第16回 そのとき、放送席では。
永田 あの日は、荒川選手が勝って、
そのあと金メダルをもらってから
インタビューまでが
すーごく長かったですよね(笑)。
刈屋 長かったんですよぉ(笑)。
永田 20分くらいありましたかね?
もう、あそこは、実況ではなくて、
純粋に刈屋さんのおしゃべりが
たのしめましたけれども(笑)。
刈屋 国際映像があっという間に
なくなっちゃったんですよね。
永田 なんか、国旗とか、リンクとか、観客席とか、
どうでもいい画がずっと映ってるんですよね。
刈屋 実況しようにも映像がない(笑)。
放送が終わってから、
「荒川さんが日の丸を持って
 ウイニングランしたらしいけど
 NHKはなんでそれを中継しないんだ」って
ご意見をいただいたんですけれど、
ウイニングランはしていないんですよ。
永田 あ、やっぱりそうだったんですか。
でも、その後の雑誌とかには
日の丸をまとっている
荒川選手の写真がありましたけど。
刈屋 国旗を持って、記念撮影に応じてたんですよ。
ちょっと移動して記念撮影、
ちょっと移動して記念撮影、というふうに。
そのときに日の丸と花束を持っていたので
そのときに撮った写真が
ウイニング・ランのように写ってるんです。
永田 ああ、そういうことでしたか。
たしかに、「記念撮影に応じてます」
というようなことはおっしゃってましたよね。
刈屋 はい。でも、けっきょく
話すことがないわけですよね(笑)。
永田 はははははは。
あと、なんとか状況を説明しようとして、
「いま、NBCのアナウンサーに
 つかまってます!」
とか言っちゃって、そのあとで
「『つかまってる』という表現は
 よくなかったですね‥‥」
とか、フォローされてたり(笑)。
刈屋 そうそうそう(笑)。
もっと、国際的な、大きな話を
マジメにすることも考えましたけど、
やっぱりあの興奮のなかですから、
荒川さんの話で持っていくしかないですよね。
なにしろ、いつインタビューがはじまるか
わからない状態でしたから。
永田 はい(笑)。
刈屋 だからもう、荒川選手についての
いろんな話をしてつないで。
アイスクリームの話までしてね(笑)。
永田 そうでしたそうでした(笑)。
荒川選手がアイスクリームが好きだという話。
あのあたりは、解説の佐藤さんも
けっこうノッて話されていて。
刈屋 そうですね、ノッてしゃべってました。
永田 あの、刈屋さんと佐藤さんのコンビというのは、
独特の間というか、絶妙のノリがありますよね。
刈屋 ああ、ありますね(笑)。
永田 けっこう、佐藤さんの相づちって、
少ないじゃないですか。
だから、中継を訊いている視聴者は
「わ、佐藤さん、またスルーだ」とか
けっこうヒヤヒヤしたりして(笑)。
刈屋 そうなんですよ(笑)。
でも、無視したりとか
そういうことではないんです。
音声だけ聞いてると
「あれ?」という感じのときは、
ふたりで目を合わせたり、
笑ったりしてることが多いんです。
永田 ああー、そうなんだ(笑)。
あの、中継を聞いていると、
「このふたりはずっとこうだから大丈夫だ」
と知ってはいるものの、
佐藤さんのスルーが続くと、
「‥‥ほんとに大丈夫?」って(笑)。
刈屋 佐藤さんの解説が冷静だから、
よけいにそう思っちゃうんでしょうね。
でも、あの、たとえば、
カナダのロシェットという選手が
『愛の賛歌』で滑ったときには、
佐藤さんは、いきなり
「この歌は刈屋さんの好きな曲なんですよね」
って言ってきたりしたんですよ。
永田 そのメール、たくさん来てました(笑)。
刈屋 しかもそのとき、思わず横を見たら、
ニコッて笑って、
(右手の親指を上に突き出しながら)
こうやったんです。
永田 そんなことしてたんだ(笑)。
それは視聴者にはわからないですね。
そこは、刈屋さんがスルーしていたと
メールにはありましたけど。
刈屋 いえ、反応しようと思ったんですけど、
演技がちょうどクライマックスに
入るところだったんです。
それで、邪魔しちゃいけないと思って
黙ってたんですよ。
永田 なるほど(笑)。
刈屋 選手の演技のクライマックスで
個人的な話をするのも‥‥。
永田 (笑)。
ふだんはないですよね、
佐藤さんが演技中に
余談みたいなことを話されることは。
刈屋 めずらしいですよ。
だから、「やられた!」と思いましたよね。
永田 長くごいっしょされてる
おふたりならではのエピソードですね。
そういえば、エキシビションの中継では、
これも長くごいっしょされている
五十嵐さんとのコンビでしたけれども、
いいメールが届いていたんですよ。
あの、エキシビションって、
ふだんの照明じゃなくて、会場が暗くて、
選手がスポットライトで照らされてますよね。
そこで、五十嵐さんがまず、
「こういうスポットライトの中で跳ぶのは、
 たいへんむずかしいことなんですよ」
ということを言うと、刈屋さんが
「ああ! そうなんですか」と返す。
すると五十嵐さんが
「ふだん何度も何度も
 練習しているからこそ跳べるんです」と。
それを聞いて、刈屋さんが
「なるほどー」と相づちを打つ。
メールの報告では、こういうやり取りを、
おふたりは、エキシビションがあるたびに
毎回やってくれるんですよ、というものでして。
刈屋 あははははは!
永田 それはすごく素敵なことだなあと思ったんですよ。
やっぱりエキシビションって、
フィギュアファン以外は
はじめて観る人が多いわけですよね。
そのときに、それを初めて聞いたかのように
いちばんわかりやすいやりとりで説明してくれる。
それをおふたりが阿吽の呼吸で
やってらっしゃるというのがいいなあと思って。
刈屋 そうですね、はじめて観る人もいますからね。
とりあえずはまず、
そういうところから入って。
‥‥いやあ、でも、まいったなあ(笑)

2006-06-26-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN