カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

11月上旬、曇り空の木曜日、午後3時。
三鷹駅南口商店街、引きも切らない列ができる、
とあるお店の前に僕はいました。

「さ、あついうちにどうぞ」
末木孝尚さん(34)は、ご商売人らしい
活気あふれる笑顔でそう言うと、
白い紙袋に入ったほかほかの物体を
僕にぽんと手渡すのでありました。


第28回
たいやきはカワイイ。



山下 わあ、ありがとうございます!
末木 あついですよ、焼きたてですから。
山下 はい、ほっかほかです。
‥‥それにしても、こう、じっくり見ますと、
じつに愛らしい顔をしてますねえ、たい焼き。
末木 (笑)そうですか。
山下 食べるのがすこし申し訳なく思います。
末木 (笑)どうぞ、召し上がってください。
山下 はい、では‥‥‥‥。

末木孝尚さん(独身)は、
三鷹商店街にある創業50年の甘味処
「たかね」の三代目店長さん。
僕は数年前から、こちらのたい焼きの
とりこになっておりました。
店長さんとお話するのは、この日がはじめて。

さて、それでは、
その初対面のシーン、約1時間前へと
時計の針を戻してみましょう。
場面は「はじめまして」のご挨拶直後です。


山下 ええと、早速ですが、そちらが‥‥。
末木 たい焼きの型です。持ってみます?
山下 は、はい、ぜひ!
末木 どうぞ(渡す)。
山下 重っ‥‥重たいのですねえ。
末木 ええ、たぶん5キロくらいですか。
山下 ‥‥ああ(笑)、あたりまえですが、
たい焼きの姿がちゃんと型になってます。
なんか、愛らしいです‥‥。

末木 一丁焼きっていいまして、
一度にいくつも焼くのではなく、
これで一匹ずつ手で返して焼くんです。
山下 なるほどお、一丁焼きの型ですか。
長い棒がついてて‥‥写真撮らなくちゃ。
よいしょ‥‥うーん、うーん、うーん。
末木 僕が持ちましょう、手がぷるぷるしてますよ。
山下 た、たすかります。

山下 ありがとうございます、無事撮れました。
‥‥いまも焼いている音が聞こえますね、
がたごとがたごと‥‥。
末木 よかったら中で見ていかれますか。
山下 え、いいんですか?
末木 きょうは社長が‥‥僕の母親なんですけど
焼いてますので。
どうぞ行ってみてください。
山下 では、お邪魔にならないように‥‥。

店頭のたい焼きを焼く場所に入っていく山下哲。
職人スペース独特の緊張感が漂っています。
型に手早く生地とあんこをのせて、



がたごとがたごとと大きな音で型を常に回し、



ころんころんとたい焼きが
生まれていく様を、僕は目の当たりにしました。
ですが、どう考えても僕は邪魔です。
数枚写真を撮ると奥の喫茶室へと移動しました。


末木 どうでした? 写真撮れました?
山下 はい、おかげさまで。
‥‥しかしそれにしても(店内を見渡し)、
こちら、甘味処のお店には思えませんよねえ。

末木 そうですか? まあ、そうですよね(笑)。
山下 アンティークなものもたくさんあるのですが、
その中に新しいものが混ざっていて‥‥。
末木 ええ、こういう感じに改装したのは
5年ほど前なんですが、自分が三代目として
やるならこんなふうにしたいと思ってまして。
山下 古いものと新しいものがあるような?
末木 ええ、若いお客様にも来ていただきたいし、
それに、お歳を召したかたとそのお孫さんが
両方楽しめるようなお店にしたかったのです。
山下 なるほど、喫茶室の入口にはたくさん絵本が
並んでますものね。

末木 それ、ぜんぶ僕の私物なんです。
山下 あ、お好きなんですね、絵本。
末木 はい、自分の部屋にもたくさんあって、
定期的に入れ替えるようにしてます。
本がどんどんたい焼きの匂いになります(笑)。
山下 ははは。‥‥あ、そうそう、これこれ、
何年か前こちらではじめてこれをみたんです。
末木 あ、そうなんですか。
山下 夢中になって我が家でも買いそろえました。
「リサとガスパール」。

末木 これはいいですよね!
山下 はい、もうこれはやっぱり‥‥
ふたり かっわいいですよねえ(笑)。
山下 ‥‥いやあ、ほんと、
すてきなたい焼き屋さんです。
末木 ありがとうございます。
骨が決まってますので、こうした肉の部分を
よろこんでいただけるとうれしいです。
山下 え? 骨? 肉?
末木 あ、骨っていうのは、たい焼きですね。
これは先代・先々代がつくってきて、
長いあいだ親しんでいただいた味なので、
自分がそれを変えようという気持ちは
まったくないんです。
山下 トラディショナルな骨は守るわけですね。
末木 ええ、ですから僕は、そのまわり、肉ですね、
そこをいろいろやってみるわけです。
ポップだったりかわいらしいのが
わりと好きなので、そんなイメージで。
山下 なるほどお‥‥骨と肉ですかあ‥‥。
末木 たとえば‥‥ちょっといいですか(外へ)。
山下 あ、はい(外へ)。
末木 自腹でこういうグッズをつくってみたり。

山下 はいはい、いいですよね、これ。
うちにはこのバッグがあります。
当ったんです!

末木 (笑)今は販売してるんですが、
以前は毎月抽選で差し上げてました。
山下 それに当ったんです!
たいへんうれしかったです!!
末木 (笑)ありがとうございます。
‥‥あとは、こういう椅子ですとか、

末木 停留所みたいなのをつくってみたり。

山下 いいですねえ、「たい焼き行」。
‥‥ですが、やっぱり、
きわめつけは、あれですよねえ。
末木 ああ、そうでしょうかねえ(笑)。
山下 はい、かなり目立ちます。
たい焼きタクシー。

末木 仕入れのときなど運転しますが、
ちょっと恥ずかしいです、やはり。
山下 みんな振り返りますよ、これは。
本物のロンドンタクシーですよね?
末木 ええ、ブラックキャブですね。
山下 よくわからないのですが、
車検とかたいへんなのでしょうねえ。
末木 はい、まあ、面倒です。
でも好きなんですね、古いかわいいものも。
そういう自分の好きなもの、ええと、
ヨーロッパのフィギュアとか、浮世絵とか、
絵本とか、ベッカムのサインとか‥‥
何でも店に持ってきてしまうんです。
山下 でも不思議なのは、
ばらばらな感じがしないですよね。
ひっくるめてすてきな甘味処のお店だと、
生意気ですがそう思います。
末木 そういっていただけると、うれしいです。
山下 いやあ末木さん、
本日はどうも、ありがとうございました。
末木 あ、山下さん、せっかくですから
食べてってくださいよ(たい焼きを取りに)。
‥‥さ、あついうちにどうぞ。

山下 わあ、ありがとうございます!
末木 あついですよ、焼きたてですから。
山下 はい、ほっかほかです。
‥‥それにしても、こう、じっくり見ますと、
じつに愛らしい顔をしてますねえ、たい焼き。
末木 (笑)そうですか。
山下 食べるのがすこし申し訳なく思います。
末木 (笑)どうぞ、召し上がってください。
山下 はい、では‥‥‥‥。

山下 おお、背中からあんこが飛び出して‥‥。

山下 ‥‥‥‥いただきますっ!
(かりっ)あぢ、あぢぢぢぢ、
ふはあ、あんこもあつあつで‥‥。

山下 はふはふ、薄皮でかりかりで‥‥。

山下 あぢぢぢ‥‥ん?(並ぶ方々の視線が痛い)。

山下 ‥‥はあ、やはりしっぽまであんこが。

山下 ‥‥最後のひとくち、いきます。


山下 ‥‥‥(咀嚼)んご、ごちそうさまでした!
なんというか、その、とにかく、やっぱり、
おいしかったです!!
末木 ありがとうございます。
山下 ああ、グルメ番組のようにもっと上手に
おいしさを表現したいのですが‥‥
末木 いやいや十分です、うれしいです。
山下 ‥‥その、なんといいますか、
かりっとした食感の皮のなかから、
さらりとしながらもコクのある甘さが
口いっぱいに広がって‥‥で‥‥ええと‥‥。
末木 あの、山下さん。
山下 はい?
末木 鼻の下のところに
大きなあんこがくっついていますよ。
山下 ‥‥ん? ああ、気がつきませんでした。
鼻の下にあんこをくっつけて、
スマートなコメントを言おうとしてました。
末木 はははは、一気に食べるからですよ。
‥‥あ、袖でふかないほうが‥‥。
山下 本日はどうも、ありがとうございました!



ほっかほかのかわいさでありました。

甘味処「たかね」さんのHPは
下の画像をクリック!


www.taiyaki-takane.com


たい焼きはもちろんすばらしいのですが、
末木さんが産地まで足を運んで手に入れる
お茶が、また絶品なのです!

2004-11-17-WED

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