主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート34
わが家のポリマー(高分子)の科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

家の中をぐるっと見回してみると
いろいろなプラスチック製品が目につきます。
「我が家にはプラスチックでできたものは皆無ですっ」
と言うためには
よーっぽどこだわっていないと無理ですよね。
それほどプラスチックは私たちの生活にとって
切り離せない存在になっています。

プラスチックの他にも
人工的に作られた繊維でできた衣類を
私たちは便利に利用しています。
これまた
「我が家には化繊でできたものは皆無ですっ」
と言うためには、よーっぽどこだわらないと!

プラスチックと化学繊維。
見た目にはまるっきり違いますが
実は同じ仲間! なんです。
どちらも「高分子化合物」と呼ばれるものです。
同じ仲間なのにこんなに性質が違うのはなぜでしょう?
というわけで、今回は
その高分子化合物の不思議を探ってみましょう〜。

大勢が集まって新しい力を発揮できるのは
人間も分子も同じなんですよ〜!

分子はいくつかの原子の組み合わせで作られています。
例えば、塩であるNaClは
ナトリウム(Na)と塩素(Cl)の組み合わせ
という具合にね。
その原子の種類は、周期律表を見てわかるように
100と少しの数しかありません。
でも、いろいろな組み合わせで世の中にある
「色とりどり」の分子が作られているのです。

なかでも、組み合わせる原子の数が多いものを
「高分子」「ポリマー」と呼びます。
プラスチックや化学繊維は一つの分子の中に
たくさんの原子がある巨大分子なのです。

でも、「たくさん原子がある」といっても
でたらめに繋がっているわけではありません。
よく見ると、基本ユニットの繰り返しになっています。

組み合わせる原子の数が少ないものを
「低分子」と呼びます。
高分子化合物はその低分子をユニットにして
大勢集まったかたち、といえます。
つまり、数種の低分子たちがずら〜っと手をつないで
新しい分子となった状態が高分子。
手をつないで巨大分子になると
個性豊かな性質が生まれるのです!
大勢が集まって新しい力を発揮できるのは
人間も分子も同じなんですよ〜。
では、どうして「集まると新しい個性が生まれる」のか
見ていきましょう!

低分子、つまり普通の小さい分子を
短い針金に例えてみます。
すると、高分子は長〜い針金になります。
針金が長くなると、いろいろな形をとることができます。
まっすぐなものもあれば
たくさん枝分かれしたものもある。
ぐちゃぐちゃっと絡まったようなかたちにもなりうるし
らせん状にもなりうる。
これは針金が短い状態ではあり得ない話です。

例えば、一本のまっすぐな状態の場合は
引っ張る方向には強い上に、
自由に曲がることができます。
このかたちをとると「繊維」になります。
ぶちぶちと短い分子を集めたとしても
長い繊維にはなりそうもないことは
直感的におわかりになるかと思います。

ではでは、枝分かれをして上下左右にも
のびている場合はどうなるでしょう?
この分子は自由に形を変えることができません。
これは「プラスチック」になります。

巨大分子になることで
多種多様のかたちをとれるようになる。
だから、高分子は個性を発揮できるのです!

野菜をはやくだめにしちゃう「エチレン」と
ポリ袋の原材料「ポリエチレン」は
もともとは同じもの、なんです。

手をつなぐ前の低分子状態と
手をつないだ後の高分子状態。
どれだけ違いがあるのか
具体的な例を挙げてみましょう。

エチレンという物質があります。
このエチレンは常温で気体で
「植物から出る成長ホルモン」として有名な物質。
このエチレンガスをたくさん出す果物はリンゴです。
まだ熟していないバナナやキウイを
リンゴと同じ袋に入れておくと早く食べ頃になります。
おうちで実践している方も多いのでは?

逆に、この「成長ホルモン」であるエチレンは
野菜や果物の「痛み」を早くしてしまうことにも!
最近よく「野菜を長持ちさせる」
袋やシートを見かけませんか?
あれは、エチレンをカットする仕組みになっているので
野菜の傷みを遅らせることができるのです。

そのエチレンですが
この分子がずらずらと手をつなぐと
「ポリエチレン」というものになります。
ポリエチレン、聞いたことはありますよね。
ポリエチレンはポリ袋などに使われている素材です。
おうちにあるポリ袋の表示を見ると
しっかり「ポリエチレン」と書かれているはず。
高分子「前」と、高分子では
こーんなに姿が変わってしまうのです。
分子が手をつないでいるか
いないかだけの違いなのに、面白いですよね〜。

エチレンがポリエチレンという名前になるように
高分子、つまりポリマーになると頭に「ポリ」がつきます。
おうちにあるプラスチック製品の表示を調べてみましょう!
ほとんど「ポリ」がついた名前ですよー。
発泡スチロールは「ポリスチレン」。
台所にあるラップは「ポリ塩化ビニリデン」。
洋服にも「ポリウレタン」など。

ちなみに、ペットボトルの「ペット」は
PET、ポリエチレンテレフタラートの略語です。
「くっつかないフライパン」にするフッ素樹脂も高分子!
PTFE、ポリテトラフルオロエチレンというもの。
ちなみに、これは先ほどの例にあげた
ポリ袋の「ポリエチレン」の水素を
全部フッ素に変えたものなんですよ〜。

人工のものだけじゃありません。
天然のものにも「高分子」はいっぱいです。

というわけで、身の回りには「ポリ」がついた
高分子だらけってことがわかります。
実は、身の回りにある高分子はこれだけではありません!
天然のものでも高分子はた〜くさんあります。

例えば、合成繊維と同じように
絹や綿・麻などの天然繊維ももちろん高分子です。
(これは考えてみたら当たり前ですね〜。
天然物をお手本にしたものが「人工物」ですから)
紙もそう。天然ゴムも高分子です。

へえ〜いっぱいあるのね
とこの程度でびっくりしてはいけません!
体の中も高分子だらけです。

まずはタンパク質。
これは「アミノ酸」がずらずら繋がった
「ポリアミド」という高分子です。
そして、遺伝を司るDNA。
これも「核酸」がたくさん繋がった高分子、なのです。

お米やパンの主成分である
「デンプン」も「糖」が繋がった高分子なんです。
ちなみに、消化酵素はデンプンやタンパク質などの
高分子の繋がりを「切る」働きをして
分子を小さくして消化しやすいようにしているのです。
高分子のままだと体内に消化吸収しにくいから、ですね。

まったくもって「高分子さまさま」です!
体の中も、食べるものも、身につけるものも
使うものも高分子だらけ。
私たちは高分子に足を向けて寝られません。

他にも、この高分子を利用した
便利な物質が生まれています。
身近なところでは紙おむつに使われている素材。
かなりの量の水分を吸収してくれますよね。
高分子が網目状になっていて
その網目の間に水分を吸収することができるからなのです。

白川英樹教授が受賞した2000年のノーベル化学賞は
皆さん記憶に新しいことでしょう。
これも導電性プラスチックという
「高分子」に対しての受賞でした。
電気を通さないはずだったプラスチックなのに
これは金属並みに電気を通すことも可能になるのです。
「軽い金属」としての活躍が期待できます。

今使われているほとんどのプラスチック製品は
自然に分解しないために、ゴミになるとやっかいです。
そこで土壌や水中の微生物により分解され
環境に負荷を与えない高分子(生分解性高分子)が
実用に向けて開発中です。
トウモロコシなどのデンプンや、乳酸などが原料なんですよ。

深刻な環境問題を引き起こしたのも
人類の知恵による科学です。
でも、この問題を解決できるのも
人類の知恵による科学なのでしょうね。




参考文献
高分子の科学 L.メンデルカーン著 共立出版
高分子化学II 松下裕秀著 丸善
有機化学(下) モリソン・ボイド著 東京化学同人

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2004-05-07-FRI


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