主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート37
家電でよく見る「マイナスイオン」の科学。

【後編】
「マイナスイオン」のつくりかた。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

前回は、家電製品によく見られる「マイナスイオン」、
その正体はいったい何?! ということを
解読してきました。
大気中の普通の状態では存在し得ないイオン。
多くの家電製品はそれをどうやって出しているのでしょう?
その方法は現在のところ大きくわけて3通りあります。


(1)水破砕式

「水を細かく砕く時にマイナスイオンが発生する」
という考え方に基づいています。
1世紀以上前に、レナードという科学者が
「滝壺の周りには、マイナスイオンが多い」
という論文を発表していて、これが根拠となっています。
できあがるのは
水滴に負の荷電を持つ分子が付着したもの(らしい)。

水槽の水を微粒子状にして飛ばすので
水がレジオネラ菌などの病原菌に
侵されでもしたらそのまま病気をふりまくことに!
そのため家電メーカーは採用しにくいようです。

(2)コロナ放電式

二つの導体の間に高電圧をかけると
間の空気中にある酸素や窒素などの分子が
負に帯電します。
この原理を使って
マイナスイオンを発生させる方法です。
ただ、これも欠点があって
同時にオゾンや二酸化窒素などもできてしまいます。

ドライヤーや空気清浄機はこの方式が多いようです。
オゾンはいわゆる「活性酸素」であり有害物質ですが
強い殺菌力もあります。
ですから最近は
「マイナスイオンもオゾンも発生させる!」
とうたった商品も多く見られます。
本来有害物質であるものを「効果」として
アピールしてしまうのですから
商魂逞しいというかなんというか。

(3)放射線式

放射性物質から放射線を空気中に放射させて
そのエネルギーで酸素などの分子を
マイナスイオンにします。
「マイナスイオンを出す服」などはこの方式で
なんと繊維に放射性物質を折り込んでいるとか。
要するに、「放射線を出す服」。
そう聞くと、これまたイメージはよろしくないですわね。

また、トルマリンを使って
マイナスイオンを発生させる商品も人気ですが
これはどうやらインチキのようです。
「市民のための環境学ガイド」に詳しいので
そちらをご覧下さい。

実体がわからない、
測定方法もわからない?

「森林ではマイナスイオン○○個/cc
都市部よりもずっと多い」
なんて表現をよくみかけます。
実体がわからないものを測定するって
どういうことでしょうか?

実は、というかやはり測定方法に関しても
統一した規格がないのです。
ですから
「この商品は○○個/cc、他社よりも群を抜いて多い」
なんて表現は信用できないと言って良いでしょう。
もともと測定方法がばらばらなのですから。

さらに! 直接マイナスイオンの個数を
測っているわけではないのです。
測定しているのはその空気中の
「電気の通りやすさ」(電気伝導度)。

電気が通りやすいほど
イオンが多いと言っているのです。
確かに、電気が通りやすかったら
イオンが多い「らしい」とはいえます。

でも、そもそも水は電気が通りやすい物質の代表格。
というわけで、マイナスイオン発生加湿器に
その手の測定装置を近付けると
大量のマイナスイオンを
発生していることになるのはあたりまえ!
だって大量に水分があるんですもの。
もちろん、滝やシャワーの周りで測定しても
大きな値が出ます。そりゃそうだ。

うーん、「実体はわからない」
「測定方法もよくわからない」となると
急にマイナスイオンが怪しく思えてきますね。
でも、一方でマイナスイオンの生体への効果の研究を
きちんと行っている研究者も存在し
「マイナスイオンが効果あり」という報告もあります。
例えば、「ストレスが抑制された」
「作業効率が上がった」などなど。
でも、やっぱりいずれも
「どのようにして効くのか、メカニズムは不明」
なのです。

科学のニセモノとホンモノの
境界線はまだまだ曖昧なのです。

「実体はわからない」
「測定方法もよくわからない」
「メカニズムもわからない」
と「ないない尽くし」のマイナスイオン。
でも!何らかの効果はありそうな。。。

現在のところ、マイナスイオンの周辺は商売先行で
「アヤシサ満点」の科学です。
でも、一般的に「エセ科学」と「本物の科学」の境目は
見えにくい場合が多いもの。
これまでも、怪しいと言って退けられていたものが
実は重大な発見だった、という例は多々あります。

きちんとした検証なしに
「エセ科学だ!」と切って捨てるのも
これまた非科学的な行為だと思うのです。

今後、きちんとした研究次第で
このマイナスイオンも「大発見」につながるかも!
逆に、「森林で気持ちが良いのは
マイナスイオンが原因じゃありませんでした」
ということになるかもしれません。
いずれにせよ、研究の進展を期待したいテーマ!
健康に良かったり気分が良くなったりする
「科学」があるのなら大歓迎ですもの。

さてさて、こんなことを書いている
当カソウケンにもマイナスイオン商品あったりします。
一つは研究員Aが買ったドライヤー。
美容のこととなると
「カガクがなにさっ。リクツなんてっ。」
となってしまう研究員A。愚かですねえ。
そしてもう一つはエアコン。
これの場合は特にこだわりがなかったのですが
大特価だったもので購入。

その使用感は。。。慣れてしまった今こそ
効果を感じませんが、
初めのうちは「あれ?」と思いました。
ドライヤーは
「ひょっとして髪がしっとりしてる?」と。
エアコンは
「ひょっとして空気が清々しい?」と。
マイナスイオンの世界
信じていた方が幸せでいられるかも!
そうなんです、信じるものは救われる〜。



参考サイト
松永和紀のピリッとサイエンス
市民のための環境学ガイド

参考文献
「ファインマン物理学(3)」 R.P.ファインマン著
岩波理化学辞典 長倉三郎 岩波書店

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2004-06-11-FRI


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