欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/17
10 おなじ絵は、つまらない

糸井 野球の選手の記録を
注意してながめてみると……
お客さんたちの
記憶に残っている有名な選手でも、
数年間をのぞいたら、
だいたい、平凡な記録なんです。

そういうなかで、
とんでもないスーパースターだけは、
ずっと、いい記録なんですね。

ほんとうにすごいヤツでいるには、
親からもらった環境も含めて
すごい運が要るのだろうし、
ほんとうにすごいヤツというのは、
ひとにぎりのめずらしい動物、
みたいなもので、
それは尊敬すればいいだけなんです。
だいたいは
「まぁ、たいしたことはないよなぁ」
という人間の集まりですから。
萩本 うん。そう思う。
糸井 ただ、最近、
高校野球を見ていると
準決勝とか準々決勝とかの
ぎりぎりの試合で
ピンチに陥ったとしても
選手が泣きそうなときに
監督が笑っているじゃないですか。

ああいうことは、昔は
ぜんぜんなかったと思うんです。

笑う監督が、出てきた。
その次には、萩本さんで、
「笑わせる監督」が登場したという。
萩本 テレビで
高校野球の選手に
インタビューしている絵も、
もう、何十年も、おなじなのね。

あれ、どうにか、変えられないかなぁ。
おなじ絵って、みんなが、飽きるんだ。

背景を変える程度の変化でも
お客さんの見方って、変わるんだから。
それに、試合が終わって時間も経って、
気持ちがさめたところで
インタビューしていると、
選手たちも、冷静になっちゃっているよね。

「すみませんけど、
 絵が熱くないと、
 テレビ、見たくなくなりますよ」

そういうことをきいて、
「あ、それ、いただいて、トクしよう!」
とか、あくまで自分の利益を考えて実践する、
というテレビ局があれば、いいんだけどねぇ。

かつての巨人戦は、
「週に5日も放送していた2時間特番」
で、それがゴールデンで
視聴率を20%もとっていたんだから……。
それが、今になったら、視聴率が
シングル(10%未満)だっていうんでしょ?
コレはちょっと……チャンスがありますよ。

20%を狙える2時間特番を、
シングルに落としちゃったんだから
がんばれば、これ、またあがりますよ。

野球のえらい人たちのところに行って、
「野球人気を復活させるには、
 このぐらい
 足を踏みだすべきだと思うんですけど、
 いいですか。怒らないでもらえますか」
そんなふうに、
許可をいただくところからはじめて……。
糸井 監督の抱負の出しかたも、
工夫がほしいところですもんね。

「○○野球」とかいうふうに
名前をつけても、おもしろくない。

それよりは、
みっつだけ、箇条書きで宣言するとか……。
「怒らない」
とか、ね。
萩本 いいねぇ。
糸井 そうすると、
ニュースで伝えやすいじゃないですか。
あの監督は、これとこれを約束した、と。
選手も、約束を見れば、動きやすくなるし。

それと、
スポーツになると
ものを投げつけるとか
「あの野郎が」と怒るとか……
とにかく、人が変わるでしょう?

「野蛮だから、いきたくないな」と、
あれで失っている人気も多いと思うんです。
萩本 それ、
近いことを考えてたの。
1塁の近くで、
ランナーをヤジるじゃない。

でも、
1塁の近くには
ほめ上手な集団だけを
座らせたらいいと思わない?

サードゴロで倒れちゃった。

「でも、
 おまえのおかげで
 たのしめたぜ!」

かならず、
そういうことを言えるヤツが
1塁の近くにいたら、うれしいよ。

ヤジを飛ばすと、退場になる座席……。

どんなに三振をしても、
「オレは、
 おまえが好きなんだ!
 おまえが、三振でも
 おまえのことは、
 名前だけでも好きなんだ!」

ほめ言葉を
いつも考えているヤツがいる席。
糸井 いいですねぇ。
萩本 ぼくは
芸能界から来たものですから
野球の選手の動きで
気になることがありまして……
外野手も、キャッチャーも、コーチも、
客席に、お尻を向けてやっているんです。

試合では
どうしてもお尻を向けちゃう。
それは、仕方がないけど、
一息ついたときぐらいは、
お客さんのほうを見てほしいよね。

ネット裏の、
値段の高い席で見ているけど……
「キャッチャーも、
 三振をとったら、
 うしろを見てくれないかなぁ」
とずっと思っていたの。
顔、見ないまま、試合が終わっていく。

「おーい、一度も
 おまえの顔が見ないままかよ!
 頼むから顔を見せてくれよな」

9回もの長丁場で
うしろ姿しか見えない、
というヤツがいるのは、気持ちが悪いよ。

「お客さんに、顔を見せたい」

そういう思いがあるだけで、
球場で見える絵が変わってくるんです。

ホームランを打ったヤツに対して、
ベンチから、
みんなが出ていってハイタッチ、
というのを、どこでもやるじゃない?

どこでもおなじ絵、というのは変えなきゃ。

いちばん、そのホームランがうれしかったヤツ。
たとえば、ピッチャーとか、エラーをしたヤツ。

そいつが、ひとりでむかえに出かけて、
「どうもありがとう」
とやれば、動作から、会話がきこえてくるのよ。
「あいつ、最近、勝ってなかったからなぁ……」
と、客席も、もりあがる。

いい芝居って、演技で言葉がきこえてくるんです。

だけど、今のままの野球だと、
いい言葉がきこえてこなくて……。

現場の言葉が、きこえてこないの。
現象だけを見せちゃっているから。
糸井 ホームランを打った選手と
よろこぶ選手とが、
セットになっているわけですね。
萩本 コンビなんですよ。
群衆が集まってる絵で
「わーい」というよろこびは、伝わらない。



(次回に、つづきます)
 
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