主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート73
理系ウンチクくんの、恋のゆくえ。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

最近、こんなニュースを見かけました。

文部科学省が「デートで使える科学ネタ」を
紹介したフリーペーパーを

今月末発行の都市情報誌「東京ウォーカー」
「東海ウォーカー」(角川書店)などに
とじ込むほか、首都圏などの駅や
コンビニエンスストアなどで配布する。

うんうん、デートの話題に科学ネタが
あったっていいわけです。
というわけで、文部科学省が推奨する
「科学なデート」。
研究員Aにはこんな経験があります。

東京タワーの高さを計算せよ! って‥‥。

目の前に見える東京タワーに向かって
二人で歩いているときのこと。
「あの東京タワーは何メートルの高さだと思う?」
と彼に聞かれました。
そんなこと急に言われても
よくわからないから適当に答えた研究員A。
そしたら「それは論理的に間違ってる」との答えが。
ろ、論理的に間違ってるって‥‥。

すると彼は
ある地点(A)からある地点(B)までに歩く間に
歩数を数えてそのAB間の距離を概算し
さらにそのA地点・B地点から見上げた
東京タワーの角度の値から
東京タワーの高さを計算して出してくれたのでした。

【蛇足かもしれない解説】

A地点から東京タワーを見上げた角度が
30度だとすると、
30, 60 ,90度の直角三角形から
(東京タワーの高さ):(A-東京タワー間)=1:√3
になるわけです。

B地点から東京タワーを見上げた角度が
45度だとすると
45, 45, 90度の直角三角形から
(東京タワーの高さ):(A-東京タワー間)=1:1
になりますね。

だから、AB間の距離(√3-1=0.73)の値が
歩数×歩幅からわかれば
東京タワーの高さ(1)も見積もれてしまうというわけ。

とまあ、こんな風に図にしてしまえば
なんてことない話なのですが
これをお喋りしながら
頭の中でやってのけたあの彼は
角度計・万歩計・計算機を
装備していた人に違いないのだ。
 

‥‥ね、科学館みたいな場所に行かなくても
街中でだって立派な
「科学っぽいデート」になってるでしょ?

研究員Aはこの手の科学ウンチクを
語る男性は大好きなのです。
だがしかし! この話を某所で書いたところ
どうも女性陣からの評判がよろしくない。

「私もウンチクくんは好きだけど
 この人は一歩はみ出していてただのイヤな奴」
 
「所詮は、展示(ディスプレイ)するだけの求愛行動。
 一方通行。会話のキャッチボール能力に長けた
 オスには敵わないのでは」
 
「ひけらかし系はアウト」

だだだダメですか〜? 
まさにファインマン的な科学ウンチクで
研究員A的には
「ストライクゾーンど真ん中」なんですけど‥‥。

とはいえ、理系男性がデートで
語りがちであろう「科学ウンチク」は
女性にドン引きされる危険を秘めたものであることは
間違いないでしょう(お、言い切るか?)。

そんなテーマを取り上げた
清水義範氏の「筑波の恋」という
短編小説があります。
(角川文庫『ジャンケン入門』に収録)

この話のあらすじは、こんな感じ。
彼女いない歴31年の理系研究者(専門は熱力学)が
ある普通の女性と初デートをしました。
(理系の女は普通じゃないのか、わたし!)

デートコースは
「熱力学センター」に「プラズマ研究所」‥‥‥‥。
普通じゃない(かもしれない)研究員Aだって
このコースはさすがに‥‥イヤかも。

そして、この彼は!
こともあろうにデートでの会話で
エントロピーの話を持ち出したのです。
(参照:エントロピー増大の法則
さらなる不幸は
話の腰を折ったら悪いと思う彼女が
感じよく話を聞いてしまったこと。
そして彼は調子に乗って暴走が止められなくなり
彼女の前でエントロピーに関する
大熱弁を振るうわけです。
‥‥この恋の結果は推して知るべし
という切ない? お話。

このお話の最後に導き出された教訓はこれ。

「デートの時にエントロピーを話題にしてはならない」

というわけで、理系の男性諸君。
デート時で相手の女性がにこにこ頷いていても
会話が盛り上がっているとは言い切れません
単にその女性が
「その場の雰囲気を壊したくない」だけに
我慢してくれてる可能性もあるわけですから。

研究員Aはこの手の「暴走トーク」も
大好きなんですけどね。
もちろん、話の内容は難しくて
理解できやしないのですが
こんな感じに「得意分野」の話に
歯止めがきかなくなっている
相手を眺めること自体が楽しいっていうか。
その暴走具合、なんかかわいいじゃないですか。

理系なデートの、勝利のアドバイスは?

ま、そんな研究員Aの趣味はともかく!
上で紹介した「筑波の恋」の文中には
もう一つ重要な指摘が隠されています。

デート相手の女性が
「弟が工学部で、自分のことをデブとからかうのに
 『比重が小さい』というんです」
と言うと、その男性は
「どういう意味だろう」
となんて答えちゃうのです。
そこで語り手の視点からのツッコミが。
「とりあえずここは、
 あなたがデブだなんてとんでもない、だろうに」

あははは、ありがちありがちー。
デリカシーがある&女心の解読に長けた人だと
「あなたがデブだなんてとんでもない」
と即座に言えると思うのです。

でも、不器用な理系くんだと
この彼が考えたとおり
「脂肪の保温作用のことなら
 比重ではなくて比熱の問題では?
 そして比熱が小さいのではなく、大きいのでは‥‥」
という方向に興味が走ってしまい
フォロー発言のことなんか気が回らなくなる、と。

研究員Aのデート相手だった彼の
「それは論理的に間違っている」なんてのも
「ひとに質問しておいてなによそれー、きー!」
な発言ではありますが
そんな純粋な「理系心」の表れと考えて
水に流してあげることにしましょうか。
(ここでネタにしている時点で
 充分取り返しているという解釈もなきにしもあらず)

というわけで、「理系ウンチクくん」の
恋の傾向が少しばかりわかったので
対策を考えてみましょう。

(1)研究員Aのような物好きを探す
(2)理系ウンチクで暴走しない。
   理屈よりも女心を優先した発言を心がける。

とはいえ、(1)の女性は少数派らしいので
(カソウケン調べ)
(2)の対策を目指した方が賢明かと
老婆心ながら申し上げさせて頂きます。

というわけで、老若男女のみなさま。
素敵なデートで素敵な会話を楽しんでくださいね。

今 回 の レ ポ ー ト の ま と め

理系ウンチクくんは、
デートするときは
理屈よりも女心を優先しなさい。




参考文献
  『ジャンケン入門』
 清水義範著 角川文庫


2006-03-24
-FRI


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