カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

4月某日、晴天。
夕暮れまではもうしばらく、という時刻。
東京郊外・調布市の、大きな道路に面した
広くてきれいで静かなカフェ。

島沢安夫さん(63)は、
ギャラリースペースに並べられた作品の中から
つややかな物体をひとつ手に取ると、
チャーミングな笑顔で、
じっとそれを見つめるのでありました。


第36回
流木はカワイイ。

山下 ‥‥‥‥こ、これは。
し、渋いです。
島沢 ここまでにするのはさ、
もう、たいへんなことなんだよ。
山下 そうなんですか‥‥。
島沢 ちょっとやそっと、こすったくらいじゃ、
このつやは出ないんだから。

島沢さんのお仕事は、タクシーの運転手さん。
お子様が独立されてからは、
府中で一人暮らしをなさっている
コールドパーマがとてもお似合いの63歳です。
この日はお仕事がお休みとあって、
なじみのカフェに僕を案内してくださいました。

さて、店内のギャラリーを堪能した
僕たちふたり、テーブルでゆっくり
ホットなコーヒーをいただいております。


山下 こちらのお店‥‥ええと、お店の名前は‥‥。
島沢 「流木カフェ」。
山下 ん? 「ネイチャークラフトガーデン」と
メニューに書いてありますが‥‥。
島沢 あ(笑)、そういう名前なんだ。
いやあ、流木がいっぱいあるからさ、
勝手に「流木カフェ」って呼んでたよ(笑)。
山下 たしかに、山のようにありますよね。
その、窓のそと。すごいなあ。
島沢 あっちのさ、裏っかわにもあるよ。
山下 え? あっちにも。
島沢 うん、あるよ。見にいく?
山下 はい、ぜひ。
島沢 じゃあ、コーヒー飲んじゃおうか。

コーヒーを飲み干し席を立ち、
僕たちふたりはカフェのお庭へ向かいました。
‥‥なるほど。
広い敷地のそこにもここにも、
個性豊かな流木たちが、
ズラリときれいに並んでいます。


山下 (歩きつつ)島沢さん、ここへは
よくいらっしゃるのですか?
島沢 うん。
山下 それはやはり流木を見に。
島沢 それもあるけどさ、
やっぱ癒されるよな、こういうとこくると。
山下 ああ、はい。
島沢 いい流木がないか探したりしてさ。
‥‥これ、好きなのをレジに持ってくと
値段つけて売ってくれるんだよ。
山下 そうなんですか。
‥‥流木は昔からお好きで?
島沢 うん、昔ね、京都の山に住んでてね、
川で流木を拾ってきたのが最初。
山下 それを磨くわけですよね。
島沢 そう。これは俺のやりかただけどさ、
トーチランプの炎であぶって、
ワイヤブラシで削っちゃう。
それを何回も繰り返すの。
山下 燃えてしまわないのですか。
島沢 いい流木はさ、ぜんぶは燃えないんだよ。
最後に芯だけが残るの。
山下 どういうのが、いい流木なんでしょう。
島沢 ええとね、芯が残るいいやつは(探す)‥‥、
いぼいぼが、こぶしなんだな。
山下 え? いぼいぼが、こぶし?
島沢 うん、いぼいぼが、こぶし。
‥‥あったあった、
ほら、こういうの(持ち上げる)。
山下 あ、つまり根っこのことですか。
島沢 そうそう、根っこの、いぼいぼのところ。
ここにはもう、木の命がさ、
こぶしみたいにギュッと詰まってるんだよ。
だから燃えないよ。かならず芯が残るの。
山下 さっきギャラリーで見たやつみたいに。
島沢 そう。俺も立派なのつくったんだよ。
こおんなでかいの。手間ひまかけてさ。
山下 時間をかけて‥‥。
なるほど、それは愛着がわきますよねえ。

僕らは再び店内へ。
なかで販売している観葉植物や雑貨たちを、
島沢さんのたのしい案内で、
ひとつひとつ見て歩くのでした。


山下 あ! こ、これは‥‥。
島沢 これな、おもしろいだろ(笑)。
山下 は、はい‥‥(ど、動眼!)
流木に、ねんどをくっつけてますね。
島沢 そうそう、おもしろいんだよそういうのも。
山下 こんなものも‥‥。
島沢 ははははは。
この流木、ほんとに馬の顔にみえるな!
山下 はい(また動眼!)。
‥‥ん? 島沢さん、これ。
島沢 ああ、やってるんだよ体験教室。
山下 ‥‥やってるんですか。

当然の成り行きで、僕らふたりは
「流木ねんど教室」の授業を受けることに。
親子での参加が大半とのことでしたが、
それは気にしなくていいと思いました。
教えてくださる先生は、
柴田弘さん(57)。
ボーダー柄のシャツが素敵なおじさんです。
先生のご指導で、まずは各自、
好きな流木を拾ってまいりました。
山下はこんな↓ものを、

島沢さんはこのような↓ものを。

さあ、たのしい授業のはじまりです。


先生 お教えすることは実に簡単でして。
まずこうして紙ねんどに絵の具を混ぜまず。
ふたり はい。
先生 よく混ぜて色がつきましたら、
好きな形にととのえてボンドで流木につける。
こんな具合ですね。
ふたり はい。
先生 とまあ、お教えすることは以上です。
島沢 ‥‥せ、先生、質問(挙手)。
先生 はい、なんでしょう。
島沢 お手本を見せてはいただけないのでしょうか。
先生 ‥‥それをしますと、みなさんどうしても
真似をなさってしまわれますので‥‥。
やはり自由がよろしいかと‥‥。
島沢 ‥‥わ、わかりました(ダメージ小の様子)。
山下 先生、僕も質問いいですか。
先生 ええ、どうぞ。
山下 動眼はないのでしょうか。
先生 え?
山下 あ、あのほら、
キョロキョロ動く目玉のことです。
先生 ああ、はいはい動眼。
‥‥ごめんなさい、きょうはないんですよ。
山下 ‥‥わ、わかりました(ダメージ大)。
ここはひとつ、ねんどのみでやりきります!
先生 がんばって(素敵に笑う)。それでは
流木ねんどをお楽しみください(素敵に去る)。

広い店内の作業テーブルで、
山下と島沢さん(合計年齢105歳)は、
黙々と、ねんど細工に取り組みます。
‥‥約30分後。


島沢 ‥‥お、山下くん、できたじゃない。
山下 「山登りをする子供」。
島沢 やっぱ、あなたはすばらしいな。
センスがいいんだわ。
山下 いやいや、必死なだけですよ。
‥‥花を取ろうとしてるんです、この子。
島沢 高嶺の花だ。
山下 そうそうそう! テーマはそれです!
島沢 でも、手が届くよな、これ。
山下 あ、そういえばそうですね。
島沢 手が届くっていうのがいいよ。
届かねぇんじゃつまんねぇもん。
山下 すばらしい解釈、ありがとうございます。
‥‥ところで、島沢さんのもできてますね。
島沢 へび。
山下 やっぱり! へびだと思った!
島沢 しっぽが、ネズミだよな(笑)。
山下 いやいや、へびです!
島沢 へび年生まれだからさ、そうしたの。
でもこれ見えるかね、へびに。

と、そこへひとりの子供がやってきました。
たぶん小学1年生くらいの男の子です。


子供 あ、おとながねんどやってる。
島沢 ちょっと、ぼく、こっちきてごらん。
あのさ、これ、なんにみえる?
子供 え〜、これ〜?
島沢 そう、なんにみえるかなあ?
子供 ええとね‥‥。
島沢 うん。
子供 ‥‥とけが。
島沢 え?
山下 とけが? ‥‥あ、ああ、とかげ(笑)。
島沢 (笑)これね、へびなの。
子供 ええ〜、へびじゃないよ〜(笑)。
島沢 じゃあ、それ(山下作品)は?
なにかな? オバQかな?
子供 木のぼりしてる、おっちゃん!
山下 ははは、だいたい当たってる!
子供 ‥‥とかげ、へんなの〜。
島沢 は、はははは‥‥。
山下 ‥‥そ、そんなに、へんじゃないでしょ?
子供 へんだよ〜、ぜったい、へん!
山下 ‥‥‥‥さ、ぼく、
木のぼりしてる人形をあげるから、
おうちでお母さんと一緒につくりなよ。
ね、ほら、ねんどもあげるから。
子供 くれるの?
山下 うん、だからさ‥‥。
子供 じゃあ、とかげがほしい。
山下 え? ‥‥木のぼりじゃなくて?
子供 うん、とかげ。
島沢 ‥‥お、おう。いいよ、ほら、持ってきな。
子供 ありがと!(受け取り、走り去る)
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
理解できるものと、ほしいものっていうのは、
これ、まったく、別なのですねえ‥‥。
島沢さん、まいりました、僕の完敗です!
島沢 (笑)なんだよ、やめなよ。
山下 本日は、ありがとうございました!

こうして、 ねんどを介して流木と
たっぷり触れ合った僕は、
もう一度ギャラリーに向かい
あの作品を手にしてみるのでありました。
いぼいぼの、こぶしを。
「理解するのではない、感じるんだ!」
そう自分に言い聞かせながら。
‥‥‥‥‥‥‥‥ん? んんん!?
「流木よ、僕はすこし、
 ほんのすこしかもしれないけれど、
 お前のことがわかったと思うぞ」


「いいや、お前はまだまだだ」(談/流木)



‥‥流木になんと言われようと、
その奥深くにひそむかわいさを、
山下は確かに、かいま見たのでありました。

島沢さん、たいへん勉強になりました!
魅力の神髄を明確につかみましたら、
すぐにご連絡差し上げます。
「流木カフェ」で会いましょう!

「ネイチャークラフトガーデン」
 HPは下の画像をクリック!

http://www.naturecraft-garden.com/

東京電力の敷地内に、このカフェはあります。
電気と流木に、どんな関係が?
‥‥じつは、このカフェにある大量の流木は、
発電所のダムに流されてきたものなのです!
(詳しくは上記サイトで)

2005-04-20-WED

HOME
戻る