不正解、食べられます!
マツタケ 食
写真と文章/新井文彦

もう、説明の必要がないくらい、有名なきのこ。
実際に生えているところを見る機会は案外少ないので、
もしかしたら、写真をぱっと見ただけでは、
名前がわからない方も多かったりして……。

きのこの王様、ですよ。
キング・オブ・きのこ!
そう、泣く子も黙る、日本の秋の味覚の最高峰、
マツタケ、でございますですはい。

炭火で丁寧に焼き、さくっと割いて、
新鮮なスダチをぎゅっとひと絞り。
食べる前に、まず、香りを思いっきり堪能します。
鼻孔から、ふわっと入り込んで脳を直撃する、
その名もマツタケオールという成分の恍惚。
そして、おもむろに、口の中へ。
ぷりぷりとした弾力を歯で楽しむうちに、
口腔を支配していく官能的とさえ言える甘み。
ああ……。

と、一応、世間の一般的意見を鑑み、
ステレオタイプ的な表現をさせていただきましたが、
ぼくは、食べることに関しては、
マツタケにそれほど執着があるわけではありません。
そう、食べることに関しては。

じゃあ、マツタケの、
何がぼくの心を鷲づかみにして離さないかというと、
触感、つまり、手で感じる感覚。
そう、マツタケを見つけて、土の中から引っこ抜く、
まさにその瞬間がたまらないんです(笑)。

びっしりと松葉を敷き詰めた土壌から、
ひょっこり頭をのぞかせるマツタケ。
人差し指と中指で挟むようにして、
指先で、こりこりと、周りの土を掘っていきます。
爪に土が入ろうが、松葉が挟まろうが、お構いなし。
ある程度掘り進んだら、ご本尊をぐらぐら揺らし、
埋まっている深さの見当をつけます。
そして、また、掘り掘り。

大物は手首が入るくらいまで掘り進む必要があります。
ふたたび、ぐらぐら、ぐらぐら。
いける、と思ったら、親指と人差し指に持ち替え、
優しく、優しく、小刻みに、揺らし、
あとは一気に引き抜きます。

すっぽん!

すっと抵抗がなくなり、
マツタケの重みが手へと移動する、
まさにその瞬間の、触感の妙ときたら……。

ほぼ同じ時期に、同じ場所に生え、
マツタケにそっくりの、マツタケモドキでは、
そんな風には、いかないんです。
頭を人差し指で押すと、だらん、と倒れかけ、
手のひらを上にして人差し指と中指で挟み、
手首に、くく、と軽く力をかけるだけで、
ささ、とほとんど抵抗なく抜けちゃうんです。
味も悪いし香りもないし、だから「モドキ」なんだよ!
と、悪態をつきたくなるほど、あっけなく。

す、すみません、いつも以上に、マニアックな話で……。

それにしても、マツタケは、
食べた人々を幸せな顔にしてくれますよね。
たとえば、こんな風に……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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