高阪剛のみんなのカラダ TK式体操教室    
    沼澤尚さん×TK対談    
       
   
自分の経験が邪魔になるときがある。そんなときはピュアな意見を聞くんです。
高阪 自分が世話になっていた
モーリス・スミスっていう格闘家がいるんです。
アメリカ人のキックボクサーの。
自分は、98年からシアトルに住んだんですが、
その前にモーリスのところに
何回か練習に行ってたときに、
モーリスがキックの練習してるのを
中学生の生徒が見てて、
「モーリス、そんな蹴りじゃだめだよ!」
とかって怒るんですよね。
沼澤 (笑)
高阪

モーリスにそんなこと言ったらあかんわー、
と思ってたら、モーリスが、
「どこがどうなのかちょっと教えてくんない?」
とか言って、中学生に教わってるんです。
「これは上からこうやって打ちおろすんだよって、
 昨日、俺に教えてくれたじゃん!」
とか言って。

沼澤 うん、俺に教えておいて、
お前、やってねえじゃんみたいな。
高阪 モーリス、それ聞いて、
「ああ、そうだった、忘れてた、
 ごめん、ごめん」とか言って、
すっごい素直に聞いてて。
その後に自分がモーリスに
何であんな中学生の言うこと聞くの、
お前が教えてんでしょとかって
冗談でちょっと言ってみたら、
「いや、俺はあいつに昨日教えたばっかりだから、
 あいつの頭ん中、ものすごい、今、
 ピュアなんだ」って。
「俺、何年もずっとやってきてるから
 どんどん形が変わってきてるのと、
 あと経験が邪魔して
 上手くできなくなってるところがすごくあって、
 だからこそああいうピュアなやつの意見ての
 大事にしなきゃいけないんだ」って。
それ、聞いたときに自分は、
あ、俺、アメリカ行こうって、決めたんです。
こういうとこで一回生活しないと
分かんねえよと思って。
沼澤 この人、すごいなって思ってる人って
実際に会ってみるとそういう人が多いですよね。
こんなすごい人たちなのに、
何でこんな子どもみたいなの、みたいな気持ちを
ずっと持っている。
どんどん純粋になっている。
そうすると自分がある程度こう、
「ま、やれてるかな?」みたいな気持ちが
ばかばかしく思えてくるんですよ。
自分がもうはるかかなたにいる人だなと
思ってる人の、ピュアな姿勢とか、
立ち向かってる感じとかを見てると、
この人がこうなのに、
全然低いレベルの俺らがこんなのじゃ
絶対おかしいじゃん、みたいな。
高阪 そうですね、だからそこは全く、
沼澤さんの言われたことっていうのは、
本当にどの世界の人間でも
必ず一度は通る道だと思うんですよ。
自分もいってみればそういうところも
確かにあったし。
沼澤 自分が気がついてよかったかなと思いつつ、
「今、お前(自分のこと)、
 大丈夫かよ」っていうことも
思ってはいるんですけど(笑)。
高阪 一歩引いて、自分のことも人のことも
見れるようにならなきゃいけないなっていう
時期が来るんですよね。
自分がカラダのことを考え出したのって
実はそのぐらいのときなんですけど、
一歩引いてるからこそ、
自分のことがよく見えるようになったりとか、
他の人が、あ、こういうふうにしてるのは
実はこういう理由があるからなんだろうなって
いうのがだんだん分かるように
なってきたんですよ。
沼澤 あるとき、マイケル・ジャクソンのツアーに
参加していた黒人ミュージシャンが
小さな、あまり一流のことをやった人は
やらないようなライブハウスでやってたんですよ。
お客さんも全然いないような。
「何でここでやっているの?」って訊いたら、
「俺、家のローンあるし、車もあるから、
 今日稼ぐ20ドルが大切なんだ」って。
要するに、一流のところで
やってきたかもしれないけど、
明日からが保障されているわけでもないし、
その人が必ずそういうレベルを保てるかどうか、
ということに関しては、アメリカって、
ものすごく厳しい世界なんです。
「あいつ、終わっちゃったよね」っていうのは、
アメリカの方が厳しいですよね、全然。
高阪 そうですよね。
自分、向こうで試合したとき、
常に自分が“今”どうなのかっていうことを
喋れないと、やっぱ向こうの人が
納得してくれないんです。
昔、誰かに勝ったとか、
こうだったとかって言ったところで、
じゃお前、今、どうなんだ? と。
日本的な感覚で、
「いや、俺、そうでもないんだけどー」
なんて言ったら、もうそこで終わりです。
「俺、強いよ。今、練習、ちゃんとやってるし、
 大丈夫だよ。何なら今のビデオ
 見せてやろうか?」とか、
それぐらいの勢いで売り込まないと。
沼澤 格闘技の世界もそうなんですね。
高阪 それを言えるようにしておくために、
自信をつけるために常に練習するわけです。
だからある意味、厳しいなあと思いましたけどね。
沼澤 音楽の世界なんて、
勝ち負けがないだけに
余計ひどいですよ。
高阪 ああ、そうか‥‥。
沼澤 強かったら、文句言えないだろうっていうのが、
音楽の場合はなくて、
結局その人が全然よくないのに、
よくないって言えなかったりするような
雰囲気って、全然普通にあるから。
「この人だから、拍手」ということも
あったりしますから。
よくないんだったらよくないって
言えばいいじゃないか、
何でこれをみんな、オッケーにしてるの、
って、ぼくはそういうとこには
行かないようにと思っているんですけれど。
高阪 嫌ですよね。
ある意味、格闘技の世界はそうはいっても、
完全に勝ち負けっていうのが出るんで。
沼澤 負けたら──、
高阪 全然もう、拍手ない。それでおしまい。
ほぼ日 きりがなさそうですね(笑)。
そろそろおしまいにしましょうか。
沼澤 はい。きょう、ぼく、お役にたてましたか?
すいません。参考になったかどうか。
高阪 いえいえ、ほんとにありがとうございました。
  (沼澤さんとTKの音楽とカラダのおはなしは、
 これにておしまいです。
 TKのカラダ探求は、まだまだつづきます。
 次回のゲストをおたのしみに!)
   
   
   
2007-07-11-WED
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