カワラタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

ローマは一日にしてならず、
<Rome was not built in a day.>
なんていうことわざがありますが、
素晴らしい繁栄を誇ったローマ帝国に限らず、
われわれ人間だって、きのこだって、
一日にしてならず、成長せず、ですよね。

庭先や畑や公園で一夜のうちに突然姿を現し、
よくマスコミのネタになる超大型のニオウシメジや、
伸長速度が、何と、1分間に1〜4mm!
見ているうちに伸びていくキヌガサタケなどなど、
きのこの子実体はぐんぐん成長していくので、
きのこは一日にしてなる、なんて思われがちですけど、
元々、きのこの本体は、木や土壌の中に広がる菌糸。
我々の目には見えないところで、
じっくり時間をかけて成長しているわけです。

普通のきのこの子実体は、
にゅ〜っと一気に成長して胞子を十分に撒き散らし、
1週間くらいのうちに姿を消すものが多いのですが、
以前登場した、ツガサルノコシカケのように、
子実体が年々成長していく多年生のきのこもあります。

今回ご紹介するカワラタケも、多年生のきのこ。
サルノコシカケの仲間ほど大きくはならないものの、
年々、着実に、成長していきます。
広く世界中に分布していて、多年生で、
針葉樹にも広葉樹にも発生するので、
目にしやすいきのこのひとつと言えるでしょう。
冬枯れの森や里山でも普通に見られる、
きのこファンにとっては嬉しいきのこです。

その名のとおり、半円形〜円形の薄い子実体が、
瓦のように幾重にも重なって生えています。
(寒い北海道では瓦をほとんど見かけませんが……)

傘の表面は黒〜暗藍色が基調になっているので、
とても地味な色あいのきのこに見えますが、
じっくり観察すると、個体ごとに、
白や灰色、さらには、赤、青、黄色など、
さまざまな色が混じっていることに気づきます。
実にきれいなんだなあ、これが。

固くて食べるどころではないのですが、
このカワラタケの菌糸体から、
クレスチンという抗腫瘍剤がつくられているとか。

カワラタケを見ていると、
個体それぞれが持つ色味は、そのまま、
個体それぞれの個性なんだなあ、と、
当たり前のことが、特別なことのようにも感じます。
環境の変化や、外的な刺激など、
良い事も、悪い事も、すべて含めて、
誕生以降、いろいろな過去を積み重ねて、
今のカワラタケがあるんですねえ……。

すべての生命は、地球誕生以来46億年、
いや、宇宙誕生以来137億年の時を、
全部積み重ねた上に存在しているわけで、
そう考えると、長い長い長い宇宙の歴史の中で、
いま、この瞬間、ぼくと、あなたが、
この地球に、この日本に、同時に存在していることは、
奇跡中の奇跡だと思わずにはいられません。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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