ニオイハリタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

朝、家から外へ出たときに、
「ああ、今日から、秋だなあ!」
と、感じたことはありませんか?
まだ、夏の暑さの名残はあるけど、
吸い込んだ空気の中に、ほんのちょっとだけ、
特別な香りが紛れているのがわかる、そんな瞬間。
例えば、そう、ほんのりと漂う、
キンモクセイの香りをその年初めてかいだときとか。
しんみり……。

日を追うごとに夏の余韻が薄れ、
広葉樹の葉が徐々に赤や黄色に色づき始める頃、
阿寒の森は、秋ならではの、
ふたつの特別な香りに包まれます。

ひとつは、カツラの葉っぱが醸しだす、
まるで乳酸菌系飲料のような、甘酸っぱい香り。
雨が降ってから、2、3日経ち、
落ち葉が乾いてくると、香りが一段と顕著に。
いつまでも深呼吸していたいくらい心地いい、
その香りの正体は、食品添加物としてよく使われる、
マルトール、という物質だそうで、
葉っぱをすり潰しても匂わないのに、
落葉して乾燥すると、香りが立つのだとか。
不思議だなあ。

そして、もうひとつが、
この写真の、ニオイハリタケの香り。
若いトドマツがたくさん生えている森を歩いていると、
甘酸っぱい香りが、微かに、ほんのり、漂ってきます。
ニオイハリタケのことを知らなければ、
その、すっきり爽やか系の香りの発生源が、
地面のきのこだとは信じられないでしょうねえ。
さくっと割ってかけらを鼻へ持ってくれば、恍惚。
森の澄んだ空気を結集したような香りの虜になること、
きっと、きっと、間違いなし、です。
誰?トイレの芳香剤の香りとか言ってるのは!

ハリタケ、の名前が示すように、
ニオイハリタケの裏側は針のような突起で、
びっしりとおおわれてます。
若いうちは白いのですが、徐々に、
灰褐色系、暗青色系へと変色していきます。

ちなみに、写真に写っている葉っぱは、
高山植物の、ゴゼンタチバナ。
ニオイハリタケに抱え込まれてしまって、
身動きできなくなってます……。

もし秋の森へ繰り出したら、紅葉を見るだけではなく、
ぜひ、さまざまな香りも、ご堪能ください。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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