第6回 幻のホームラン。
糸井 けっきょく、中日で、
選手としては2年でしたっけ?
川相 3年です。
コーチ時代も含めると、7年。
糸井 8年目を迎えるところだったんですね。
じゃあ、もう、中日の人として。
川相 完全にそうなってましたね。
糸井 そうかぁ‥‥。
これも素人意見ですけど、
あるチームの強みも弱みも知ってる人が
それをぜんぶ持って
ほかのチームに入るっていうのは、
けっこう、大きなことですよね。
その、わかりやすくいえば、
その情報はかなり役に立つでしょう?
川相 そうですね。
糸井 でしょうねぇ(笑)。
こういうくせがある、みたいなこととか、
いろんな情報を持ってるわけですから。
川相 まぁ、ぜんぶを伝えることはできないので、
そのときどきで選手にアドバイスしたり、
っていうようなことでしたけど。
糸井 でも、そのひと言があるだけで、
きっと、だいぶ違いますよね。
川相 違いますね。
具体的に役に立たなくても、
そのひと言で気がらくになるだけで、
だいぶ違うと思います。
糸井 そうですよね。
川相 相手がどういう選手なのか
まったくわからなかったら
ふつうはむちゃくちゃ警戒します。
だけど、じつはこうなんだよ、って
ちょっと言うだけで
「あ、そうなんすかー」ってなって
少し気がらくになるっていう。
糸井 それは、配球のクセみたいな、
具体的なことじゃなくっても。
川相 もう、なんでもいいんです。
「こういうところをついていこう」
みたいなことでも、
まったく知らないよりはいい。
糸井 逆に、向こうはわかってるんじゃないかと
思うだけで、相手はイヤですからね。
川相 そうですよね。
糸井 だって、あの川相が、
相手チームにいるんだもんなぁ。
そりゃ、イヤだよなぁ(笑)。
赤坂 そうですね(笑)。
川相 (笑)
糸井 だって、思えばさあ、
川相さん、あのときに、
巨人の選手としていたんだもんね。
松井秀喜がいまでも思い出したくない、
って言ってる「10.8」。
川相 ああ、はい。もちろんいました。
糸井 あのときの選手が
相手チームに移ったわけだから、
そりゃ、大きなことですよ。
まぁ、あのときは落合さんも巨人でしたけど。
川相 そうですね。
糸井 川相選手はですねえ、あの試合の最後に、
じつはホームランを打ってるんです。
赤坂 ああ、そうです(笑)。
川相 バックスクリーンですね。
糸井 なのに、二塁打だったんですよね。
川相 そう、幻のホームラン(笑)。
二塁打じゃなくて三塁打でした。
糸井 三塁打でしたか。
でも、あきらかに打球は
スタンドに入って跳ね返ってた。
川相 ま、しょうがないですけどね。
永田 (こらえきれず参加)
しかも、川相さん、
あれってあの年の第1号なんですよね。
川相 そうなんです!
あの年、ぼくはホームランを
1本も打ってなかったんですよ。
で、9回表ですから、最終試合の最終打席で
バックスクリーンに打ったんです。
永田 劇的なはずが、幻に。
川相 ねぇー(笑)。
糸井 あのとき、自分としては
ホームランだろうって思ったんですか。
川相 や、ぼく、実際、
打球が入ったところは見てないんですよ。
打って、走って、
ちょうどファーストベースを回ったところで
パッと見たら跳ね返ってきた。
審判が「セーフセーフ」ってやってるから
それでぼくは必死に走って
サードにヘッドスライディングしたんです。
相手も投げてきたから(笑)。
そしたらなんかベンチが騒いでて、
長嶋さんが出てきて、
抗議してくれたんですけどね。
糸井 でも、いまにして思えば、あの場面、
そんなに食い下がらなかったと思う。
それはもう、試合の流れを変えずに行こう、
みたいなムードがあったから。
赤坂 ありました、ありました。
糸井 なんていうか、球場全体に、
もう決着はついたっていう感じがあったよね。
それって、あの時代の野球だなぁ。
いまだったら、絶対そんなことないですよ。
もっと必死に抗議してる。
川相 そうですね、ほんとに。
糸井 やっぱり、野球は変化してるんだろうね。
いまなら絶対、そんな余裕はない。
あの状況でホームランなのか
ツーベースなのかって、
ものすごくおっきいことでしょう。
川相 えらいことですよ。
あの1点、むちゃくちゃ大きいです。
糸井 なのに、あのときのみんなの気持ちは、
「流れを変えずに行けば、
 その1点がなくても勝てる」
っていう感じでしたよね。
川相 そう、途中からは、
「負けない流れ」だったんです。
糸井 それ、もっと詳しくことばにできます?
川相 そうですね、
なぜ、そう感じたかというと──。


(続きます)
2010-12-08-WED
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