おしい!食べられるんです!
フチドリツエタケ 食
写真と文章/新井文彦

阿寒湖の周辺では、10月の声を聞くと、
最低気温がマイナスになる日も珍しくなくなり、
平地でも一気に紅葉が進みます。

秋の日は釣瓶落とし、なんて言いますけど、
午後4時を過ぎれば、辺りはすでに薄暗く、
本当に、あっという間に、夜になっちゃうんですよね。

三十六歌仙の一人にして伝説の歌人、
猿丸太夫(さるまるだゆう)の歌に、

奥山に
紅葉ふみわけ
鳴く鹿の
声きく時ぞ
秋は悲しき

ってのがあります。
舞台は、きっと奈良辺りなんでしょうが、
これが、晩秋の阿寒の風景にも、
ぴったりマッチするんですよ。
百人一首に選ばれているので、
ご存知の方も多いかもしれませんね。

阿寒の森でも、本格的な秋を迎えると、
夕暮時、けっこう頻繁に、シカが鳴くんです。
「ぴっ」とか「ぴぃ〜」とか言う感じで、
物悲しく、寂寥感たっぷりに。

その声を聞くと、ついつい人恋しくなり、
急いで家に帰って、お風呂へ入って、
暖かくして、お酒でも飲もう、
という気分になっちゃうんですよね……。

ちなみに、
下の句の「ぞ」〜「しき」は、
あの「係り結びの法則」ですな(笑)。

さて。
フチドリツエタケですが、
秋に発生するきのこかというと、
実は、そういう訳ではなく、
5月くらいから、10月くらいまで、あちこちで、
長い期間にわたって、姿を見ることができます。
(発生期間はだいたい1週間くらい)

劇的に味がいいわけではありませんが、
ほんのり甘いような独特の味わいがあり、
そこそこおいしいきのこです。

傘の裏のヒダのはじっこが黒く縁どられているので
「縁どり」という名前がついていると思われます。

この写真の傘に注目していただくと、
白く写っているものは、霜です。
素敵な結晶になっていますよね。

実は、撮影したのは、朝ではなく、夕方。
北海道以外の地域にお住まいの方は、
霜は朝だけ見ることができてすぐに消えてしまう、
という印象をお持ちかもしれませんが、
晩秋の道東の森では、気象条件にもよりますが、
霜が溶けないまま夕方を迎えることもあります。

この写真を撮影した日は、満月でした。
薄暗くなってきたうえに、シカが鳴いたので、
さっさと家に帰ったのですが、
ご飯だけ済ませて、再び戻ってきて、
月明かりに照らされた夜の森を撮影をしました。
ちょっと怖かったけど……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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