主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート75
顔の左右対称の科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

ただ今、雑誌レタスクラブで
料理・洗濯・掃除 など家庭生活を総合的に研究する
「レタス家総研」を連載中です。
もし本屋さんで見かけたら
手にとって見てくださいね〜。

‥‥いきなり宣伝で失礼しました。
その連載のために、撮影をすることになります。
まずはポラロイドで試し撮りをするわけですが
右から撮った研究員Aの写真と
左からのを見比べたカメラマンさん、
速攻で「うん、右からの方が良いですね」と。

確かに、そのポラを見せてもらうと
左からの方がなんだか間延びして見えるというか
その割にはきつく見えるというか。


へええ〜知らなかった! と思って
その話を所長(夫)に話したら
「キミの左からの顔がイマイチなのは公知の事実!」
と。うーーーん。だったら早く教えてよ‥‥。

誰にでも多かれ少なかれ
左右差はあるとは思うのですが
皆さん気にしてらっしゃいますか?

研究員Aのように、今さら気がついたという人もいれば
しっかり把握して有効利用しているって方もいるかも。
「写真撮られるときは、ぜったいこっち向き!」って。
「勝負角度」って呼び方も存在するみたいだし。

そんな「左右非対称」な研究員Aにとって気になる話が。
「左右対称な生物は魅力的でモテる!」というもの。
なんでも、昆虫も、鳥も‥‥そして人間も
左右対称な個体がモテモテらしいとのこと。

左右"非"対称人としては聞き捨てならない説です。
というわけで、今回は「左右対称は魅力的?」を
レポートしてみることにします。

平均顔以上の美顔は、それほどいない?

まずは、左右対称が魅力的かどうか探る
とっかかりになりそうな
「平均顔」の話から入ることにしましょう。

東京大学 原島・苗村研究室では
コンピュータ・グラフィックスの技術で、たくさんの人の顔の平均をとった「平均顔」の研究をしています。

例えば、こちら
「東大大学院生男子」22人の平均顔になります。

ほほー、なかなかの美男子じゃないですか。

この研究をしている原島博教授は
著書『人の顔を変えたのは何か』の中で
こう書いています。

ある人にこの平均顔を見せたとき、
「平均でこれくらい美男子なのだから、
 東大生の半分はこれ以上の美男子なのですか?」
という質問を受けた。
要するに、この顔が中間なのだから、
半数はもっと美男子なのだろうという発想なのである。
が、実際に東大生を見ると、
平均顔以上の美男子はそれほどいない。

(原島博『人の顔を変えたのは何か』河出書房新社)

それほどいない‥‥それほどいない‥‥。
まあ、この件に関してはノーコメントってことで〜。

ま、とにかく
平均顔は「平均値の顔」に非ず! なのです。
では、なぜ何人もの顔の平均顔を合成すると
「美化」するのでしょうか?

個人個人の顔は、「不均衡」がありますよね。
複数の顔を平均すると、その「欠点」とも言える
不均衡が取り除かれるのです。
右に崩れた顔と、左に崩れた顔の平均をとれば
バランスがとれるようになる。

だから、平均顔が魅力的に見えるのは
バランスがとれる‥‥つまり
左右対称に近づくからなのです。
実際、平均する顔が増えれば増えるほど
「魅力的」に見えるようになるということ。

その他の集団の平均顔を紹介した
平均顔ギャラリーもなかなか興味深いです。

顔の右側が全体の印象に近い?

このように、平均顔のなりたちを見ると
「バランスの取れた左右対称の顔」
が魅力的らしい、ってことがわかります。

「バランスがとれた」顔・身体が好まれるのは
進化論的な解釈もされています。
自然界の中での平均は
すぐれた健康と機能をあらわすことが多いのです。
嵐で生き延びた鳥は、もっとも上昇しやすく飛びやすい
標準的な大きさの翼をもつ鳥だった、
という結果もその一例。

そして「左右対称」は、1980〜90年代を通じて
動物行動学で大流行したテーマでもあります。
「左右対称の(シンメトリーな)個体ほどモテる」
という仮説です。

例えば、シリアゲムシのメスは左右対称なオスを選ぶし
ツバメも左右対称な尾を持つオスがモテる。

それだけではなく、人間の男性に関しても
「左右対称の身体を持つ人間の男性ほど異性にモテて、床上手」
なんていう、行動生態学者のランディ・ソーンヒルと
心理学者スティーヴ・ガンゲスタッドによる研究が!

半信半疑ながらも興味深い説ではありますが‥‥
残念ながらカソウケンじゃ検証しようがないので
とりあえずこの説を受け入れることにしておきましょう。

いずれにせよ、「平均顔」は
そして平均顔の特徴でもある「左右対称顔」は
好感度が高いことは確からしいです。

じゃ、ある人の右半分なり左半分なり
片側の顔を合成してみたら
「その人の理想の左右対称顔」になって
美形化できるのでは?
なんて虫の良い考えが浮かぶ研究員A。
で、やってみました。


左から順に
「(本人から見て)右半分の合成顔」
「オリジナルの顔」
「(本人から見て)左半分の合成顔」

なのですが。‥‥ちがうー、なんかちがう!
特に左側合成!! ううう。
単に左右対称にすれば良いってものでもなさそうです。
(それ以前に「歪み」だとか「崩れ」があるからでは?
 というツッコミはご勘弁‥‥)

不自然ではあるものの、「右側合成」は
本人的にマシな気がするのです。
カメラマンさんが「右が良い」と
即答したのもわかるかと。

それは研究員Aの顔に限らないみたいです。
一般的に顔の右側は左側よりも
顔の全体像に「近い」印象をあたえるらしいのです。

それは、知覚回路のなりたちによっているとか。
知覚の回路は脳に繋がっていて
左目で感知したものがまず先に
右半球の脳に伝達されます。
私たちが人の顔を見るとき
その人の右頬はまっすぐ私たちの右半球に
左頬は回り道をしたのちにやや遅れて伝達されます。

相手の顔の右側の特徴が先に脳で処理されるので
私たちの脳の中では相手の右側が「優勢」になって
顔の右側が顔の全体像に近いとみなされるのだとか。

それにしても、この片側合成顔を作ると
ますます左右非対称っぷりが明らかになったというか‥‥。

でも、原島博教授は
「人の顔を変えたのは何か」でこうも書いています。

顔の左右の非対称性は、いい意味でも悪い意味でも、
その人の個性の反映として出てくる。そして
それが良い方向にでれば、その人の魅力にもなる。

(原島博『人の顔を変えたのは何か』河出書房新社)

せめて、良い表情作りを心がけて
「良い左右非対称」な顔を目指そうかなと
前向きに考える研究員Aであります。

今 回 の レ ポ ー ト の ま と め

「写真? ちょっと待って!
 ワタシ右側からのほうがいいの」
という女性に憤ってはいけない。
そこには物理的な違いが
ちゃんと存在しているのである。




参考文献
  『人の顔を変えたのは何か』
原島博・馬場悠男著 河出書房新社
『顔学への招待』原島博著 岩波書店
『なぜ美人ばかりが得をするのか』
ナンシー・エトコフ著 草思社
『シンメトリーな男』竹内久美子 新潮社
参考サイト   東京大学 原島・苗村研究室コスメトロジー研究振興財団


2006-05-19
-FRI


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