主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート70
その4
電子レンジの科学


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

5回にわたっておおくりしている「電磁波の科学」。
今回は第4回です。
多くの家庭の台所にあると思われる「電子レンジ」。
これについて科学してみます。
電子レンジも「電磁波」を利用した製品ですので。

はじめに、これまでのおさらいを少しだけ。
前回までに「電磁波といってもいろいろある」
そして「波長によって性質も呼び名も違う」
ということを書いてきました。

第2回に載せた表をもういちど載せますね。

電磁波名 波長(m) エネルギー 被照射物への影響
γ線 10-12 1240000 核分裂・ガン治療・品種改良
X線 10-11 124000 診断・検査
紫外線 3×10-7 4.1 化学変化の誘発・殺菌
可視光線 5×10-7 2.5 写真
赤外線 10-4 0.012 表面加熱・暖房
マイクロ波 10-1 0.000012 内部加熱・レーダー

今回のお題である電子レンジは、この一番下にある
マイクロ波を利用したものです。
「あっ」という間に食品を温める機械ですから
もっとエネルギーが大きいかと思いきや、
「可視光」に比べてもずいぶん小さいもの。

では、なぜこのマイクロ波が
便利に食品を温めることができるのでしょうか?
そのあたりを探ってみましょう〜。

そこで、オーブンと電子レンジを比較してみます。
オーブンは、ヒーターがまず庫内の空気を
あたためますよね。
その熱くなった空気を通じて
熱が食品に伝わり、食品を外側から加熱します。
つまり、熱源と食品の間にある「空気」が
「熱の運び屋さん」になっているというわけ。

一方で、電子レンジは食品を
「直接」温めることができます。
マイクロ波の発生源から食品の間に
「空気」があったとしても関係なし。
電子レンジの場合は空気が
熱の運び屋さんではないのです。

なぜかというと
マイクロ波はいきなり! 食品の中の
「水分」に働きかけるから。

電子レンジに使われるマイクロ波の振動数は
2450MHzになります。
この領域の電磁波は「特に」水によく吸収され
水分子を1秒間に24.5億回振動させます。
それはもう大変な話です。
それだけ振動させられるのですから
大きな摩擦熱が発生します。
これによって発熱する原理を使ったのが
電子レンジなのです!

食品の中の水分にダイレクトに効くから
電子レンジはスピード加熱ができる!
というわけ。
オーブンのように、
「空気」にエネルギーを奪われる、
というムダがないのです。

電子レンジはほんとうに
食品の中心から加熱されるのか?

さて、このマイクロ波ですが、
食品に直接届くといっても
「表面だけ」に届くのではありません。
このときの浸透の距離は約3センチほど。
中心部の方が先に加熱されることもあります

‥‥なんと書かれても、まるで実感がありません。
というわけで、実験してみました!

じゃがいもを「普通の鍋」と「電子レンジ」という
2通りの方法で茹でてみて
その熱の通り方を比較しました。
じゃがいもは生の状態だと不透明な色をしていますが
火が通ると半透明になるから一目瞭然!のはず。

【実験1】鍋で茹でてみた
鍋に水を入れ、沸騰後5分加熱
10分加熱・15分加熱したものをそれぞれ取り出し
半分に切り、断面の様子を調べる。

【実験2】電子レンジ加熱してみた
ジャガイモを水にくぐらせ、ラップで包む。
500Wの出力の電子レンジで40秒・1分・2分
加熱したものを取り出し、半分に切り
断面の様子を調べる。

ちなみに、今回の実験で使ったジャガイモは
いずれも長径(と呼んで良いのか?)
6cm前後のものです。

まずは【実験1】の普通に茹でたときの結果です。

左下から時計回りに、5分・10分・15分加熱したもの
となっております。
見事に周りから半透明になっていきますね。
写真がいまいちなのでわかりにくいですが
15分では全体が茹で上がっています。

そしてこちらが【実験2】電子レンジの結果になります。

普通に茹でたときと明らかに結果が違う〜。
逆に、中心から加熱されていることがわかります。

確かに、マイクロ波は表面だけ加熱するのではなく
食品の深いところまで届くことがわかりました。

この実験結果に、すごーい!おもしろーい!
とはしゃいでいた研究員Aでしたが
この後、6個のジャガイモの行方に
頭を悩ませる羽目になるのでした。
しかも生煮え状態のものがほとんどだし!

電子レンジと卵は相性が悪い?

さて、電子レンジでは
「生卵を入れてはいけない」
という鉄則があることを
多くの皆さんがご存じかと思われます。
卵には、殻の内側&黄身の周りに「膜」があります。
それらの膜の内側にある水分が水蒸気になると
体積は急に大きくなり
(水→水蒸気になると、1,700倍に!)
膜を破って破裂してしまうのです。

そんな電子レンジと相性の悪い卵のはずですが
「一工夫」して電子レンジで
ゆで卵を作るレシピを見つけました。
調子に乗って、これも実験してみました。

その方法が載っていた
「電子レンジ『こつ』の科学」によると
実験の「レシピ」は次の通り。

1.
 生卵をアルミ箔で包み、
 卵がかぶるだけ水を入れて加熱。
 3分間沸騰させる。
2.
 タオルをかけて、3分間保温すると半熟卵
 10分間保温するとゆで卵ができる。

はい、実験です。

卵をアルミホイルで包んでみた。
水を入れたコップの中に入れてみた。
ここで電子レンジ500Wで3分。
タオルにくるんで5分待ってみた。

さて! 卵をアルミホイルから出して
水に入れて冷やして、殻をむいてみると
‥‥あああ〜っ!まだ白身が固まりきっていない!

うわーん、こんなぼろぼろ。
これってほんとに半熟?
切ってみた。
半熟卵っていうか四半熟卵??

食べてみた。
もぐもぐ‥‥まあ、普通においしい。
でもねえ‥‥なんといいますか、
普通に鍋で半熟卵作った方がラクなのでは‥‥。

自由研究のネタとしては面白いかもしれないけど
普段のお料理には向かないレシピかも、と
さすがの研究員Aも思うのでした。

電磁波は金属を通さない!

とはいえ、このゆで卵実験は電磁波の
大事な特徴を教えてくれる実験であることは確かです。

それは金属は電磁波を通さない、ということ。
金属の周りの電子たちと、電磁波を作っている電子たちが
電気的に反発し合って寄せ付けないからなのです。

この実験で「アルミホイルに包んだ卵」には
直接マイクロ波が届かず、破裂することはありません。
でも、普通にコップに入った水を
沸騰させることはできます。

だから、この実験での卵は
「沸騰したお湯の中で茹でている」
という状態になるわけです。
だから、鍋で卵を茹でているのと同じことですね。

今 回 の レ ポ ー ト の ま と め

電子レンジのマイクロ波は‥‥
・食品中の水分子に直接「効く」。
・表面だけでなく内部の
 深いところまで届く。
・金属には反射されて
 通過することができない。

さて、実験の副産物である6個の生煮えジャガイモ。
3個はポテトサラダに、3個はフライドポテトにと
変身しました。
ムダにならなくてよかったよかった。
‥‥と考えているあたりがカソウケンの
スケールの小ささを物語っています。


(つづきます!)




参考文献
  『調理とサイエンス』
 学文社 品川弘子他著
『暮しのコツと科学』
 筑摩書房 南和子著
『新版 電子レンジ「こつ」の科学』
 柴田書店 肥後温子著


2005-12-09
-FRI


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