欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

他にない、という魅力。


糸井 萩本さんがおっしゃった、
「実行すると100%に近く失敗する」
というのは、
いい言葉だなぁと思いました。

……だからこそ、
やればいいんですよねぇ。
萩本 やって、失敗するんです。
それが、いい。

だから、今も、プロ野球について、
「1リーグ制にすると失敗だ。
 だから、2リーグ制がいい」
と、みんなが言ってますよね。

ぼくは
「だから、1リーグにしたほうがいい」
と言っているの。

失敗して、はじめて、
「どうする?」と言いはじめるんです。

そこで、違う意見が、入ってくる。
違う意見が、
何かを整備するんだと思います。

失敗して、
みんながごちゃごちゃ言いはじめると、
隙間ができるんです。


そうすると、あちこちよそものも入ってきて、
どこかで、ひっかかりがでたり。

……ぼくは、「他にない」というのが、
おもしろさのいちばんじゃないかと思ってます。


いま、
「プロ野球は2リーグがいい」
と言う人が80%だというと、
みんながいいと言っているからこそ、
という理由で、自分の答えの中に
「2リーグ制がいい」
というのは、なくなったんです。

「人の多いところには、
 そんなに、いい運がない」
というのが、ありますから。
糸井 いい運が、ない?
萩本 うん。
やっぱり、考えがすぐれてるっていうのは、
「みんなが考えていないこと」ですからね。
だから、みんなが2リーグ制がいいんだ、
と言っているものだから、
2リーグ制はないんだな、
ということだけは、わかったんです。
糸井 萩本さんは、前提として、
「2リーグ制がいい」
という人がどのぐらいいるかを、
聞いてみる時間が必要なんですね。
萩本 はい。
2リーグ制がいいっていうのが
8割いったと聞いた瞬間に、
「よし、これは1リーグ制にまちがいない」
「1リーグ制の何がいいかというところを、
 探さなければならない」
と、考えはじめるんです。

さらに、2リーグ制がなぜいいかという
大多数の話をたくさん聞けば、
1リーグ制がなぜいいかについての、
答えが出てくると思います。
糸井 なるほど。
萩本 だから、なにも情報がないときに、
「どっちがいいですか?」
と意見を求められても、
いつも「意見はないです」と言います。

『欽ドン』では、当時、
「ハガキを読む」という
ラジオで生まれた
スタイルをとりいれましたが、
あれは
「テレビ局が、やるはずがないからいい」
と、ぼくは言っていました。

テレビ局のプライドっていうのがあって、
ラジオから
パクってくることはしないんです。
テレビの人たちは、
いつでも自分をえらいと思ってますから。
ラジオよりすぐれてるし、
映画よりもすぐれてると思ってますからね。
だからこそ、ラジオの企画が当たるはずだ、と。

テレビがどうおもしろいか、ではなくて、
テレビ局の人は、絶対に考えられない番組。

お客さんが、いちばんのぞんでいるのは、
「他がない」ということなんじゃないですか?

だから、企画が似ていても、
出ている人が、他にない新人であったり、
「他にない」があれば、いいんだと思うんです。
糸井 「よそでは買えない魅力」ですね。
萩本 いつも、何をしたらいいかについて、
考えを持っているわけではないんです。

「これがおもしろい」
という答えを出すときも、
まわりのみんなが言ってからじゃないと、
ぼくには、結論や答えが出てこないんです。


「あいつ、おもしろいか?」
そう聞かれても、
「ぼくにはわからない」と答えるだけです。
「今のテレビはどう思いますか?」
それに対する思いは、ないんですよ。

だけど、
「今のテレビはこう思うんですけども……」
そう言われたあとに、
もうひとつの意見が出てきたとしたら、
2つ意見が出てきてからは、
はっきりと、自分の結論が、出てきます。
糸井 なるほどなぁ。
たいへん失礼な言いかたになりますけど、
つくづく、萩本さんは、
「ダメな人の発想」を押し通していますね。

「オレが決める」とかではないんだ……。
萩本 ええ、意見を聞いてからですよ。
糸井 それは、社長の仕事ですね。
萩本 社長の仕事?
糸井 ぼくも、職人として生きてきた人間で、
大勢いる会社を持つのは、最近なので、
社長の勉強しなきゃなんなかったんです。

それで気づいたのは、
自分ひとりで何かをできることって、
社長としては、意味がないなぁ、ということで。
「元気づける」「お手伝いをする」
「そいつの気づいてないよさを見つける」
そういうことをやって、
自分は何もできないという状態になるのが、
いちばん、うまくいくんだと言いますか……。

欽ちゃんが、ぜんぶ材料を出させておいて、
「あ、じゃあ、これだね」
と言うのは、要するに、自我がほとんどない。
そういうことを、やりつづけてきたんですか。
萩本 はい。

あるときに、番組で、いつも
ぼくが考えてやっているようなところを
「これでは、タレントによるテレビの私物化だ。
 ディレクターが考えたほうが
 いいんじゃない?」
そう言って、ディレクターにやってもらったら、
コケちゃったんです。

そのときに、ディレクターが言ったんです。

「はっきり、わかりました。
 次はやっぱり、萩本さんの好きなように
 考えるようにしてください。
 
 実は、番組を作るときに、
 萩本さんが企画を立てたときは、
 『この話は、どうもあやしいなぁ?』
 と思って直していた部分が、8割がたでした。
 
 ところが、ディレクターだけで立てた企画は、
 萩本さんがいじらないで、
 そのまま、流れるようにコケていった……。
 
 だから、どうも、
 言っていることが
 あっていても、まちがいであっても、
 萩本さんが『直す』というところに
 番組の当たりがあるとに気づいた
んです」

よくぞ気がついた、ですよね。
そのあとにできたのが、
『良い子、悪い子、普通の子』
という、あれも当たりましたけども、
ずいぶん、直しました。

言ってみれば、
ぼくは、自信がないんでしょうね。
「正しかっただろ!」
と言うために必死になって、直してゆく。

だから、ぼくには、ひとつとして、
最初に自分が言ったことが
成功した番組はないんですよ。
糸井 おもしろいなぁ!
萩本 言って、修正していくんです。

ですから、
「数字は悪いけど、ぼくは、投げません」
と言うと、テレビ局もやめなかったですし、
「ぼく、半分、投げてます」というときは、
「じゃあ、やめましょう」と言われました。

つまり、修正するかしないかの問題なんです。
今のテレビは、かわいそうですよね。
修正する時間を、与えていないんですから。
  (明日に、つづきます)

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2004-09-13-MON

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