欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/24
15 コンビを、組もうよ!

糸井 萩本さんは、
お客さんも、敵対相手さえも
相方だと思えるから、
飛びこんでいけるんだろうなぁ、
と思いました。

「コンビを組んでみないとわからない、
 まずは、組んでみようよ」というか。
萩本 ぼくは
二郎さんとコンビを組んだときに、
いちばんはじめに、
話しあったことがありまして……。

「コンビって、
 みんな、ケンカしているよね。
 仲のいいコンビ、見たことないね。

 あれってさぁ……
 親しくなろうと近づいちゃうと、
 仲が悪くなるんじゃないの?
 だから、
 いつも、わからねぇヤツでいよう」

ふたりでいっしょに、メシは食わない。
糸井 それは、発明ですよねぇ。
萩本 ですから、
ケンカはしたことがありません。
そんなに、知らないんですから。

このあいだ、
二郎さんが舞台で復帰したときに
(脳梗塞による長期入院から
 芸能界に復帰した際の舞台)
二郎さんが、
「欽ちゃん、ありがとう!」
舞台で、泣いたんです。

その涙を見たときに、はじめて
「あぁー!
 坂上二郎と組んでよかった!」
と言ったの。
ぼくも、涙、ボロボロ、流しちゃった。

今まで、
それを言える機会がなかった。
コンビを組んで40年も経ったんだけど。

だから、ずっと、いいコンビです。

二郎さん、
体が動かなくなったときに、言ったの。

「車椅子でも、出るからね。
 相方っていうのは、
 体がどうのこうのじゃないから、
 とにかく、出ているから」

二郎さんに、
ぜんぜん、気を使わなくていいんだもん。
目線がおなじまま、やってきたけど、
「欽ちゃん、ありがとう」
と言われたときに、泣けちゃってさ……。

はじめて、
「ずっといい相方だったんだ」と思えたの。

それまでは、むしろ、
「こいつには、負けない!
 アドリブ飛ばさないと、負けになる!」
と思っていたんだな、ともわかったのよ。

お客さんを笑わそうとしていた、だけではない。
二郎さんに、負けちゃいけないぞ、と思って、
ひっちゃきになって……
だから、向こうも、飛んだんだよね。
「飛びます、飛びます」って。

会社にしても、
社長ひとりが責任をとるんじゃなくて、
ふたりいたほうがいいよね。

「これは、謝罪しなければなりません」
「オレは、ほんとは、あやまりたくない」

ふたつの意見をいえないとさ。
糸井 それに、お客さんともコンビなんですからね。
野球も、
「ヘタだけど人気があるチーム」だとか、
 魅せるプレイのうまいチーム」だとか、
いろいろなお祭りを見せるなら、いいわけで。

すぐれた人たちの、
ほんのすこしの差を競わせるのも
ひとつの遊びだけど、それだけでなくていい。
萩本 アマチュアの野球には、
アマチュアなりのやりかたがあるんです。
「そんなことやって、勝つわけがないだろう?」
そう言われたものを、ぜんぶ、とりいれる……。

勝っちゃったら、
プロも変わるかもしれない。
糸井 魅せるプレイと勝てるプレイを
矛盾させないでできないかなぁ、というのは、
見る側なら、みんな、望んでいることですし。

すごくすぐれている
代表選手のようなイチローさんなら
背面キャッチをして見せるんでしょうけども、
魅せる野球は、その道だけではありませんよね。

「あいつを、追いかけてみたいんだよ」

と思わせることだってあっていいから……
やっぱり、ヒントは新庄選手にあるんだと思う。

新庄選手は、追いかけてみたいと思わせるもの。
それでも、野球になにも迷惑はかけていないし。

「ホームスチールをやったのかぁ!
 ホームスチール……あったなぁ、そんなのが!」

野球のゲームの豊かさを、
思いださせてくれますからね。
萩本 元日本ハムの広瀬(哲朗)さんは、
だらしないショートゴロを打っちゃって、
もう、完全にアウトなのにもかかわらず、
1塁に、すべりこんでいたもんなぁ。

「だって、
 すべりこむぐらいしか、
 見せるものがありませんから」

やっぱり、お客さんに見せようとしている。

アテネオリンピックの野球の準決勝で
谷さんがケガして倒れこんだときには、
「あぁ、ぼく、監督になりたかったよ!」
と思いました。

準決勝の最後のバッターとして
谷くんがアウトになって、しかもケガなのよ?

そこで、
トレーナーがおんぶしていたんだけど、
それでは、絵にならないじゃない?

あれ、松阪くんが
飛んでいっておんぶをしてたら、
日本で見ているお客さんたちは、満足だった。
それなら、日本は、銅メダルでもよかったの。

「心を打つ絵がない」のは、さびしい。
糸井 「おいしい料理だから、
 アルミホイルの上にのせてもおいしいんです」
と言われても、こまりますからね。

最高の料理を載せるのは、
最高の陶器か、なにげない木の葉か、
見せかたがありますから。
萩本 あのオリンピックの準決勝は、
誰かに、演出してほしかった。

トレーナーが飛びだそうとするのを見かける。

「ちょっと待て!
 ……おまえじゃないだろう。
 気持ちはわかるんだけど、
 なぁ、みんな、谷は仲間だろう?」

ハッと気づいた選手が、飛んでいけばいいの。
糸井 野球以外のものも、見たいんですからね。
萩本 選手の「気持ち」が、
野球のテレビ中継から、
見えてこないなら、つまらないもん。
糸井 試合のあとに
「ものすごくながい監督の談話」が
あってもいいんですからね。

将棋に、感想戦って、ありますよね?
萩本 あぁ、あれ、名人戦なんか、
1時間ぐらいやってるよね。
糸井 野球のあとも、
そのままお客さんといっしょに
「……では、まずは1回の攻撃のお話から」
これは、できたら、たのしみになりますよ。
萩本 負けても、それがあるといいよね。
お客さんが、さけぶの。
「なんで、あのピッチャー、出したんだ!」
糸井 「いやぁ……監督としても、
 コイツのこんなにかがやいた目を
 見たことがなかったものですから。
 だって、絶好調って言うんだもん!」
萩本 (笑)野球を見ていると、
選手のインタビューの絵がおなじですからね。

選手のほうでも、なにかもう
あんまりしゃべりたくないと思っていますよ。
だからそれこそ、音楽も入れて、演出も入れて、
それで、ほんとに深いところを話したら、
野球が、また、おもしろくなるじゃない?

「仕事で、試合にはまにあわなかったけど、
 あいつらの話だけでも、ききたいんだよなぁ」
って、集まってきたりして。
糸井 「オレ、今日、もう第2部だけでイイわ」
萩本 「監督、このあたりは
 お客さんが飽きていましたよ?
 これは、課題ですねえ」
アナウンサーも、ちがうことをきくの。
糸井 「うるさいぞ、解説!」

「いやいやこれだけは言っておかなければ」
萩本 野球がわからなくても、
「現場で話している言葉」が
おもしろかったりしてね。
そういうのも、いいんだよなぁ。



(次回に、つづきます)
 
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