主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート41
こどもたちよ、親たちよ、
アインシュタインもダ・ヴィンチもこうだった!
「学習障害」のはなし 前編(全3回)


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

ビジネス書とか啓蒙書とか
マニュアル書などを好む研究員A。
そんなものを読むと
「ん〜今日からの私はひと味違うのよっ!」
と変身を遂げた気分になるのです。
はい、もちろんその場だけですけどね。
だって、「超整理法」を読んでも
相変わらずモノは散乱しているし
『捨てる! 技術』を読んでも
効果があったのはその後1ヶ月くらい。
相変わらずエントロピーが増大し続けるカソウケンです。

そんな研究員Aが懲りずに手を出したのは
「速読法」と「思考法」です。
あ、いまこれを読んでいるアナタ、
ふっと鼻で笑いましたね!
いいんですいいんです〜
その場だけでもその気になれたら。

どちらも
「普段使っていない領域の脳を利用しよう」
というもの。
ん〜ステキですね、この響き!
研究員Aだってニュータイプ((c)ガンダム)に
なれるかもなんて期待を抱いてしまいます。

この思考法の本でよく引き合いに出されるのが
レオナルド・ダ・ヴィンチです。
ダ・ヴィンチは言わずとしれた
絵画・科学・技術に通じた万能の天才。
彼は、なんと5万ページにも及ぶメモを残しています。

この手の本に書かれる「思考法」で
ほぼ共通するのは

頭の中にあることをメモ
メモとして視覚化することで
新たなアイディアを生む

というところでしょうか。
ダ・ヴィンチの手法を取り入れて
万能の天才に近づこうってわけです。

そして、速読法の本で登場していたのが
これまた天才の誉れ高いアインシュタイン。
右脳を駆使していた「らしい」アインシュタイン、
彼のやり方を見習って速読しよう、というのです。

万能の天才であるレオナルド・ダ・ヴィンチと
20世紀最大の頭脳と言われるアインシュタイン。
彼らにこのような「冠」がつくことに
異論のある方はほとんどいないでしょう。

やはり、というか面白いことに
この二人には共通点があったようです。
なんとそれは「脳の障害」。
彼らのような天才が?と思われる方が多いでしょう。
実は彼らの天才性はその障害があったからこそ
だというのです。
しかもそれは今、教育の現場で話題になっている
「勉強ができない」学習障害の症状だというのです。

では、その天才の秘密と
学習障害の「共通点」を探ってみましょう〜。

アインシュタインは
「のろまの犬」と呼ばれていた!

アインシュタインといえば20世紀を代表する物理学者。
彼の提唱した相対性理論は物理学に革命をもたらしました。
しかも、その当時のアインシュタインは無名!
大学や研究所に所属しているプロの研究者ではなく
特許庁の職員だったのです。
突然の天才の出現に
世界はどれほどびっくりしたことでしょう。

なぜアインシュタインは当時
アマチュアの研究者だったのでしょうか?
アインシュタインは大学卒業時
大学にポストを求めたのですが叶えられなかったのです。
彼ほどの天才が? と思いますよね。
実は、彼は大学ではぱっとせず
むしろ「のろまの犬」なんて
呼ばれていたくらいだったのです。

その劣等生ぶりは大学時代に
始まったことではなかったようです。
幼少時も言葉を話し始めるのが遅く
両親は心配して医者に診せています。
学校に入ってからも、暗記がまったくできず
質問されてもなかなか答えられない〜などで
教師はアインシュタインの知能が遅れているのでは?
と心配したようです。
その後、ギムナジウムに通うようになってからも
先生から
「お前がいるだけで私の権威が損なわれる」
と言われ、退校を勧められる始末!
天才の片鱗を見せているどころか
問題児だったようです。
そして、大学受験には一度失敗しています。

このアインシュタインの生い立ち
「ええ〜」と意外に思われる方も多いのでは?

さて、「天才」を見つけると
普通の人の脳とどう違うのか?
と知りたくなるのが人情ってもの。
アインシュタインについても
その天才性の秘密を探るべく
彼の死後、何人もがその脳の分析に挑戦してきました。
凡人とは違う何かがあるはず! って。

調べてみたところ、意外な結果が!!
まず彼の脳の重量は平均よりも軽い。
そして、「高度な脳」であるはずの
「大脳皮質」の厚さも薄い。
それどころか!
ちょうど「つむじ」のあたりの
大脳の頭頂葉という部位に障害が発見されたのです。

「音をおぼえる」ことができない理由。

この頭頂葉に障害があると
どんなことになるのでしょうか?
そのために、まず脳の
「ワーキングメモリー」という概念について
お話しします。

私たちが暮らしている上で
「その場だけ覚えておいて
 目的の動作が終わるとさっさと忘れてしまう記憶」
というものがあります。
例えば、電話番号を教えてもらって
耳で「ぜろさんの〜」という具合に
そらんじながら電話をかけます。
普通、かけ終わるとその番号は忘れてしまいますよね。

また、晩ご飯、何を作ろうかな〜と
冷蔵庫を物色します。
冷蔵庫は開けっ放しでいるとぴーぴー言い出すので
いったん閉めることになります。
冷蔵庫の中身のイメージを思い出しながら
手持ちのレシピを検索してメニューを決めるわけです。
でも、メニューが決まってしまえば
冷蔵庫の中身のイメージはさっさと忘れちゃいます。

このように、目的の動作までの一時記憶を担当するものを
「ワーキングメモリー」と呼びます。
ワーキングメモリーは
電話番号のように音を覚える「音韻ループ」と
冷蔵庫の中身のように画像を覚える「視空間メモ」があり
その両方を処理する中央実行システムがあります。
図に表すとこんな感じです。



さてさて、この耳から入った音の情報を
どこに一時的に蓄えるかというと
これがアインシュタインに障害が見つかった
まさに頭頂葉という部位なのです!

ここがきちんと働かないと
耳から入った情報を反芻するのが難しい。
だから、アインシュタインは
「暗記ができない」
「ことばの発達が遅い」
「自分で口にしたことを繰り返しつぶやく」
などのエピソードが残されているのですが
これらはまさにその障害のせいだったのかも
しれないとのことです。

あれあれ、天才のはずのアインシュタインが?
いったいどーいうこと? と気になるところですが
ひとまずその疑問はおあずけにさせてくださいませ。
次回はもう一人の天才
レオナルド・ダ・ヴィンチのお話に移ります。
(来週更新しますね!)




参考文献
「天才はなぜ生まれるのか」
 ‥‥正高信男著 ちくま新書
「アスペルガー症候群と学習障害
 ──ここまでわかった子どもの心と脳」

 ‥‥榊原洋一 講談社+α新書

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2004-08-13
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