カメラに乗って旅をしてきた。操上和美さんと糸井重里の、いい時間。

第07回 まだまだ発掘している最中。

糸井
操さんが動いていった先って
それぞれ「何か」になってますよね。

原宿のセントラルアパートしかり、
海岸の鈴江倉庫もしかり。
操上
まあ、たまたまね。
糸井
何にも知らずに日本に来た外国人が、
そのときどきに
「ここ、いいなぁ」って言いそうな場所に
いるじゃないですか。
操上
でも、場所に対する嗅覚、大事なんですよ。
撮影のときの嗅覚と同じでね。
糸井
「伸びそうな場所」って、ありますよね。
操上
うん、あるね。
糸井
理由はうまく説明できないんですけど、
イメージに捕らわれずに考えると
いまの青山は「いい場所」だったときとは、
ちょっと、ちがってきてるし。
写真
操上
そうかもしれない。
糸井
むやみに家賃が上がっちゃって、
若い人というよりは、大人の街というか。

それに比べたら、中目黒とか代官山って、
気軽な「気」が流れてますよね。
操上
昔は「倉庫」っていうと
本当にただの倉庫でしかなかったけど
いろんな人が
事務所に使うようになったりすると
観光で来るような人も、出てきたりね。
糸井
ええ。
操上
誰かが新しい土地にに引っ越したら、
その誰かを誰かが追っかけていって、
街が形成されて、うまいレストランもでき、
アーティストも集まってきて‥‥
そういうふうに街って動ていくものだよね。
糸井
江戸だって、田舎につくったんですもんね。
操上
そういう意味では、嗅覚がピッと効く人は
腰も軽いというのかな。
直感の赴くほうへ移動することを恐れない。
糸井
海岸に引っ越した、若い操さんみたいに。
操上
みんな「定着」したがるんですよ。
定着すると安定して、のんびりできるから。

でも、そうすると
嗅覚も効かなくなるのがふつうなんだけど
敏感に「あ、ここ、もうおもしろくない」
と思ったら、スッと動ける人っているよね。
糸井
腰を下ろしたら安定して心地いいけど、
いきいき生きたいと思ったら、
常に「旅の途中」であるべきですよね。
操上
あのさ‥‥「別荘」ってね。
糸井
ええ。
操上
いい場所にいい別荘を持ってるなんて
いいことだろうと思うけど、
よく考えたら、
1年に何回行くかっていう別荘に
かけるお金があるなら
どれだけ、一流ホテルのスイートに
泊まれることか。
糸井
ああ、そうですよね。
写真
操上
ル・コルビュジエじゃないけれども、
究極的には
ちいさな山小屋に
ひとつの窓とベッドとテーブルがあって、
風呂がついていれば、
それがいちばんいいんだというふうに
感じるようになってくる。

豪華で、いつも人が集まって‥‥って、
何か、そういうのじゃなくなってきた。
糸井
わかります。
操上
俺たちみたいなアーティストとか
写真家って
個人が自分の肉体で稼いでるから、
膨大なお金は、入ってこない。

日銭なんです、本来、写真家って。
糸井
ええ。
操上
だから、
別荘なんかいらないと気づいたときに
「あ、その金で
 どれだけでも旅ができるなあ」と。
糸井
家の税金を払って
ちょこちょこ直したりするのにくらべたら
安いもんですよね。
操上
そう考えたら、外国へでもどこへでも
どんどん旅ができるんです。

そっちのほうが、絶対いい。
飛行機代やホテルが高いって言うけど、
そんなの、
「別荘」にくらべたら知れてるよね。
糸井
うん、うん。
操上
それに、ひとつのところにとどまらず
動いていれば、
絶えず、いろんなものが入ってくるし。
糸井
ぼくたち、東北に
ツリーハウスを100個つくる計画があって。

ツリーハウスを100個つくったら、
ひとつの「観光地」になるじゃないですか。
操上
うん。
糸井
ツリーハウスって、
みんな、なんとなくのイメージはあるけど、
つくったことは、ないんですよ。

だから「ほら、できるでしょ?」って
見せてあげるだけで
みんな、わくわくして来てくれるんです。
操上
そうだろうね。
糸井
でも「立派な別荘を建てたんです」じゃあ
わざわざ、見には行かないですよね。
操上
行かないね。
糸井
でも、ツリーハウスなら、行くんです。
写真
操上
おもしろいね。

俺も、ずうっと旅を続けてきたけど
写真を撮るって
こんなにおもしろいことなのかって
最近、わかってきた。
糸井
あ、そうですか。
操上
あちこち動いて、いろんなものを見ると、
知らないことばっかり。

で、知らないことっていうのは
自分の外だけじゃなく、
自分の中にも存在してるんです。
糸井
つまり‥‥。
操上
俺、自分が何に興味を持つかってことを
まだまだ、発掘してる最中。
糸井
楽しい?
操上
やめられないっていうか、止まらない(笑)。

<続きます>