主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート18
赤ちゃんの顔はなぜかわいい?


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

当研究所の期待の星、研究員Cはまもなく生後11ヶ月。
この連載を始めた当初は寝ているだけだったのに
今ではハイハイで家中を徘徊しています。
ちなみに彼がホープであるのは
単に他の研究員が望み薄だという消極的な理由です。

それにしても、ほんとーに! かわいい盛りです。
もちろん、2歳児である研究員Bだってかわいいのですが
二人を連れて外出したときに
「かわいい〜」と声をかけられるのは決まって研究員C。
研究員Bにしてみればちょっと前までは自分が
「かわいい」と言われる立場だったんですよね。

未だに「かわいい〜」と言われると
「ボクのこと?」と一瞬ニコッとする研究員Bですが
すぐに勘違いだと気づき、がっくり。
半笑いで人気の凋落をかみしめる
「元アイドル」の様子がなんとも切ないです。

というわけで、今回のカソウケンレポートは
「赤ちゃんはかわいい」
にまつわる研究をお伝えしますー。

人間の赤ちゃんもかわいいですが、
動物の赤ちゃんも同じようにかわいいっ!
と反応してしまいますよね。
大人ライオンは怖いはずなのに
赤ちゃんライオンはかわいいと思える。
だからこそ、動物園で
「赤ちゃんライオンと記念撮影」
なんてイベントが成立するのでしょう。

このような子どもの姿形の特徴を
動物学者のローレンツ
(ノーベル賞受賞者。「刷り込み」で有名。)が
ベビーシェマ(ベビースキーム)と名付けました。

どんな特徴かというと、
「大きな頭」「丸い頬」「目と目の間が離れている」
「目鼻立ちが低い位置にある」
顔。
そして、「丸くてずんぐりした体型」

いえいえ、林家こぶ平氏のことを
言っているのではありません。
このような特徴、人間に限らず動物の赤ちゃんにも
共通しているというのです。

このベビーシェマを見たほとんどのヒトビトの反応は
「この弱きものを助けなくっちゃ」というものだそう。
「保護本能」というところでしょうか。
ローレンツによると、これが
「生まれつき備わったもの(生得的解発機構)」
だというのです。

この説によると
「赤ちゃんを見るとかわいいと思う」というのは
生まれながら持っている反応ということになります。
一方で、このベビーシェマを目にしたときの反応は
生まれつきではない、という説もあります。

研究員Bと研究員Cを並べたときに
周囲の反応に差があることから見ても、
我々にとっての「乳幼児のかわいらしさ」には
発達変化があるみたい。

そこで、「どの時期の赤ちゃんが一番かわいいか?」
を調べた面白い研究があります。

早稲田大学の根ヶ山光一教授によるものです。
生後0〜2ヶ月から生後24〜29ヶ月の
乳幼児の写真を用意し、
どの月齢の子がかわいいと思うか
判定をしてもらうのです。

判定をしたのは「子供を持つ母親」と「女子学生」。
これは、子育て経験の有無が結果に関係するのか
それとも「生まれつき」そう思うものなのか
はっきりさせるためです。

さてさて、結果はというと。。。
どちらのグループも
「1歳前後の赤ちゃん」が一番かわいい
という答えが多かったのです!
ちなみに、生まれたばかりの新生児は
最もポイントが低かったとのこと。

生まれたての赤ちゃんを見て
「サルにしか見えなかった」
「正直なんか怖いと思っていた」
「無言のプレッシャーから『かわいい』と言っていた」
などという心当たりのある方、多いのでは?
それはアナタだけではなかったんですー。ご安心を!

うん、確かに、自分の子供でも
新生児時代の息子たちの印象は
「今にも壊れそうないたいけな『様子』がかわいい」
というもの。
決して、見かけがかわいい! と
思っていたわけではなかったかも。
確かに、見た感じ宇宙人そのもの〜。

あ、でも研究員Bを育てて以降は
新生児特有の「壊れそうな感じ」が
たまらなーくかわいく思えるんですよね。
これに関しては研究員Aの場合
「生得的」ではないと言えます。

研究員Cもすでにいたいけな様子が
なくなってしまった今、新生児がとても懐かしく思えます。
おっと!「研究員D」の採用予定は
当面のところないですよー。ご勘弁を。

話がそれました。
ちょうど1歳前になる研究員Cですが、
上の研究結果の通り「見るからにかわいい」と
無条件で思います。
はい、つくづく親バカですみません。
生まれた直後のかわいさとは別物です。

やはり、このころの赤ちゃんのかわいさは「肉付き」!
あの「でぶでぶ感」は見ても良し、さわっても良し。
実際、脂肪率が一番高くなるのが1歳前後だとか。

このベビーシェマ
もし「大人による庇護を喚起するもの」であれば
生まれた直後に「かわいさMAX」であるべき
ですよね。
それなのに、なぜ1歳前後?

中央大学の山口真美先生の説によると
「自立的な活動が始まり
 赤ちゃんの事故が増加する時期。
 そこで見た目のかわいらしさで
 親の保護を促すからではないか」
とのことです。

なっとく〜。
確かに、研究員Cは我が物顔で家の中を徘徊し
しかもいたずら放題。
コンセント大好き、ガスレンジ大好き。
そして、あたりのゴミを拾っては何でも試食。

1歳前後は、キケンに向かって猪突猛進の毎日。
ほんと目が離せないとはこのこと。
こんな時期にかわいさが極大値を迎えるとは
理に適っているのかもしれません。

あと、1歳前後といえば
「非力で守ってあげなきゃいけない存在」から
「もう〜!」と手を煩わせる存在に変貌を遂げる時期。

ガスレンジのスイッチを触っては
「にや」と母の様子をうかがう研究員C。

なっナマイキな〜!!

きいいいいっ! となるところを
「ま、かわいいから良いかー」と
割り引いて思わせる側面もあるとしたら
アカンボ、恐るべしでございます。

というわけで、一般的に赤ちゃんはかわいいわけですが
特に自分の子供に対しては
客観性を失わせる現象が存在します。
俗に言う「親バカ」です。

所長と研究員Aも、当然ながらご多分に漏れません。
テレビや雑誌に出てくる赤ちゃんを見て
「研究員Cの方がかわいいよね」と言ったりもします。
そんな相対的なモノの言い方をするなんて、
親バカ以前に「人間としてバカ」な両親といえましょう。

この親バカ状態、「我が子だから当然でしょ」
と言ってしまえばそれまでなのです。
でも、そこを敢えて追求したとも言える
最近の面白い研究結果があります。

ニューヨーク州立大学オールバニー校の心理学者
Gordon Gallup氏の研究です。
(Platek, S. M. et al.Evolution and Human Behavior 23,
159-166 (2002).)
男性たちに赤ちゃんの写真をいくつか見せます。
その中で、「どの赤ちゃんが一番かわいいか」
答えてもらったところ。。。
「自分自身の顔を変形して作られた赤ちゃんの写真」
に強く好感を抱き、世話したくなるとの
結果が得られたのです。

要するに、「自分に似た赤ちゃんに好感を抱く」
というわけ。
さらに興味深いことは、女性の場合はそのように
自分の顔に似た赤ちゃんを好む傾向は見られないとか。

「女性の場合、どの赤ちゃんが自分の赤ちゃんか
 分かっているのが普通なので
 自分の子供を見分ける鋭い識別力が必要なかったから」

とGallup は考えているそう。

なっなるほど。。。
「自分の子供かどうか100%確信が持てない
 男って哀しい存在」とは聞きますが
だからこそそのような識別力が発達したと。
女性の立場からはコメントに困る
研究結果ですわね。ほほほ。

でも、母親の立場からだって
子どもの中に自分に似たところを見つけると
嬉しくなるものです。
(逆に、「なんてところが似てしまったんだ」と
 がっくりすることもありますけどねー。)

「なぜ赤ちゃんはかわいい?」
「なぜ自分の子どもをかわいく思える?」
。。。遺伝子の戦略が関わっているかもしれないし、
関わっていないかもしれません。
いずれにせよ、目の前の子どもたちが可愛く思えるって事は
幸せなことなんだろなーと思います。




参考文献
赤ちゃんは顔を読む 山口真美著 紀伊國屋書店

参考サイト
Nature Bio News
科学タイムトンネル

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「カソウケン」と書いて
postman@1101.comに送ってください。
みなさまからの「家庭の科学」に関する
疑問や質問も歓迎ですよ〜!

2003-09-26-FRI


戻る