カバノアナタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」
とは『八十日間世界一周』などの著作で知られる、
フランスの小説家・ジュール・ヴェルヌの言葉です。
(言った言わない諸説あるようですけど……)
人間は、より快適な世界を想像しては、
やがてそれを実現してきました。
街を見渡すと、当たり前のことですけど、
人間がつくった便利なものであふれています。

一方、森、というか、いわゆる「自然」は、
調和と秩序に重きを置く人工的な街とは対極とも言える、
非予定調和的混沌的連続変化世界(笑)。
人間の頭の中を具現化してきた街とは、
あまりにも勝手が違って思惑通りに事が進みませんが、
だからこそ興味を惹かれるのかもしれません。

森の主役で、真っ先に思い浮かぶのは木ですが、
忘れちゃならない、我らがきのこをはじめとする菌類。
もし、きのこなど菌類がいなかったら、
森は落葉や倒木や生物の死骸だらけになっちゃいます。

今回登場のカバノアナタケは、
生きた木に寄生して、その木を腐らせるタイプのきのこ。
名前の通り、シラカンバやダケカンバなど、
樺の仲間から発生します。

黒焦げのように見える真っ黒い塊!
落雷の後でも、山火事の後でもありません。
これがきのこだとは、とても思えませんよねえ。
大きなものだと直径が50cm以上にもなります。

生きた木に取りついて、木を殺してしまう。
すると、どうなるか。
木が倒れると、そこに空間が生まれ、林床が明るくなり、
別の新しい命が生まれるきっかけになるわけです。
そう、カバノアナタケなど、生木に寄生するきのこは、
木々を間引いて森を活性化させている、
と言ってもおそらく過言ではないでしょう。

さて、このカバノアナタケは、
残念ながら食べることはできませんが、
抗腫瘍効果などが期待できるということで、
昔から民間薬として名を馳せています。
そのためか、広大な面積を誇る阿寒の森でも、
人目につくものは、ほぼ採取されちゃってます。

ふと、思うのですが、
自然はそもそも人間の思った通りにはならないわけで、
人間も自然がつくったものですから、
人工物と違って諸々が予定調和的には進みませんし、
自分の身体は自分の思ったとおりにはなりません。
カバノアナタケを飲んだからその病気に確実に効く、
と過度に期待しちゃダメなんですよね、きっと。

く〜、それにしても、
自然や人間について考え始めると、
どんどん深みにはまってしまいます……。
でも、まあ、それが面白いんですけどね。

何はともあれ、
人と自然がもっともっと調和できるといいなあ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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