欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

驚く、という演出。


萩本 「あのとき、当たった番組をやってくれ」
と言われても、なかなか、当たらないんです。

現場のスタッフたちを
うきうきさせてくれる人が、いるかいないか。
これが大きいんじゃないでしょうか。

番組のたのまれかたひとつにしても、
「こういうのが、見たいですねぇ」
「こういう番組、やりたいですね」
というのは、まず、当たらないでしょう。

当たるときは、
「しましょう」とか、
「します」という言いかたをしますから。
糸井 なるほど。
萩本 テレビ局の人が
「したいですね」と言うと、
実現に、半年ぐらい、かかっちゃうんです。

そこでいろんなことを考えてしまうから、
失敗をしないんですね。
失敗をして、転げまわるようなことをしないと、
絵が死んでいるのが、そのまま出ちゃうんです。
糸井 要するに、「おさまっちゃう」んですよね。
萩本 「しましょう!」
という番組をすぐにはじめると、
失敗するんですね。

ただ、タレントが失敗を意識したときには、
目が輝くんです。焦るから。
焦ったときって、ほんとに本心ですからね。
目は、どうしたって、生きてきます。


目が、
死んでいるのと生きているのとでは、
大きな違いですよ。
それが映るのが、テレビなんですから。

やっぱり、
「よくできてる」とかじゃなくて、
「生きている番組」が、おもしろいんだと思う。

だから、
「まちがいなく成功するためには」とか、
「金メダル取るためにはこうする」とか、
そういうものではないような気がするんです。

考えて、ずーっと計算をしていったら、
ほとんどイヤになっていっちゃいますから。

土屋くんが、『電波少年』を作ったときも、
「やった」と思ったかというと、違うだろうし、
「ああいうテレビになると予想して作った」
というよりは、「ああなった」のだろうし……。

いま、土屋くんは、
テレビ番組を作るのとは、違う部署にいる。

これは、きっと、
番組をやりたくてやりたくて
しょうがないんじゃないですか?

だけど、そう思ってすぐにやらすと、
すべりますね。

きっと、いま、やりたいと思ってます。
頭が、パンパンだと思いますよ、土屋さんは。
糸井 高校生が、前を膨らまして歩いているぐらい、
テレビ番組のことばかり、考えてるかも(笑)。
萩本 そうするとね、
もうやりたいことが完璧にできているでしょう?
そうするとね、不本意がないんですよ。
だから、失敗すると思います。

ぼくが日テレの局長だとしたら、
「これはやりたがってるから、
 今は、ちょっと、やらせないようにしよう」と。
糸井 (笑)
萩本 フェイントで、
「土屋、ちょっと用事があるんだけど」
「なんですか?」
番組だ、と身を乗りだしたときに、
「……ちょっとアメリカ行ってほしいんだ」
もっと不本意なことをたのむと思います。

それで、準備を済ませて行く寸前に、
「ああ、ちょっと、手違いがあった。
 帰ってきてくれ。急いで番組を作ってみて」

そうすると、
「なんて間が悪いんだ。
 あのときに言ってくれ!」
これは、不本意なんですよ。
だけど、このほうが、当たりますね。
糸井 萩本さん、その法則はすごいと思います。
自分がやってきたことも、ぜんぶそうです。
萩本 ほらね?
糸井 ほんとにそうです。
萩本 ここ、というときに、
タイミングよく来ないんだよね。
それで、違うところからこないですか?
糸井 ええ。
ダメなときは、むしろ、ぜんぶ、
お膳だてがきれいに揃ってるんです。
……ドキドキしちゃうんですよ。
萩本 でしょう?
それに、疑いますもん、自分のことを。
完璧に揃っているのに、
やると、「なんじゃ、これ!」と……。
糸井 「こんなことしたかったんだっけ?」
と思うんですよね。
萩本 気持ちのよくない現場というのは……

相手がびっくりしないと、
「言わないほうがよかった」
と思いますね。

だから、
「相手がびっくりしそうな性格」
というのが最初にないと。
「そうですか」
と軽く言われたときは、その考えには、
すべて頭の中から消えていきますから。
糸井 それは、重要だと思います。
びっくりしてくれるって、
ほんとに、いいともだちですよね?
萩本 ええ。

びっくりする相手がそこにいないと、
何ごとも成功しないですよね?
糸井 そこで、わざと
ビックリするふりをする人がいるのも、
イヤですよね?
「いやいやいやいや、さすがですねぇ!」
というのは、つらいです。
萩本 そうじゃない人が、
「なるほど!」と心から言う人がいると、
そのときは、やっぱり、成功しますね。
糸井 びっくりすることも、才能ですね。
萩本 ええ。
だから、演出家でも、
「びっくりする」という演出をする心を
持っていない番組は、当たらないですね。

自分にもびっくりして、
ADの言うことにも、
新人の言うことにも、びっくりしてあげるという。

だんだん年取ってくると、ぼくも、
あんまりびっくりしなくなってくるの。
「だけど、こうなると、番組はあぶないぞ」
と、そこは、自分で、そう気づきました。

何かをやっちゃう人って、
ダメを演じるんですよ。
自分を「すごい」とは、思っていないんです。

だけど、「ぼくはダメだ」と言いながら、
自分でも気づいていないような、
とてつもないすごいことをしているんですね。

そこに、魅力がある。
ぼくから見ると、「おちゃめな人」です。
だから、会ってみたくなるのね。

「自分がダメだと思っていても、
 人がダメじゃないって言っている」

だけど、やると、すぐれもの。
そうなると、よけいに、
すぐれているところが、大きく見えるんです。
  (明日に、つづきます)

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2004-09-21-TUE

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