カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

埼玉県吉川市、JR吉川駅からバスで約10分。
その工場は、
うす曇りの空の下に堂々とたたずんでいました。

応接室に通していただき、待つことしばし。
(株)スズセイ社長、
鈴木健介さん(63)のご登場です。
上下グレーの制服を身に着けた鈴木さんは、
たくさんの丸い物体が貼り付けられたシートを
穏やかな笑顔で僕に手渡すのでした。


第18回
動眼はカワイイ。2



山下 ‥‥す、すばらしいです。
これが、全種類の動眼ですか‥‥。
鈴木 そうですね、特注の場合をのぞけば、
動眼に関してはそんなラインナップです。

このコーナー第1回でご紹介しました、
動眼(どうがん)の再登場です。

いきなり、ほぼ日手帳に動眼。



読者の方が送ってくださった画像です。

=
わたしはコレに動眼をつけました!
きょときょと動いてかわいい〜!
つい、いろいろ書きたくなります!
(しょうちゃん)

とのこと。
他にもいっぱい、ほんとうにたくさんの、
ご感想をいただいております。
動眼人口、予想以上に増えている様子。

人々のカワイイのツボを押す、動眼。
これをつくっている会社の社長は
さぞかしカワイイもの好きに違いない!
強くそう思い込んだ僕は、
工場の所在をなんとかつきとめ、
ついにこの日、埼玉にある
動眼メーカーへとたどりついたのです。
バスの窓から工場が見えたときには、
驚きと感激ですこし足が震えました。
だって、ほら、これですよ。



さて、それではまず、
動眼の歴史からうかがってみましょう。

鈴木 この動眼というものはですね、
昭和20年くらいから生産しているんですよ。
山下 なるほど、スズセイさんではその頃から‥‥。
ほかにつくっている会社はあったんですか?
鈴木 いやいや、ありませんよ、
動眼はわたしのほうで考案したものですから。
山下 え? そうなんですか、
こちらで生まれたものなんですか。
鈴木 ええ、わたしの父が考案しまして、
当時は特許も取得していました。
山下 そうなんですか‥‥。
動眼が日本生まれだとは知りませんでした。
鈴木 当時の動眼はですね、東京都認定の
優良輸出商品だったのですよ。
あの頃は輸出に力を入れてましたから。
山下 そんなに立派な肩書きまで‥‥。
動眼が流行した時期とかあったのでしょうか。
鈴木 これ自体が大流行ということはないですが、
昭和30〜40年代はたくさん出ましたね。
それ以降は、まあコンスタントに。
山下 コンスタントに、現在もこれだけの種類が
生産されているわけですね。
ん? これは、ボタン?
鈴木 ええ、糸で縫い付けるんです。
山下 裏がシールのものはないのですか。
鈴木 ああ、そういうのもありましたが、
いまはつくってないです。
山下 ‥‥そうですか。
サイズは、こんな感じで。
鈴木 はい、いちばん小さいのが3ミリです。
山下 ちっちゃいなあ、虫の目くらいですかね。
鈴木 そして、大きいのが30ミリ。
山下 はい、これは僕もお世話になっています。
‥‥もっと大きいのはないのですか?
鈴木 特注でなら何度かつくりましたが‥‥
ですがしかし、そんなに大きな目玉をつける
人形とかヌイグルミはあまりないでしょう。
山下 いや、あの、冷蔵庫とか‥‥。
鈴木 冷蔵庫?
山下 じつは僕は、人形やヌイグルミじゃなくて
ただのモノに貼るんです。こんな感じで。
鈴木 ‥‥ほう、おもしろいですね。
山下 ありがとうございます。
鈴木 (笑)おもしろい。
山下 (笑)ええと、こちら、
目玉のスズセイということですと、
もちろん動眼以外にも目玉を‥‥。
鈴木 はい、現在はこういう、
クリスタルアイというものが主力です。
山下 なるほど、このヌイグルミがそうですね。
鈴木 目玉をどれにするか、これが微妙なんです。
ちょっとしたことでかわいさが変わります。
山下 そうですよね、目は重要ですよね。
キャラクターものはとくに。
鈴木 国内の正規キャラクター商品の目玉は、
まずほとんど、うちでつくったものです。
山下 え、それは、例えば?
鈴木 まあ、ディズニーのものとか。
あとは、ジャイアンツのマスコットとか、
警視庁のピーポーくんとか‥‥いろいろです。
山下 へえ〜、そうなんですかあ。
鈴木 そうしたデフォルメした目玉の他に、
こういうリアルなものもあります。
山下 ‥‥すごい。
鈴木 こうした人形の目になります。
山下 うわあ、こ、これはまた‥‥。
鈴木 かごちゃん。
山下 え?
鈴木 いや、あの、モー娘。の。
山下 ああ!
鈴木 似ていると思うのですがどうでしょう。
山下 (笑)たしかに、すこし。
‥‥で、あの鈴木さん、
きょうはですね、ぜひ動眼がつくられている
工場を見学させていただきたいのですが‥‥。
鈴木 ん? いや、それは無理ですよ。
動眼はすべて中国工場ですから。
山下 ‥‥‥‥そうなんですか。
鈴木 はい。
山下 とても残念ですが仕方ありません‥‥。
でしたらせめて、きょうは
動眼をゆずっていただくというのは‥‥。
鈴木 ああ、かまいませんよ。
山下 売っていただけますか!
鈴木 1個や2個ではちょっとアレですが、
千個からでしたら。
山下 せ‥‥‥‥。わかりました。
では、に、2千個ください。
鈴木 (笑)そんなに高いものではないですからね。
待ってください、いま電話して用意させます
‥‥‥‥あれ?
山下 すみません。
さっき勝手に僕が貼りました。
鈴木 ‥‥‥‥‥‥おもしろい(笑)。

こうして鈴木社長のおはからいで、
僕はとても安価に2千個の動眼を
手に入れたのでありました。
しかし‥‥勢いで購入したものの、
これだけのものを、どこに貼りましょう‥‥。




かわいさ、再確認。

以前もご案内しましたが、
動眼は全国の手芸品屋さんに売っています。
探してみてくださいね。




てさて、
取材を終えて埼玉から帰宅する道すがら、
あちらこちらに動眼を貼ってみました。
ちなみに、貼った動眼は撮影後、
すみやかに剥がしております。
40を過ぎた大人として当然のことです。

では、ダダッといきます。


はい、バス停に動眼。
「待つって‥‥つらいことだよね」

降りますボタンに動眼。
「押すと、ボク光るよ」

ポストに動眼。
「食わせろ! 手紙とかハガキとか」

公衆電話に動眼。
「じゅ、受話器が重たい‥‥」

埼玉のイチョウに動眼。
「‥‥おぬし、この土地の者ではないな」

車止めに動眼。
「ストーップ! 車、ストーップ!」

ゴミ箱に動眼。
「ぽかーん」

消火器に動眼。
「せ、背中がかゆい‥‥」

火災報知器に動眼。
「ほえ〜、たいしたたまげたあ〜」

また公衆電話に動眼。
「持ってごらんよ、ホント重いんだから‥‥」

吉川駅の改札に動眼。
「タッチするならすればよかろう」

駅の階段に動眼。
「俺を踏んで進めばよかろう!」

よしかわに動眼。
「改札と階段が生意気ですみません」

おお! これは!!



黄色い線の内側に動眼。
「そうそう、ボクより出ないでね」

吊り革に動眼。
「見てないで、ぶら下がれば?」

とっぷり日が暮れて、無事帰宅。

わが家の玄関に動眼。
「おかえり、よくがんばったな」

2004-05-19-WED

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