| 山下 |
‥‥‥‥‥パチンコ玉、ですね。 |
いた
もち
（以下・いた） |
ええ、パチンコ玉です。 |
| 山下 |
‥‥はい、ええと‥‥コロコロしています。
それで、ええと‥‥。 |
| いた |
玉の表面を、よくみていただけますか。 |
| 山下 |
え？ 表面。‥‥‥‥‥‥‥あ。 |
「パチンコ玉を愛でるおじさんが、
吉祥寺に住んでいる」
数日前、そんな噂を伝え聞きました。
パチンコ玉？ あの銀の玉を？ 愛でる？
正直、すぐにピンとはきませんでした。
ですが、さらに伝え聞くところによりますと
「その愛でかたは、かなり真剣なのである」
とのこと。
‥‥ひとりのおじさんが
そんなに真剣に愛でているのであれば、
きっとそこには何かがあるはず。
ただちに取材をお願いしました。
こうしてお会いしたいたもちさん（未婚）は、
映像制作会社で編集のお仕事をなさる38歳。
ポークパイハットに短パンという
ラフなスタイルでいらしたいたもちさんは、
「玉の表面をよくみて」とおっしゃいます。
さて、そこには‥‥。 |
|
| 山下 |
な、なにか絵柄が‥‥。 |
| いた |
刻まれてますでしょ。 |
| 山下 |
はい。ええと、この絵柄は‥‥。
‥‥ああ、わかりました（笑）。
でもこれ、うまく写真が撮れるかな‥‥。 |
| いた |
よろしければ台座があるので、
これにのせて撮ってはいかがでしょう。 |
| 山下 |
ありがとうございます、そうします。
‥‥よいしょ（のせる）。 |
 |
| いた |
撮れましたか。 |
| 山下 |
撮れました。
ひょうたん、ですね。 |
| いた |
ひょうたんです。 |
| 山下 |
‥‥なるほどお、パチンコ玉の表面には
絵柄が刻まれているのですね。 |
| いた |
あ、すべてのパチンコ玉に
絵柄があるわけではないんですよ。 |
| 山下 |
そうなんですか。 |
| いた |
だいたい1994年までのものがそうなんです。
95年にＣＲ機が導入され、
多くのパチンコ店が改装をしまして‥‥ |
| 山下 |
すみません、いたもちさん、
ひとつうかがってもよろしいですか。 |
| いた |
なんでしょう。 |
| 山下 |
いたもちさんは、パチンコそのものも
お好きなんですか？ |
| いた |
いや、ギャンブルには興味がないんです。 |
| 山下 |
そうですか、わかりました。
お話の続きをお願いします。 |
| いた |
それで、その改装のときに多くのお店が
新しい玉に入れ替えをしてるんですね。
新しい玉はアルファベットひと文字とか
ほとんどそういう刻印になっちゃって、
こういう模様はなくなっていったんです。 |
| 山下 |
つまり、94年以前の古い玉にだけ
たのしい絵が入っているわけですね。 |
| いた |
そうです。 |
| 山下 |
いろんなデザインがあったと。 |
| いた |
ええ、それがもう、おもしろくて‥‥。
ほかにも持ってきましたが、出します？ |
| 山下 |
はい、ぜひ、ぜひお願いします。 |
テーブルに物を並べる。
すっかりおなじみの光景となりました。
ですが、何度体験してもやはり
この作業には心躍るものがあります。
いたもちさんは、プラスチックのケースから
ちいさなビニールの小袋を出しては、
ひとつずつていねいに並べていきます。
 |
|
| 山下 |
‥‥いいですねえ、
こうやって袋に入れてきちんと並べると。
パチンコ玉のイメージが変わります。 |
| いた |
「玉展」っていうんです。 |
| 山下 |
え？ たまてん？ |
| いた |
パチンコ玉の「出張美術館」なので。 |
| 山下 |
なるほど、この状態が美術館なのですね。
‥‥それぞれの袋に採集場所と年月日と、
ああ、手描きで絵柄が‥‥。 |
 |
| いた |
いまは準備中なんですが、「玉展」の
ホームページもやってました、
北島嶋十三郎という名前で。 |
| 山下 |
‥‥ペンネームでやられていたのには
なにか理由が？ |
| いた |
それは、あの‥‥。
実際こうしてみてもらえると
感動もしてくれるのですが、
ちょっと仲良くなった人などに
「パチンコ玉を集めてます」って言うと、
言った途端にふたりのあいだに
うすーい膜が、たらりとおりるんですよ。 |
| 山下 |
ああ‥‥。 |
| いた |
微妙な空気が流れます。
というか、止まります。 |
| 山下 |
そうですか、それで本名を伏せて‥‥。 |
| いた |
会社の者にも言ってないんです。 |
| 山下 |
それなのにきょうは本名で語ってくださって
光栄に思います。
正直、僕も最初にパチンコ玉と聞いたときは
うすい膜を感じましたが、いまはちがいます。
ほかの絵柄をみたい気持ちでいっぱいです。 |
というわけで、ほかの絵柄も拝見することに。
ですがパチンコ玉は、球体のカガミ。
周囲の余計なものが写りこんで
表面の模様をはっきり撮るのが難しいのです。
これ↑には余計なもの＝山下が写りこんで
絵柄がみえなくなってますね。
そこで今回はカメラマンさんに撮影を依頼。
写りこみをなくし、
絵柄がはっきりみえるよう撮ってもらいました。 |
|
| いた |
かわいいのといえば、これなどどうでしょう。 |
 |
| 山下 |
ペンギン！ はい、かわいいですねー。 |
| いた |
なぜか鳥の図案が多いんですよ。
これは白鳥。 |
 |
| 山下 |
こ、こまかい仕事だなあ‥‥。 |
| いた |
こっちは鶴。もっと細かいです。 |
 |
| 山下 |
ほんとだ、すごい‥‥。 |
| いた |
鶴といえば、亀ですね。 |
 |
| 山下 |
これはシンプル（笑）。
キュートだと思います。 |
| いた |
打ち出の小づちもあります。 |
 |
| 山下 |
はあー、また細かい‥‥。 |
| いた |
僕もこれには驚きました。
鋼鉄なのに木目が表現されてる。 |
| 山下 |
やはり縁起物が多いのですね。 |
| いた |
そうですね、縁起物。
そうやって、なぜその絵柄にしたのかを
いろいろ解釈するのもたのしいんです。
これなんか夢がありますよ。 |
 |
| 山下 |
わあ、野球のボールだ！ |
| いた |
ホームランを狙う気持ちで遊んでください、
ということでしょうか。 |
| 山下 |
‥‥ん？ では、こちらは？
この場合は、いったいどう解釈すれば‥‥。 |
| いた |
あ、これ‥‥。 |
 |
| 山下 |
アリ。 |
| いた |
アリ。 |
| 山下 |
なぜアリなのか‥‥わっかんないですねえ。 |
| いた |
こんなのもありますよ。 |
 |
| 山下 |
‥‥じ、人生。 |
| いた |
人生。 |
| 山下 |
‥‥‥‥パチンコ玉、奥が深いです。 |
| いた |
ええ、深いです。きりがありません。 |
| 山下 |
ぜんぶで何種類集められたんですか？ |
| いた |
ええと、千とか？ いや、もっとかな。 |
| 山下 |
そんなに‥‥。 |
| いた |
94年ころは取り憑かれたように集めてました。 |
| 山下 |
いまはもうないわけですものね。 |
| いた |
そう‥‥ないんですよ、もう。
‥‥もしも、もしもタイムマシンがあったら、
僕は過去のパチンコ屋に行きたいです。 |
| 山下 |
それほどまでに‥‥。 |
| いた |
何度も夢にみますから。
古いパチンコ屋ですごい玉をみつける夢。
みたことない絵柄の玉がどんどん出てくる。
うわああ！ ってところで目が覚めて‥‥。 |
| 山下 |
そうですかあ‥‥。
そんなにまで夢中になるには、
なにかきっかけがあったのでしょうか。 |
| いた |
きっかけ、きっかけはですね、
指輪をつくろうと思ったんですよ。 |
| 山下 |
指輪？ パチンコ玉で？ |
| いた |
こういう玉があるらしいということを、
まず知ったんですね。 |
 |
| 山下 |
ダイヤモンド。 |
| いた |
それで指輪をつくったらおもしろいかな、と。 |
| 山下 |
‥‥ああ！ ダイヤの指輪を（笑）。 |
| いた |
まあ、冗談みたいなもので。 |
| 山下 |
やってみます（自分の結婚指輪をはずす）。
ええと、こう、指輪のうえに玉をのせて‥‥
こ、こんなかんじですか？ |
 |
| いた |
そうそう、そうです（笑）。 |
| 山下 |
ダイヤの指輪だ（笑）。 |
| いた |
でも実際パチンコ屋さんをまわったら、
いろんな種類があって、
それを集めるほうに夢中になっちゃって、
ダイヤの指輪はまだつくってないんです。 |
| 山下 |
そうですか‥‥。
集めた玉は、その、なんといいますか、
いつもお部屋で、ながめたり？ |
| いた |
ええ、サビないようチェックしながら。
しあわせなひとときです。 |
| 山下 |
この虫眼鏡で観賞するのですね。 |
| いた |
そうです。 |
| 山下 |
こうして‥‥。 |
 |
| いた |
はい。 |
| 山下 |
‥‥‥ああ、みつめる自分が写っています。 |
 |
| いた |
それがまたいいんですよ。
玉に自分が入っていくかんじというか‥‥。 |
| 山下 |
‥‥‥‥‥‥あの、いたもちさん、
ふたりで玉に入ってる写真を撮りませんか。 |
| いた |
え？ |
| 山下 |
こうやってですね（隣に座る）、
こう、顔を近づけて‥‥。 |
| いた |
こうですか（寄る）。 |
| 山下 |
もっとグッと（寄る）。 |
| いた |
ち、近いですね。 |
| 山下 |
‥‥ほら、ふたりが玉に入りました！ |
 |
| いた |
おお‥‥。 |
| 山下 |
いたもちさん、
本日はどうも、ありがとうございました。 |
