欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/04/26
01 野球と言葉

萩本 あ、糸井さんだ。こんにちは。
糸井 監督、こんにちは。

きていただいて、
どうもありがとうございます。

すっかり、野球の監督ですね。

いちばん最初に、
「ほぼ日」の対談で
「野球の監督をやりたい」
とおっしゃっていた時は、
まだ、こういうことは
動きだしていなかったもんなぁ……。
萩本 なんにも、なかったです。
ないから、あれだけしゃべれちゃった。

糸井さんとしゃべったあと、
しばらくして、芸能記者に
「欽ちゃん、今、何やってるんですか?」
ときかれて、糸井さんに話したみたいに
「今は野球監督しかやる気がない」
といったら、すぐにスポーツの記者がきて。

スポーツ新聞だから、
おんなじ会社でつながってんのね。

「本当にやりたいんですか?」

「ほんとだよ。
 芸能界には野球人が、みんな、
 簡単にきて、才能を活かしてるじゃない。

 芸能界にだって、
 たくさん才能あるんだから、
 野球界に、芸能人が
 なにかできる場もあるんじゃないの?」

糸井さんに、チーム名を
「ゴールデンゴールズ」と
つけていただいたときの新聞記事では、
迷惑がかかったんじゃないか、
と心配だったんですけど。
糸井 いえいえ、
ぜんぜん迷惑ということはないです。

野球という娯楽については
「あとはもう、お祭りの問題だな」
と、そもそも、思っていたんです。
萩本 あぁ、わかる。
糸井 もともとは宗教儀式が
おおもとだったけれども、
神さまに対して五穀豊穰をねがうだとか
いろんな意味のために
仕事を休んでみんなで集まって、
ある意味では無礼講というか、
ふだんなら
「悪いこと」とされるようなことまで含めて、
日本人は、お祭りをしましたよね。

今でも
だんじり祭りで死人が出るとか、
「御柱祭り」でも
なんだか毎回えらいことになるらしいけど、
法律でも止められないこととして、
お祭りは、あったんだと思うんです。

だけど法律と商売だけが
すべてになっちゃった時代には、
野球というお祭りまでもが、誰かが
「商売か規則かどっちかにしてね」
みたいに管理しちゃった……。

プロ野球も、
いろんなことが言われてますけど、
おもしろいお祭りがあれば
お客さんは、いくわけですから。
草競馬とか、地方でさかんですもんね。

阿波踊りは、阿波踊りを見る席を
確保するだけでもたいへんなほどだし、
阿波踊りから派生して
近くでよさこいが生まれて
今度は全国的にひろがっちゃったり……。

お祭りをお祭りとしてなりたたせるために
動きだしたなら、
そういうものは、当たるんです、きっと。

すごい優れた人たちを集めて、
ちいさな差をきそわせるのも
ひとつの遊びだし。

差なんてないけど運だけあるようなものとか、
ヘタなんだけど人気があるものとかを
見せることだってお祭りだし。

いろんな人が、いろんなお祭りを
作っていくというのが
おもしろいんじゃないかなぁと思っていて。
萩本 うん。
「お祭り」という言葉が、
今、なくなっちゃってるってことね?
糸井 そうです。
あちこちに、お祭りが足らないなぁ、
と考えてたんですけど。

プロ野球の場合は、さいわい、
さまざまな騒動のおかげで、なにかが
ひっくりかえりはじめたんだと思うんです。
だからきっと、萩本さんの野球での役割は
「お祭り」を作る人なんですよ。
萩本 盆踊りったって、三日とか一日なんだよね。
野球なら、一年中できるもん。

だからぼくも、話していたのが、
「どれだけ大きく球場にたてなおすか」
とかよりも、
あそこにたこ焼き屋さんがいて、とか。

そういう
にぎやかな縁日のなかに
野球があるということだから、
だから、やっぱり、お祭り気分、だったね。

今は、監督になって二年目ですけど……
選手たちが、野球の練習をしているのを見ると、
「なにやってんの?」
「なんのために、やっているの?」
と思うことが多いんです。

横からタマをふわっと投げて、打つ。
トスバッティング。

あれ、なんで、やってるんだろう?
選手にきいてみたの。

「なんで?」

「力強く打つ練習をしています」

「なるほどねぇ」

でも、試合のときに
そいつは三振していて……必要なのは
「力強く打つ練習」じゃなくて、
「バットに当てる練習」だったんじゃないの?

「トスバッティング、やってます」

それは、わかった。

でも、
なんのために、やってるの?
なんの練習を、しているの?
それを、はっきりしてほしかった。
糸井 野球は、進化しちゃった
スポーツですからね。
昔の、それこそ大下の赤バットだとか
川上の青バットだとかいうときには、
そもそも、セオリーを知らないわけで、
そういう
「知らないときにひねりだした考え」が、
野球の原点なんだ、と思うんです。

そのときに、
なにを考えて、なにをやったのか。

今の選手たちが
「知らないときにひねりだした考え」
のように、できているかどうかが、
きっと、重要なんだと思うんですね。
萩本 そうですねぇ。
糸井 なまじ
セオリーが進化した分野にいると、
知れば知るほど、
「やらなきゃいけないこと」が
増えてくるような気がしちゃうんです。

今、
社長のためのビジネス書なんて読むと、
「しなきゃいけないことだらけ」だもん。

ぜんぶやろうとすると
がんじがらめになるから、
イヤになっちゃって、なにもできなくなる。

これ、テレビとかでも、そうですよね。
番組表にあれだけの数の番組が並んでいて、
どれも、みんな、おもしろい、と書いてある。
見るほうは、どんなにテレビが好きな人でも、
「こんなにぜんぶ見ていたら、
 俺、バカになっちゃうぞ」と思いますもん。
萩本 うん。

選手に、言ったんです。

「あのさ、自分の欠点、
 これはダメだってところ、教えて。
 それを、練習すればいいんだから」

「自分のダメなところは……
 年齢が、37歳だっていうことです」

これだと、
練習しても35歳にはならない……
野球人がかわいそうなのは、
欠点がわからないということだよ。

自分が、見られない。
糸井 いちばん
会ったことのない人って、
「自分」ですからねぇ。

みんなが自分に会っているけど、
自分は、自分に会ったことがないですから。
萩本 笑いの場合、
そこはラクなんです。

ダメなら、
お客さんが笑わないから。
お客さんの反応で、すぐに欠点が見えてくる。

笑わなければ、なにがいけないかわかるけど、
打てないのは、
どこをなおせばいいかがわからない。

バッターから
打てなくてかえってきたあとに
「いやぁ……いいタマ投げるなぁ」
と言われても、
進歩が想像できないんです。

言葉の使いかたが、
おかしいんじゃないか。

「ちょっと、
 右脇の筋肉の使いかたが悪かったなぁ」
と言われたら、
「次、打てるんだな」って気がするけど。
糸井 (笑)

スポーツは……むずかしいですよねぇ。

言葉にならないことを、
そもそも、しているんですから。
踊りのセンスのいい子が、動きながら
「こうだろ?」とかいうものに近いから、
言葉にするのは、きっと……無理ですよね。

だから、プロ野球選手は、
自分のフォームをビデオで研究したりするわけで。

ただ、いいチームには、
他人のぶんまで勉強しようと見ているヤツがいて、
「おまえ、こうなっているぞ」
と、先に言葉にできちゃった人が
プレゼントするようにして、
磨いていくんじゃないですかね。

だから、自分で自分を補強するという
ピン芸人的な発想は、できないんじゃないか。
萩本 そう思う。

タレントでいうと
「おまえ、三か月で、
 とてつもなく変わったねぇ!」
と「変化」についての話ができるんだけど、
野球は、それがすごくむずかしい……。

毎日、練習をしているみたいなんです。
それでも、進歩が見えにくいですから。
糸井 相手も、いますからね。
ゴルフなんて
止まったタマを打ってるのに
好不調の波があるんですから、
相手がいれば、
なおさらむずかしいでしょう。

「打てない理由が説明できるから
 今、打率が出ていなくてもだいじょうぶ」

たとえば、そういうことを
イチローさんが言えるのは、
プロの中でも、特別にわかっているからで、
しかも、そのイチローさんの
特別の技術についてきいている側としては、
「そのとおりですよね」
としか言えないですよね。本人のことだから。
萩本 イチローさんに関する言葉がおもしろいのは、
「打てていて当たり前」のイチローさんが、
たまたま打てていないときに、
野球解説者が、どう解説するのかですよね。
その解説者は、どこまで、なにを言えるのか……。
糸井 「あぁ、運が悪かったですねぇ」
とか、ロコツに
逃げちゃったらおもしろいですね。
萩本 (笑)

イチローさんが打てているときには、
解説者たちは、
みんな、おんなじことを言うもん。
言葉が一緒になるのは、つまんないから。

もともと大好きなんだけど、
だから、今、イチローくんに夢中。
ここで、どうもがいて
たてなおしていくのか……それを見たい。
糸井 そういう言葉の中で、決めゼリフというか、
逃げのセリフが、いくつかありますよね。

「思いきりスイングをしたときは、
 野手のあいだを抜ける」

ポテンヒットを打ったときに、
ふりきったから、
あそこに落ちたんだとみんなが言いますけど、
ほんとにほんとの原因は……そうなのかなぁ。

そういう、
「ほんとは
 それで説明できているとは思えないけど、
 これ以上は、考えないことにしよう」
という、見えないヤミの協定が、あるような。
萩本 ながい野球中継の歴史の中で、
「いまだに
 いい言葉が見つかっていないもの」
が、いくつかあるんですよね。
失敗してるんだけどうまくいったとき、とか。
糸井 「不振のときには、
 野手の正面を、つくんですねぇー」

これも、説明ではないですよね。
「運が悪いよね」
って言ってるのと、おんなじだから。

そういうことよりも、むしろ単純に、
ランナーが出ると、
守備がベース寄りにならざるをえないから
本来なら、つまんない打球が、
どんどん、野手のあいだを抜けたりしますよね。

「チャンスに強い選手」とか言いますけど、
そもそも、ランナーが出ただけで、
ヒットの確率が高くなるというようなことは
事実としてあるので、解説者には、
そういうことを、素人に教えてほしいんです。

そういう話をきいただけで、
何倍も、野球をおもしろく見られるもん。

(次回に、つづきます)
 
感想は、こちらに もどる 友だちに知らせる
©2005 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.