欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

素人は、すぐれている。


萩本 「進行しない司会」については、
ひとつ、やってるんだから、
もう、ふたつやってもいっしょか、と思って、
「よくわかんないんだけど、
 前へ進まないけど、それでもいいの?」
と、引きうけることになっていきました。

だから、そのときは毎日、
仕事が、つらくて、たのしくないの。
「あぁ、もう、どうして……」
「つらいなぁ。
 なんとかやめる方法はないか」

十年ぐらいは、なんかやめるきっかけないかな、
と思ってやってた司会の仕事も、あったんです。
糸井 そうなんですか?
萩本 ええ、もう、つらかったですね。

だけど、
「ぼくがしたい」
という番組じゃないでしょう?

「させたい」
と思ってくれたわけでしょう?

だから、あきらめないで
じーっと見ていたんです。


すると、たとえば、
素人が言ってウケたセリフ。
自分にぜんぶ置き換えたら、
ぼくが同じように言うと、
ぜんぶ、しらじらしいんです。

そうすると、
「素人は、すぐれている」
って、なりませんか?

いちばんすごかったのは、
『家族対抗歌合戦』のために
フジテレビにきた山形県の家族がいて。
ふるさとでは、フジテレビ、流れてないの。

その家族がきて、
おとうさんが、
「ちょっと、ごあいさつをしたい」
っていうんで、あ、どうぞ、と。
糸井 (笑)ごあいさつ。
萩本 そうしたら、
「本日は、
 NHKにお招きいただいて、
 ほんとにありがとうございます」
……誰も、止められないんだよね。

だから、お客さんは、
どんどんウケてるんだけど、
おとうさんは、それとはぜんぜん関係なく、
3回も4回も言うの。
「家族でNHKに出られたことが……」
テレビはぜんぶ、NHKと思っていて。
糸井 (笑)
萩本 ぼくがそのおとうさんのセリフと
おんなじことを言うと、
やっぱり、しらじらしい。

同じセリフで、ぼくが言って、
わざとらしいのに、
あの人が言うと、あんなにウケる。

あれ?
素人のほうが、すぐれてるんじゃないの?

しかも、それがちゃんと、
ホンモノの
「山形から来たおとうさん」なんです。

ぼくたちが、
山形弁をしゃべって、衣装を着て、
山形から来た人の演技をいくらやっても、
どうしたって、その人には、かなわない。

待てよ、と思いました。
ぼくが演じてきたことが、
もしかしたらまちがいなのかもしれない。

「山形から来た」という
キャラクターがひとつあれば、
それがそのまま出たほうが、セリフが活きる。
「なるほど、これがテレビかもしれない」
そう思いました。
これは、映画よりも舞台よりも、素人だと。


たとえば、歌手で言うと、
前川清くんって、なぜしゃべらないんだろう?
そういうことを、考えはじめるんです。

人が、なんでしゃべらないかについては、
ちょっと、興味がありません?

そうすると「しゃべらない人」っていうのが、
テレビに出てくる役として、いい役でしょう?
ぼくがインタビューをしたときも、
イヤイヤしゃべるだとか、
しゃべりたくないのにしゃべるという、
いい芸になるんですよね。

ぼくがしゃべったことのない人を演じても、
誰も笑わないわけです。
だとしたら、もう、前川くんがいるだけで、
立派な芸人とおなじ役割を果たせるんです。

テレビってなんだろうというと、
「ウソをつかない」
「作ったものはだめ」
「その人が持っているものを出す」
そんなことを、思うようになったんです。
糸井 萩本さんにとって、
テレビっていうのは、
家の窓の外の景色を
映しだすもの、なんですね。

素人は、一度おもしろければ、
二度と芸人さんとして来なくても、
かまわないということですからね。

山形のおとうさんは二度と来ない。
でも、1回だけ、おもしろければ、
その人もいい思い出になるし、
テレビを見ている人もたのしかったし、
それでいいわけですよね。

専門の芸人ではなくてもいいから、
「ある『時』をつかまえればいい」
ということなんだろうなぁと思いました。
萩本 そうです。

それを自分に置きかえると、
「素人のようにやってきた欽ちゃんを、
 60歳までやっても、おもしろいのか」
と、自分に問いかけることになりません?

問いかけます。おかしくねえよ。
何より、自分がおかしくねえよ。

素人と一生懸命にやっている欽ちゃんが
いいからって、
50歳になっても60歳になっても
ずっとやっていたら、
どうにも、おもしろくないんじゃないの?
素人の見方をすれば、それは、わかるんです。
数字もいかないような気がするんです。

芸っていうのは、
その名人になるのに20年かかるんです。

20年経った名人というのは、
どういう芸をするのかと言えば、
20年もやったということを見せないで、
素人のように、
さりげなく見えるのが、名人なんですね。

コメディアンをおぼえてから
5年とか、8年ぐらいまでは、
ほんとは、あんまりおかしくない。
それを乗りこえて、ふつうにできるようになる。

さりげなくする、
というところに来るのには、
やっぱり、10年以上はかかるんです。
だけど、この時代には、
もう、10年修業したコメディアンって
ひとりもいない。

だとすると、20年やったやつに
いちばん近いのは、
素人ということになる……
「自然」という意味では、
そうなると思っています。
糸井 なるほどなぁ。
  (明日に、つづきます)

前へ
次へ

感想メールはこちらへ! 件名を「欽ちゃん」にして、
postman@1101.comまで、
ぜひ感想をくださいね!
ディア・フレンド このページを
友だちに知らせる。

2004-09-07-TUE

BACK
戻る