主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート51
周期表は永遠に未完成?!
新しい元素発見の科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

前回の『カソウケンへようこそ』出版のお知らせ
周期表への愛を語った研究員Aです。
のカラーページにイラスト版周期表を企画し
担当編集者をたいへんな目に遭わせた私です。

が、まだまだ語り足りません!
周期表と聞いただけで学生時代に赤点を思い出して
ぞっとするという、
このページの担当者の意見もなぎ倒し、
今回は、その周期表のお話を
たっぷり、させていただきます!
だいじょうぶです、
ちゃんと、おもしろい話なんですから!!!

(単行本をお求めくださったみなさま、
 どうもありがとうございました!
 お手元にあるかたは、ぜひ今回の話を
 周期表を横に置いてお読みくださいませ。
 お持ちでない方はこちらを開いてくださいね〜!)

周期表の元素は増えている!

周期表というのは、100ちょっとの種類からなる
元素たちを、その規則ごとに並べたものです。
この「周期表」、21世紀の現在も未完成だということ、
ご存知でしたか?!
「昔はともかく、この科学の発展した現代。
 周期表はもう完成しているのでは??
 発見されていない元素があるの?!」
そうなんです、いや、それが、違うんですよ!
周期表の元素、どんどん増えているんです。
しかも、人間が「作って」いるんです!

ちょっとびっくりですよね。
「元素を作る」なんて神の領域に思えることを
人間がしちゃっているのかーと。

しかも、です。
今、一番「最後」にある元素発見というレースの
トップに立っているのは、なんと日本。
昨年話題になったので
ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

それこそ中世の頃、錬金術という学問(?)がありました。
これは鉛などのその辺にある安い金属を
価値の高い金(gold)に「変身」させることができないかと
当時の人たちがあれこれ試していたものです。

今の私たちからすると
「そんなアホな。鉛が金になるわけないじゃない。
 だって、違う元素だもの」
と一蹴してしまうところ。

でも、この現代行われている「新元素発見」は
まさに現代の錬金術といえるものです。

原子というのはこんな形をしています。



原子核(真ん中の部分)の陽子や中性子の数で
元素のキャラクターが変わります。
要するに、原子核というのは
その元素の「指紋」みたいなものです。

だから、原子番号82の鉛を、いくら煮たり焼いたり
‥‥つまり化学的に反応させたとしても
その指紋は変わりようがありません。
だから、鉛は金に変身しない。
これが昔の錬金術がやろうとしていたことになります。

一方、現代の錬金術というのは
原子核を反応させて
「新たな原子核」を作ってしまうのです!
もとにある原子に新たな粒子
(別の原子核だったり電子だったり放射線だったり)
をあてて、「原子核反応」というものをさせます。
すると〜ほーら、新しい元素の出来上がり!

‥‥とはいえ、この原子核反応は
そう簡単にいきません(人為的に起こす場合)。
そりゃそーです。
ちょっとした「衝突」でいちいち
別の原子核に変わったりはしません。
ぶつける方の「粒子」を
ものすごーいスピードにして
ものすごーい量の粒子を
がんがんぶつけ続けるのです。

日本のグループ、元素を発見!

昨年元素発見レースのトップに躍り出たという
113番元素を発見したのは
理化学研究所(通称:理研)のグループですが
その概要がこちらにあります。

原子番号83、質量数209のビスマスのターゲットに
原子番号30、質量数70の亜鉛のビームを
照射するというもの。
原子番号83+30で、ちょうど113になりますね。

その新元素を作るレシピです。

(1)
まず亜鉛の原子核を、加速器を使って
光速の10%まで加速します。
光速の10%というと、1億キロ/時。
次世代新幹線の約30万倍。
でもそんなこと言われても
「東京ドーム○個分」と同じくらい
リアリティのない例えです。
とにかく速いのです。

当然、この速さにする「加速器」自体も
大がかりなものになります。
ちなみに、こんなものです。
理研線形加速器RILAC

バッティングセンターにあるマシンとは
わけが違います(あたりまえだ)。
そして、加速装置((c)サイボーグ009)とも
別物です(あたりまえだ)。
全長40mもあるというのですから、たいしたものです。

(2)
用意した(1)をビスマス原子にぶつけます。
今回は1秒間に2兆5000億個の亜鉛の原子核を
照射するのです。
「ゼロ」を並べて書いてみると
2,5000,000,000,000
になります。これが、1秒あたりの個数です。
そして、トータルの照射時間はなんと80日間!

つまりですね
80(日)×24(時間)×60(分)×60(秒)
=1700京(1,700,000,000,000,000,000)
これだけの回数を衝突させたことになります。

こうしてできあがったのが
たった1個の113番元素になります。

しかも、この113番元素、
不安定なのですぐに崩壊して別物になってしまいます。
その寿命は0.000344秒(344マイクロ秒)。
「あっ」と言う間もありません。
ですから、この出来上がった元素を検出する装置も
これまた大がかりなものになります。
なんだかよくわかりませんが、とにかくすごそうです。

天文学的な数字が並んでいるところで
できあがるのがたった1つ。
しかも、1万分の3秒であっという間に壊れてしまう。
素人にしてみるととてつもない話なので
「それって本当に『発見』っていえるの?」と
素朴な疑問をつぶやきたくなるのですが、
そんな方はぜひこちらをご覧下さい!
この成果を挙げた研究者たちのインタビューです。
きゃあ、なんてすてきなの! ‥‥ええ、感動しますとも!
何より、ロマンを感じます。プロジェクトXです。

中でも印象的なのは、
この成功があったのは
「幸運が続いたから」との言葉。
やれることは全部やっているから、あとは「運」だと。
なんでも、いろいろな神社にも行ったとか。
しかも、おさい銭はは113番元素にちなんで
113円と決めていたんですって!
泣けるじゃないですか。
(こういう話に弱い研究員A‥‥くくく)

元素の名前はどうやってつける?!

さて、発見された元素の名前ですが
再現性が認められ、確実な名前が決まるまで
「仮の名前」がつけられます。
そのルールはこちら
周期表の最後の方の元素に「ウンウンなんとか」という
おまじないみたいな名前が多いのはそういう理由です。
あくまで「仮」なんです。
113番元素の場合は「ウンウントリウム」になります。

そして、発見の確かさが認められれば
命名権は発見グループに与えられます。
だから、理研が名付け親になれるわけです。

名前の付け方はいろいろありまして
既存の元素でも

(1)発見者の国名や地名にちなんだもの。

  Am(95) アメリシウム アメリカ
Fr(87) フランシウム フランス

(2)核物理などで貢献した科学者にちなんだもの。

  Cm(96) キュリウム キュリー(夫妻)
Es(99) アインスタイニウム アインシュタイン

(3)あまり関係ないけど、神話などの神様にちなんだもの。

  Pm(61) プロメチウム ギリシア神話の火の神
プロメテウス
Th(90) トリウム 北欧神話の軍神トール

というわけで、「現ウンウントリウム」である
113番元素は、どんな名前になるのでしょう?

(1)方式だと
「ジャポニウム」「サイタミウム」
(理研は埼玉県にあるのよ)
(2)方式だと
理研とも関係の深い湯川秀樹にちなんだ
「ユカワニウム」?
(3)方式だと
天照大神あたりにちなんだ
「アマテラシウム」?


現在、理研の理事長であらせられる野依良治博士
(ご存じ2001年ノーベル化学賞受賞者)は
「リケニウム」をご希望だとか。

「新元素発見」という表現を見て
「発見? 合成じゃないの」と不思議に思われる方も
いらっしゃるかもしれません。
なんでも、このようにして見つけた元素は
「存在したことがあるけど
 寿命が短いからなくなっちゃった元素」
という見方をするからだそうです。
だから合成だけど、「発見」になると。

さて、このようにどんどん「合成」していけば
際限なく重い元素ができあがるのでしょうか。
‥‥そのあたりはまだわかりません。

でも、研究者たちは闇雲に新元素を
発見しようとしているわけではありません。
実は、元素は周期的に「安定」なものがあります。
例えば、マジックナンバーと呼ばれるものは
2,8,20,28…。それぞれ
He(2)ヘリウム
O(8)酸素
Ca(20)カルシウム
Ni(28)ニッケル
ですね。
このとき、原子核が特に
安定になるのだとか。

その安定な元素の原子番号を
マジックナンバーと呼びます。
このマジックナンバー、理論的に割り出せるらしく
次の「未知元素」のマジックナンバーは
114と予想されています。
そう、今回発見された113番元素の次なのです!

この114番元素は、おそらく113番元素よりも
けた違いに寿命が長いはず。
この「安定な島」(と呼びます)によって
原子核物理の『何か』が発見されるかもしれない!
『何か』に利用できるかもしれない!

世界中の研究グループが狙っている
この114番元素。
今回の理研のグループも
「113番元素をきっちりやったら(確認したら)
 次は114番」と目指しているようです。
今後の展開、たのしみですね〜。

というわけで、今回は「周期表」にまつわる
とてつもないスケールのお話をお届けしました。



参考文献
化学元素百科──化学元素の発見と由来── 岡本功編 オーム社
化学元素発見のみち D.N.トリフォノフら著 内田老鶴圃

参考サイト
独立行政法人 理化学研究所

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2005-02-11
-FRI


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