カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

とある土曜日の昼下がり。
宮城県、鳴子温泉郷に建つ小学校の体育館。
おまつり会場となったその体育館は、
たくさんの人々で大いに賑わっております。

「そうですそうです、
 これぜんぶ小学生が描いたんです」
大沼秀顯さん(50)は素朴な笑顔でそう言うと、
たくさん並んだ木製民芸品のなかから1体を選び、
僕に手渡してくださるのでありました。


第58回
小学生こけしはカワイイ


山下 うわあ、これはかわいい。
大沼 元気いっぱですよね。
山下 地元の小学生が描いたこけしなんですか?
大沼 そうですね、
このあたりの小学校の生徒たちです。
わたしら工人が学校で指導をしとります。

大沼秀顯さん(既婚)は、
鳴子こけしの工人(こうじん)さんです。
工人とは、こけしの型をろくろで削り
それに絵をつける
つまりはこけし職人さんのこと。

初秋のこの日、僕は鳴子温泉で行われるという
「全国こけしまつり」を訪れていました。
なぜかというと、
こけしに大変興味があるからです。
おまつりの拠点となる小学校の体育館では、
「全国こけしコンクール」に
出品された作品が並び、
工人さんの実演が行われ、
即売会も実施されていました。

このような会場の片隅で、僕はみつけたのです。
工人さんの匠の技とはまた違った輝きを見せる、
小学生が描いた純粋で愛らしいこけしたちを。
「指導した工人さんが必ずここにいるはず!」
果たして予想は的中。
僕は工人・大沼さんに
巡りあうことができました。

大沼さんのお話、うかがってまいりましょう。
素敵な東北なまりをイメージしつつ
お読みください。


山下 何年生が描いたこけしなのでしょう?
大沼 これらは小学6年生のみですね。
山下 そうですかあ‥‥
来年は中学生といっても
まだ子どもらしい素直さにあふれてますね。
大沼 んですね、みんな素直に描きます。
山下 どれから紹介したらいいのか‥‥。
ええと‥‥これなんかどうでしょう?
大沼 子どもらしい。
山下 はい、かわいらしいですね。
‥‥あと、こちらですとか。
大沼 はい、かわいいですな。
一生懸命描いとります。
山下 からだの部分に工夫してる子もいますよ。
ほら。
大沼 りんご。
これは顔もやさしぐて、いいこけしです。
山下 女子の作品ですよね、きっと。
‥‥あ(笑)、
明らかに男子の作品もありました。
大沼 野球が好きなんですなあ。
山下 野球好きの男子がここにもいますよ。
大沼 ああ、ははは。
山下 こけしが楽天のユニフォーム着てます。
大沼 宮城はほら、楽天だがら。
山下 なるほどどお‥‥。
‥‥54番ってだれでしたっけ?
大沼 はてっ、だあれだっだか。
‥‥だれでしたっげねえ。
山下 いや、ま、野球のことはともかく、
僕はこのなかにですね、最初からすごく
気になっているこけしがあるのですよ。
大沼 そうですか、どれでしょう?
山下 これです。
大沼 ああ‥‥‥‥。
山下 すごいと思いました。
大沼 ええ、なかながの味わいです。
山下 じわりじわりと心がつかまれます。
この顔にじっとみつめられると‥‥。
大沼 どの子もね、一生懸命描いてくれるんです。
山下 ふざけたりしないで。
大沼 はい。
地場産業を知るという授業の一環で
やるということもあるんでしょうけどね。
山下 そうかあ、完全に自由にすると、
キャラクターを描いたり
もっとふざける子もでてきそうですよね。
それはそれで面白そうですが‥‥。
なるほど、この微妙に真面目な感じは、
授業でやっているからなんですね。
大沼 みんな、自分なりのこけしをね、
それぞれ心こめて描いてるんですな。
何度も修正したりしながら。
山下 ‥‥はい。
作者の本気がぐいぐい伝わってきます。
山下 大沼さんは、どのくらい前から
小学生にご指導なさっているのですか?
大沼 ん? どんくらい前。
ええど‥‥あれはもう、
10、いや15年ぐらい前からですかねえ。
山下 そうですか、そんなに前から。
大沼 昔は、もっとね、
とんでもないの描く子がいましたよ。
全身まっ黒いこけしとか。
山下 まっ黒! 炭ですね(笑)。
大沼 あとは、広大な風景画を描いたり。
山下 へえ〜。
大沼 最近の子どもたちは、
これは今の時代だからなのかなあ、
ちゃんと真面目にこけしを描いてくれる。
伝統を大切にしてくれるのは
もちろんうれしいんだけど、
なんがね、たまには枠がらはみ出しても
いいかなってね、思うこともあります。
山下 そうですかあ‥‥。
ですが僕は、
あくまでこけしの枠から逸脱しない範囲で、
それでも自由にのびのび描いている
この絶妙な感じがとても好きです。
大沼 ありがとうございます。
子どもたちもよろこびます。
山下 これなんかも、いいですよねえ。
大沼 ええ、なかなか魅力的です。
山下 これも面白いなあ。ちょっとスネてる?
大沼 はい、独創的ですな。
山下 こちらは、ちょっと悲しげな‥‥。
大沼 墨がにじんでこいう表情になったんですね。
こうした偶然も面白いです。
山下 これもすごいなあ‥‥。
大沼 繊細なタッチで。
山下 こっちのは、これもう、爆発してます。
大沼 いいですね。晴れやかなこけしです。
山下 いやあ、まだまだあるんですが、
とても紹介しきれませんです。
どれもこれも思いが込められていて
ほんとにかわいらしい。
大沼 んですな。きりないですな。
山下 大沼さん、ちょっと難しい質問でしょうが、
いちばん好きなのとか、ございます?
大沼 いちばんですか。
山下 ええ、大沼賞をあげるならということで。
大沼 ‥‥‥‥はてっ。
山下 ‥‥‥‥‥‥難しいですよねえ。
大沼 ‥‥‥‥‥‥これがな。
山下 おお、こちら。
大沼 うん、それだな。
山下 はい、とてもかわいらしいと思います。
‥‥ですが大沼さん、
意外と正統な作品を選ばれましたね。
大沼 ねえ(笑)、
枠がらはみ出してとが言ったくせにねえ。
‥‥うーん、でも私は工人なので、
やっぱり大沼賞というこどになっと、
顔のいいのを選んでしまうなあ(笑)。
山下 お顔。
大沼 ええ、顔がいちばん大切だから。
こけしはそこで決まりますからね。
山下 なるほどお‥‥。
大沼 ええと‥‥あなた‥‥お名前は‥‥。
山下 あ、山下です。
大沼 山下さんはどうですか?
どれがいちばんですか。
山下 はい、僕はもう、迷うことなくこれです。
気になって仕方がありません。
大沼 そうですか。
山下 みればみるほど、じわじわきます。
からだはチューリップだし‥‥。

それから僕は、コンクールに出品中の
大沼さんの作品をみせていただくことに。
会場のメインコーナーに向かいます。


山下 これが大沼さんのこけしですか‥‥。
大沼 ええ、ことしの作品です。
山下 ちょっと手に取ってよろしいでしょうか。
大沼 どうぞどうぞ。
山下 では、大きいのを(手に取る)‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
大沼 いかがでしょう。
山下 ‥‥顔が大切とおっしゃった意味が
なんとなくわかったような気がします。
僕自身まだまだ造詣は深くはありませんが
すばらしいと思います。
大沼 ありがとうございます。
山下 ‥‥‥‥あれ?‥‥‥お、大沼さん。
大沼 なんでしょう?
山下 ‥‥こちらのプロフィールに、
大沼秀顯
平成17年 第51回コンクール
最高賞「文部科学大臣奨励賞」受賞
と書いてありますが‥‥。
大沼 ええ、去年のコンクールでね
一等賞いただいたんですよ。
山下 ‥‥そ、そうでしたか。
たいへんなかたにお会いしていたのですね。
大沼 いやいやそんな。
山下 本日はどうもありがとうございました!
で、大沼さん、
ここで絵付け体験ができるようですが‥‥。


伝統的にかわいかった。

お話をうかがったあと、
大沼さんの優しいご指導で
こけしの絵付けに挑戦いたしました。
完成品はこちら。湯けむりを背景にご覧ください。


今回の「こけしまつり」の模様を
「りす」という雑誌の連載で、
また違う角度からレポートさせていただいております。
Vol.2、只今発売中。
詳しくは下の画像をクリックください。


2006-11-08-WED

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