどによる日照不足を解消できるし、
倒木から土壌よりも栄養に富んだ養分が得られます。
厳しい生存競争を勝ち抜く上でとても有利。
阿寒の森の名門、倒木家の一族、とか(笑)。

また、倒木は、次世代の木だけではなく、
コケや地衣類や昆虫や粘菌などの棲み家になるし、
我らが菌類にとっては、大のご馳走にもなります。

ブラボー、倒木!

倒木なくして森は成り立たない、
と言っても、決して過言ではありません。

そしてまた、
倒木をじっくり観察するのが面白いんです。
遠くから見てやや緑っぽく見えるような、
つまり、倒れてから数年過ぎたくらいの、
コケや地衣類が生えている倒木が特にいいんです。

目を凝らして、じ〜っと観察します。
コケにしても、地衣類にしても、
いろいろな種類があって色や形もさまざま。
舐めるように見つめなければ決して気づかない、
小さな小さなきのこや、粘菌などもたくさん。
ほんと、たまりません。

そんな苔むした広葉樹の倒木から、
何やら、黒い物体が、にょきにょき……。
おお、マメザヤタケです。

この、真っ黒い、きのこらしからぬきのこは、
形が本当に多種多様で、すりこぎ形、棒形、
図鑑によっては、倒れ徳利形!という記載があるほど。
英語では、その名も ”dead man's fingers”
「死者の指」って言うらしいです!
そう言われると、そう見える……?
倒木から、黒い指が出てる!
ひいいいい。

さて。
このマメザヤタケ、炭質というか、硬いんです。
大きさは、3〜8cmくらい。
よく見ると、小さなぶつぶつがたくさんあります。
ここから真っ黒い胞子を放出するんです。
マメザヤタケが生えている周りは、
その胞子で黒っぽくなっていることもしばしば。
もちろん、触ると、手がまっ黒に!

割ってみると、中は、逆に、真っ白。
コルクのようなものがぎっしり詰まっている感じで、
老成してくると、それがすっからかんになるとか。

そんなこんなで、毒はありませんが、
硬いし、粉っぽいし、食べるには値しません。

それにしても、都会には緑そのものが少ないし、
たとえあったとしても、管理管理で息苦しいし、
見応えある立派な倒木を探すのは難しいでしょうね。
危ない、とか、見苦しい、とかの理由で、
きっとすぐに撤去されちゃうでしょうから。

都会にもっと倒木を!
なんて言ったら怒られちゃうかなあ……(笑)。
倒木あっての、自然の森なのだ。
なのだったら、なのだ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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