主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート26
キッチンの熱まわりの科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

研究員Aは「形」から入る典型的な人間なので
なにかと道具が大好きです。
台所用品も、見ているだけで
「これさえあれば○○だって
 ××だって作れちゃうのになあ」
なんてうっとりしています。
だからといって、手に入れたところで
ちっとも料理が上達するわけじゃないんですけど。

鍋ひとつとっても奥がふか〜いんですよねえ。
ひとつひとつの鍋のもっともらしい能書きを見ると
性懲りもなく「これさえあれば!」
とその気になってしまう単細胞な研究員A。

でも、そんな「能書き」のなかで
こんなものがありました。
「この鍋は熱伝導度が高いので冷めにくい」

これは、一瞬ナットクしてしまいそうになりますが
実は「間違い」の文章です。
確かに、熱まわりの基本用語は
ごっちゃになりやすいんですよね。
でも、そんな誤りの能書きに惑わされないように
今回は「比熱」「熱伝導度」などのことを
お勉強してみましょう〜。


なぜ湯豆腐は冷めにくいの??


ではでは、まず初めに混乱しやすい
「熱まわり」の用語を整理することにしましょう。
初めに、お断りしておきますが
熱が伝わるときには熱伝導も比熱も
いろいろな要素がからみあっているもの。
だから、これからの説明は
「わかりやすく単純化」したものであることを
頭の隅に置いておいてくださると嬉しいです。

熱い飲み物を陶器のカップに入れても
へーきで持つことができますが
これが金属製だと「あちっ!」っとなってしまいます。

これは、「陶器」と金属の
熱の伝わりやすさが違うからです。
伝わりやすい金属だと
すぐに熱が伝わってしまうからなんです。
この熱の伝わりやすさのモノサシを、
「熱伝導度」といいます。

熱が伝わりやすいということは
温まりやすい一方で、冷めやすいということ。
だから、金属製のカップは中身がなくなると
さっさと室温に戻ってしまいます。
陶器のカップはしばらく温かさが残りますものね。

ここまで読んだら、初めの方でご紹介した
「この鍋は熱伝導度が高いので冷めにくい」
がおかしな表現であることがおわかりになりますよね。
熱伝導度が高かったらすぐに冷めてしまうはず!

これは、「熱容量」と書くべきところを
「熱伝導度」と書いてしまっているからなんです。
というわけで、続いて熱容量のご説明に移りま〜す。

熱容量を説明するのにちょうど良いのが「豆腐」!
湯豆腐などが「思いがけず」まだ熱くて
舌に火傷をしてしまった経験のある方は
多いかと思います。
これは、豆腐は熱容量が大きくて冷めにくい
からなんです。

熱容量というのは
その物質を1℃上げるのに必要な熱量のこと。
豆腐が熱容量が大きいので、温めるためには
たくさん熱を与えなくてはいけない、というわけです。

熱容量をいいかえると
「その体積の中にどれだけの熱を抱えているか」
あらわすもの。
これは、「熱容量」という言葉そのまま、ですね。
というわけで、豆腐はたくさん熱を抱えています。
だから、豆腐は冷めにくい、ということになります。


「LOVE」に置き換えて
考えてみましょう。


「熱しやすさ、冷めやすさ」のモノサシという点では
「熱伝導度」も「熱容量」も一緒じゃないか〜
と思われるでしょう。
まだまだごっちゃになっちゃいますね。

熱伝導度が表しているのは伝わる「スピード」であり
熱容量の方は抱える熱の「量」です。

こんな例えをしてみましょう。
同じように惚れっぽい太郎さんと次郎さんがいます。
二人とも、「一目見たら恋に落ちる」というはやさは
一緒です(熱伝導度が大きい)。

でも、懐の大きい太郎さん(熱容量が大きい)は
愛情をいっぱい抱えているのでじわじわ〜と
愛が持続します。
一方で、「熱容量の小さい」次郎さんは
抱えている愛情の量が少ないので、
すぐに冷めてしまうはずです。
しかも、熱伝導度も大きいので
愛の冷める速度も速いので
きっと「あっ」という間でしょう。

他にも、「惚れっぽくない&懐が大きい三郎さん」
「惚れっぽくない&懐の小さい四郎さん」
なんて方々もいらっしゃいます。

。。。。よけいごっちゃになっちゃいました?
「懐が小さいと愛情も少ないのか?」
「愛情が初期にしか蓄積されないっておかしくないか?」
とか「愛に関する認識」がおかしな点はございますが
まあ深くは突っ込まないでくださいませ。

ではでは身近な例で熱伝導を見ていきましょう〜。


ダイヤモンド、本物と
模造品を見分ける方法は?


缶などの金属に触るとひんやりするのは
金属の熱伝導度が大きいために
体温が「さっ」と奪われるからなんです。

木製品に触ると温かみを感じるのですが
こちらは木の熱伝導度が小さいから、です。

研究員Aが大学院の入試のための
勉強をしていたときのことです。
過去に出題された問題の中で
こんなものを見つけました。
「ダイヤモンドとキュービックジルコニアを
 見分ける方法は?」
という問題です。
皆さん、答えがおわかりになりますか?

答えは、「舐めてみて冷たく感じる方が本物」
というもの。
これは、ダイヤモンドが人造のものよりも
熱伝導度が大きいから、なんですね〜。

試験勉強した範囲の他のことは
なーんにも覚えちゃいませんが
これだけは特に印象に残っています。
役に立つ場面がやってくるかどうか
わからないものではありますが。

うちにはクーゲルバーン(シロフォン付き玉の塔)という
木のおもちゃがあります。
それは小さい玉がスロープを転がっていき、
最後に鉄琴をぽろろーんと鳴らすというものです。
(単純だけど大人も子どももハマる名品!
 小さい子をお持ちの方、ぜひぜひオススメ〜。)

この小さい玉なんですが
うちの研究員Bが妙に口に入れたがるんです。
3歳にもなるというのにいいい。
何度注意してもやるので「そんなに面白いか?」と
不思議に思った研究員Aも口に入れてみました。
。。。う〜む、確かに面白い。

この玉は子どもが口に入れても安全な素材として
コンクリートを使っているんです。
(金属だと体内で溶けてしまう可能性がある)
というわけで、熱伝導度の小さいコンクリート、
舐めると何とも言えない
「なまあたたかさ」が新鮮なんです。

というわけで、舐めてみると身の回りのものの
熱伝導度の大小を確認することができます。
手で触るよりもよっぽど「精度良く」
熱伝導を測ることができる気がします。
ぜひぜひお試しあれ〜(ってしないか普通)。

続けて「身近な熱容量」の話に移りましょう〜。


180℃のオーブン、
手を入れても
大丈夫なわけは?


単位体積あたりの熱容量のことを比熱といいます。
つまり
(比熱)×(重さ)=(熱容量)
です。要するに、重いものほど熱容量大! ということ。

私たちにとって一番身近な物質とも言える水、
これって実は比熱の大きいものだったんです。
温まりにくく、冷めにくい。
先ほど例に挙げた豆腐が冷めにくいのは
水分が多いから、なんですね〜。

水だけに注目していてもその
比熱の大きさはあまり実感できないので
他のものと比べてみましょう。

例えば、油。
同じ量の水と油だったら
油は比熱が水の約半分と小さいので
同じ時間だけ加熱しても
温度の上昇が急なのです。

揚げ物をするときにわかるように
材料を入れると、油の温度は
すぐに下がってしまいますよね。

油は少ない熱量で温度を上昇させることができますが
その反面、ちょっと熱量を奪われると
すぐに油の温度も下がってしまいます。
抱えている熱量が少ないからですね。
熱容量の大きい水(お湯)でしたら
そう簡単に温度は下がりません。

この油の比熱の小ささは
揚げ物の温度管理が難しいことを表しています。
揚げ物下手な研究員A、材料を入れすぎては
「きゃ〜温度が下がりすぎた」
慌てて火力を強くしたら
「きゃ〜今度は上がりすぎた」
なんてことを繰り返しているわけです。

簡単に温度が上下しないためにはどうしたらいいのか?
全体の熱容量を上げてやればいいのです。

熱容量の大きい鍋を使う、
たっぷりの油を使う
などが対策になります。

全体の熱容量を上げる、ってことは
パスタなどを茹でるときもそうですね。
「たっぷりのお湯を使う」
ってことは、材料を入れたときに温度が低下しないように
するための対策なんです。

熱容量だ〜比熱だ〜と言われると
少々構えてしまいますが
「お湯をたっぷり使う」なんてことは
みなさん既に当たり前のように
実感していることなんですよね。
ちっとも難しくない話です。

また、空気と比べても水の比熱は大きいんです。
180℃のオーブンに手を入れても
(なんとか)大丈夫ですが
100℃に沸騰したお湯の中に手を入れたら
大やけどになっちゃいます。

あと、同じ35℃という温度でも
「気温35℃」だと暑くてたまりませんが
「お風呂の温度35℃」だと
冷たくてとても入る気にはなりません。

これもやはり、空気と水の比熱の違いによるものです。
体温よりも低い温度の水があると
大量の熱を体から奪うことになるからです。

さてさて、比熱や熱伝導の話から
いろいろな鍋のお話をしたかったのですが
かなり話が長くなってしまいました。
というわけで、「鍋」については
次回に持ち越しにさせて下さい〜。



参考文献

化学精義(上) 竹林保次著 培風館
理化学辞典 岩波書店
調理とサイエンス 品川弘子他著 学文社
料理のわざを科学する P.Barham著 丸善

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2004-01-23-FRI


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