欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/06/02
21 ヤジでは、勝てないよ

糸井 萩本さんが
野球の監督をやってみて、
予想どおりだったところは
どんなところでしたか?
萩本 お客さんが、
野球に、今までとはちがうことを
求めているのは、予想どおりだったね。

ただし、
「ちがう野球」は、もとめていない。
「ヒット打ったら、3塁に走って」とか、
そういうのは、別に、見たくないみたい。

だけど、野球場で、これまでと
ちがうものを見てみたいというのは、
お客さんの反応でも、
予想どおりだなと思ったよ。
糸井 野球の試合がはじまる前とか
試合が終わった後の
遊びかたについては、
実際に経験をしてみて、
どんなふうに、思いましたか?
萩本 うちの野球の場合は、
試合が終わってから、
お客さんが帰らないもんね。
糸井 見たことのない景色ですよね、あれは……。
萩本 お客さんも、
「野球が終わった後には、
 30分間のショーが
 はじまるんじゃないか」
と思って、
動かないでいてくれるんだもんね。
糸井 それを、負けてもやるのがスゴイなぁ。
ふつう、負けるとつまらなくなるし、
ファンに文句を言われないように、
すぐに帰る、となりがちだけど。

社会人野球の公式戦のときに、
「コワイ」ほどマジな顔になっていて、
「コレは、欽ちゃんじゃなくて、
 萩本欽一さんじゃないか!」と、
テレビで見ていても思ったんだけど……
あれは、どんな体験でしたか?
萩本 あれは、もう、苦しかったよ。
野球の勝ち負けのおもしろさに、
持っていかれちゃうんだもんね。

選手でも、
おどすとダメな子と、
おどすと伸びる子がいるでしょう?

1回、「この野郎!」と怒ったら……
まわり、真っ青になって、
「なにか、ご気分の悪いことでも、
 あるんですか」と、きくわけね。
いつも、ニコニコしていたものですから。

「いや、そうじゃないのよ。
 怒ると、選手がどうなるのかを、
 やっただけなんだけどね……」

選手が、どう変化するのかを見たいの。
注意すると、会話が生まれますからね。

「ごはんに連れていっても、
 ひとことも話さない……石か?
 いや、石じゃイイものすぎる。
 石ができるには
 何千年もかかるから。泥か?」

そんな風に、言ってたら、何日かして、
「泥でなく、
 石になれるように、がんばります」
と言ったもんね。
糸井 やりとりで、
そのセリフが生まれたんですよね。

野球チームをやりつづけるための、
お金については、今は、
「セーフ!」という状態なんですか?
つぶれてないように見えるんですけど。
萩本 数字は、見たことがないね。

ただ、
ぼくには、お金は一銭も入ってこない。
心のなかでは、
「はやく、やめなきゃなぁ」と言ってるの。
糸井 (笑)
萩本 冗談で、やっていることなのよね。
プロでもないし、アマチュアでもない。
冗談だから、できることがあるんだ、と……。
糸井 すぐに仕事になることなら
誰もが飛びつくことだから、
おもしろくもないし、独創性もないもので。

ただ、もちろん、
絶対に仕事にならないことなら
やらないほうが、いいはずで。
だから、目的がわかれてきますよね?
「この局面では、
 トントンでいいんだ」とか、
「これは、
 この目的のためにやること」とか。

つまり、萩本さんの野球は、
総合的に見れば、大成功だと思うんです。
萩本 選手には、
「気持ちのいいヒット、打ったよね!
 思いきって、20万円、出しといて!」
とか、言ってるの。

でも、心の中では、
「……そのお金、
 どこから出てくるんだろう?」
と、思っているのよ。
糸井 (笑)
萩本 「あとで、請求書が、
 ぼくのところに来るのかな」とか。

もちろん、
お金は、かかるつもりで、
やりはじめたんです。
ただ……持ちだしては、いないんですよ。

「選手に払うギャラとか、
 コーチに払うギャラは、ないんですけど」

そういうことは、みんな、ないの。
だから、球団運営は、うまくいっています。
うまくいっていないのは、
ぼくのところだけだよね。
糸井 もしかしたら、
入園料をたくさん払う人こそが
VIP待遇を受ける、
みたいなことかもしれませんね。

球団という、でっかい遊園地を、
「オレが言ったら、好きにやらせてね!」
と、その権利を、
買っているとも言えるのかもしれなくて。
萩本 そうだよね。

ただ、選手には、
「給料、出してやるよ!」
と、言っているんです。

ただ、ね……
どこから出てるか、気づいてくれる人が、
ひとり、いてくれるとうれしいんだけど。

「それよりも、
 監督、あなたがもらったほうが
 いいんじゃないの?」

ぼくなら、そう言える選手になりたいな。
糸井 (笑)
萩本 誰か、言わないかなぁ、と思うんだけどね。

まぁ、
「野球は、ぼくの遊びなんだ」
と思ったら、最高の舞台なのよ。
糸井 萩本さんたち、今度は、
インドにいくというのはどうですか?
萩本 うん。いいよね。

選手たちは、
メジャーにいきたい、とか言うじゃない?
だから、逆のことを、したくなるもんね。

ぼくがいったのは、
「今年は
 野球をやってない、
 サッカーのさかんな
 ヨーロッパに
 挑戦しにいこうよ!」
ということなんです。
糸井 「もう、何時間、
 バスに乗ってるんですか!」
選手がグチを言いだすぐらいの距離で。

インド、いったことがあるんですけど、
バックミラーどうしが
ぶつかりあうような運転で
8時間ぐらい、
バスに乗っているあいだじゅう……
ずっと、外の景色に人がいたんです。

球場のラインを引くところから、
ユニフォームを寄付するところから、
地元の人たちと
ふれあうみたいなやりとりを、
欽ちゃん球団がやったら、
いいだろうなぁ、と思いました。

なにが起こるか、
わからないことをするのが、
おもしろいんだもんね。

インドは、観客は、いてくれますから。
萩本 それなら、理想ですよ。
糸井 ロケで、
人力車が1台、必要だったんです。

すると、
ものすごい勢いで
ウワサがひろがって……
人力車が、100台ぐらい
集まったことがありまして。

「……そんなに、要らない!」

でも、なんか、おもしろい景色になった。

ひとりにだけ、
ギャラを払ってロケバスに乗ると、
集まったほかの人力車たちに、
追いかけられて……。

ぼくがいったのは
南インドですけど、
そういう「混乱」のなかに、
野球が飛びこむことは、
おもしろいと思うんです。

欽ちゃんは、
マイクを持って、なにを言うのか?
それを、見てみたいなぁ。
萩本 ただ、
知らない国にいって、
いきなり
日本語で話されるのって、
すごいガッカリしません?

ぼくは、びっくりしたのは、
ドバイの空港にいって、

「おぉ、欽ちゃんー」

着いて、いきなり、
「欽ちゃん」って、ききたくないよね。
糸井 (笑)
萩本 びっくりして
「あれ?」って言ったら、

「ウン、東京に、いたの。
 今、こっちに来てるの。
 桜新町に、住んでたの」

飛行機に9時間も乗ってきて、
いきなり「桜新町」と、
きいたからなぁ(笑)。



(ふたりの会話は、
 いったん、ここで終わりますね。
 ご愛読を、ありがとうございました。
 萩本欽一さんの「ほぼ日」への次回の登場を
 どうぞ、たのしみに
 していてくださいませ!)
 
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