欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/16
09 すぐれてなくて、いいの

糸井 萩本さん、
これだけ野球監督として
毎日タフな生活をつづけてきて、
実際に、倒れそうになったりは
しなかったんですか?
萩本 今までは、ない。
逆にどんどん元気になるね。
糸井 前よりも
元気になっているのは
わかるんですけど。
萩本 そういうもんだよね。
だいたい、舞台をやっていても、
初日から5日目か10日目ぐらいまでは
まだまだ、体が、重いものなんですよ。
だけど、だんだん、
脂身がなくなっていく……。
体が軽くなって、
やっといい体調になったころぐらいに
「え、もう楽日なの?」
そういうものですから。
糸井 体重は、減った気がしますもんね。
萩本 確実に10キロは減りました。
前にはいていたズボンは、
げんこつがふたつぐらい、はいる。

結局、
最初のころは、
野球の世界の言葉の使いかたに
「もう、いいかげん、
 チョンマゲは、取ってくださいね」
と思うときがありました。

「なんで、それをしたらいけないの?」

「うーんと……公式戦だから。
 今まで、ズッといけなかったから」

言葉が、守りに入っちゃっていて。
糸井 もともとは、
江戸時代から
ずっとつづいている
伝統のスポーツでもないのに、ですよね。
萩本 うん。
だから、
ユニフォームを着ていない人も
言葉で伝えることが、
野球を変えるんじゃないかと思ったんです。
「内部に入っている人」だけでは変わらない。

お客さんは、
「変わってくれ!」と言いつづけているんです。
だから、変わるんじゃないかなぁ。
お客さんは、もうすこし、
イヤなことには、怒ったほうがいいと思う。
糸井 ボクシングを見る人は
世界的に少なくなってきていて、
ヘビー級しか
商売にならないようなところまで
来かけていますよね。

そのいっぽうで、
まがいもの扱いされていた
K-1やPRIDEにお客さんが集まっている……。
あのぐらいの変化が要るのかもしれませんね。

ボクシングは、
約束ごとや決まりを守ってきたとは言っても、
実は、それでも、それなりに
「あれ、こんなに階級がたくさんあったっけ?」
というようなしかけは、あったわけです。

チャンピオン戦をたくさん組めるように
階級を増やしたけど……
そうやって建前を守りながら
お客さんを増やそうとしても、ムリだった。

格闘技は、プロレスでなければ、
毎日のようには、興業ができなかった。
だから、
「毎日できなくても
 商売になるやりかた」を考える必要があった。
野球は、毎日のようにやれてしまうから、
「考えない」という弱点があったかもしれない。

野球は、
選手が止まっている時間も長いし、
息の切れない遊びだと思うんです。

そこを、完全に
アスリートなスポーツにしてしまうのか、
それとも、もしくは、
将棋の手を考えるようにゲーム性を高めるのか、
それから、別の娯楽性を発展させるのか……
野球のおもしろさを担う軸の
どれが、自分のチームなのかを
もういちど、作りなおす必要が
あるんじゃないか、
と思うんです。
野球だけじゃないおもしろさがあってもいいし。
萩本 糸井さんのような人たちが、
好きなことを言って
野球を変えるのがいいなぁ、と思うんです。

「こいつ、
 選手にはダメだけど、
 しゃべりはウマイぞ」

そういうヤツが
テレビに出るようになって
人気だけある、というのもいいですよね。
それで、ピンチヒッターで
1球だけ投げたり。
糸井 萩本さんの方針は、
「人に、とりえあり」ですね。
萩本 そう。
欠けてる人どうしをつなげるの。

打つのスゴイなら、打つのだけ練習しなさい。
守るのが好きなら、守りだけを練習しなさい。

そうすると、
おたがいに「かばう」ってのが出てくるんだ。

とりえが伸びて、ダメなところは助けてもらう。
そうすると、友情が、出てくるじゃない。

コンビを組んだらいい。
「ぼく、すごい打つんですけど、
 守れないんです。
 だから、コイツを連れてきました。
 コイツ、守りますよー」

すぐれたヤツは、
もうひとり、誰かを連れてってあげないと。
10人のなかで、
すぐれたヤツがひとりいたら、そいつが、
9人を面倒見てあげればいいんじゃないの?

ついつい、日本の組織って、どこでも
全員をすぐれさせようとしちゃうけど……
全員がすぐれると、ケンカになりますよ。
すぐれたヤツどうしの組みあわせは、
ぶつかっても、妥協しないですから。
糸井 すぐれているというのは、
保護動物みたいなものですからね。

落語でも、名人と呼ばれた人は、
たとえば文楽さんが生きている時には、
「文楽さんも緊張感があって、
 客席にも、緊張感がありました」
とか言われるし、
そのとおりだったんだろうけど、
そのすぐれた状態は、ふつうの
いわゆる「落語」とはちがうものですよね。

そういうような保護された伝統芸能は、
落語でなくても、
たとえば国立劇場のなかで
国から保護されてつづいていたりするけど……
保護されているものは、もう
現代と「ズレ」があるんだと思うんです。

だから、勘三郎さんは
そういうところをわかった上で、
かせげる歌舞伎を、やろうとしている。
テレビにも出るし、子供も、
役者ができるように育てているし、
ああいうところに、
次の生きかたがあるんだと思います。

すぐれているからって、
「触ったら怒るから、注意しろよ!」
では、化けもの扱い、ですからね。

すぐれていないヤツが
みんなたのしいという世の中が、
いいんじゃないかなぁ。
萩本 そういうことですよね。
すぐれていないヤツが、
悔しいとか、なんとかしようとか、
もがいていることが、
大きな事件になっていくわけで……
すぐれていなくてもいいの。

なぜかっていうと、
すぐれていないヤツは、
すぐれたヤツが、助けてくれるから。

この「助けてくれる」が、今、ないよね。
「おまえも、すぐれたヤツになれ」
これは、つらいですもん。

だから、アマチュアがいいと思うんです。
三拍子そろっていないし、
すぐれていないんだから。



(次回に、つづきます)
 
感想は、こちらに もどる 友だちに知らせる
©2005 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.