第4回 プライド。
糸井 誰が、どういうふうに動いて、
川相さんが中日へ移ったわけ?
赤坂 落合さんですよ。
糸井 あ、やっぱり。
赤坂 あのとき、落合さんは、
日刊スポーツの専属評論家だったんです。
で、ある日、落合さんが、日刊の記者に
「川相、まだやる気あるのか」って
訊いたらしいんです。
日刊の巨人担当が、
「あると思いますよ」って返したら、
「よし、じゃあ、川相をとろう」
ってことになった。
糸井 へぇ!
赤坂 当然、日刊はそれを書きますよね。
『川相とるぞ』って。
それは、いわゆる、
日刊の「抜き」になりました。
糸井 すっぱ抜き。
赤坂 そうです。
日刊だけが『川相とるぞ』って書いた。
たしか、そのときの発言としては、
すぐに受け入れるっていうんじゃなくて、
「巨人を辞めて中日に来る以上、
 骨を埋める気があるのか確認するために
 テストを受けてもらう」
っていうことになってましたけど。
ただ、もともとは「とるぞ」から
動きはじめてる話ですからね(笑)。
糸井 かたちだけのテストですね。
実際、テストはあったんですか。
川相 いちおう行きました。
糸井 走ったり、打ったり、守ったり?
川相 ぜんぶやりました。
11月の4日くらいに
行ったんじゃなかったかな、沖縄に。
糸井 じゃあ、若手が秋季キャンプを
やってるようなところに混じって。
川相 そうですね(笑)。
まあ、1日か2日くらいでしたけど。
糸井 ‥‥でもさぁ、
その、ついこのあいだまで現役選手で、
それが強い決意とともに
引退するんだって一度心に決めて、
それがちゅうぶらりんになって、
よそのチームで選手をやるんだっていって
沖縄までテストを受けにいくわけでしょ。
その男の気持ちって、きっと、
もーのすごく、ややこしいですよね。
川相 ややこしいですね。
あの1ヵ月はほんとうに落ち着かなくて‥‥。
もちろん、自分自身の気持ちも
ぜんぜん落ち着いてないんですけど、
もう、生活全体がそういう状態で。
要は、毎日、新聞記者の人が
うちに押しかけてくるわけですよ。
ぼくだけじゃなく、家族も落ち着かないし、
近所の人にもご迷惑をおかけしたし‥‥
たいへんな1ヵ月でしたね。
糸井 逆に、その喧噪があったおかけで、
凹んだり、落ち込んだりしなくて済む、
みたいな部分もあったり?
川相 いや、落ち込んでるどころか、
もう、ぼくのなかには
怒りしかなかったですね。
糸井 はぁーー。
川相 ぜったいもう一回やってやる! っていう。
糸井 なるほど、なるほど。
川相 たぶんそのとき、はじめてなんですけど、
21年間、巨人でやってきた
プライドみたいなものが出ました。
糸井 つまり、踏みにじられたというか、
軽んじられたという思いがあったんですね。
川相 その、それまでは、
そんなにむちゃくちゃ球団に
ムリを言ったこともないし、
まぁ、ぼくだけじゃなく、そういう選手が
いっぱいいたわけじゃないですか。
赤坂 まぁ、そうですね。
糸井 あの時期の人たちね。
赤坂 村田、斎藤、槇原‥‥。
まだやれた、と。
もちろん、桑田真澄も。
糸井 まぁ、どうしてもファンとしての思い入れが
たっぷり入っちゃいますけど、
あのころの人たちについては
みんなそういう感じがしますね。
きっと、ほんとうの思いをぐっと飲み込んで、
ユニフォームを脱いだんじゃないかなぁと。
でも、それって、ようするに
「藤田巨人」の人たちなんだね。
赤坂 そうなんですよね。
あっさり辞めたのは原辰徳くらい‥‥、
いや、でも、原さんも、
やっぱりそうとう葛藤があったらしいし。
川相 あったと思いますけどね。
糸井 あの人は、くやしかったとか、
そういう話はなるべくしないからねぇ。
赤坂 そうそう。
でも、ないわけないですよね。
最後のほうは自分に代打が出たり、
納得のいかない起用もあったはずだし。
糸井 なんていうか、あの時代って、
巨人に限らず、野球界の体制とかムードが
大きく変わる時期でしたよね。
野球人がコントロールするチームから、
会社のチームに変わっていった時期。
川相 そうですね。
赤坂 たしかに、巨人軍も、
会社会社したチームになっていきました。
糸井 うん。
川相 とくにFAがはじまったころですね。
ぼくがレギュラーになってからの10年間が
ちょうどそういう時期かもしれない。
糸井 たしかに、10年前なら
川相さんはああいう出かたを
しなかったと思うなぁ。
赤坂 でも、1年経ったら
世間の反応はこうなってたんだからさ、
かえってよかったのかもしれないですよ。
糸井 また出してきたね(笑)。
赤坂 今度は、トーチュウの一面です。
1年経ったら、『中高年の星』と。
昨年リストラ、今年はバラ色っていうことに
なっちゃったわけですから。
川相 はははははは。
糸井 じゃ、そのへんの話を。


(続きます)
2010-12-06-MON
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