第2回 イジー・バルタさんと、チェコの芸術
シェフ
そもそもイジー・バルタ監督って人は
チェコではどういう人なんですか?
shino
イジー・バルタさんはチェコでは
ものすごく有名なアニメーション作家。
かなり権威のある方です。
山下
権威のある人。
shino
アニメーションというものが
チェコでは芸術としてきちんと
認められているんですよね。
プラハの芸術大学っていうのは
結構細分化されてて、
専門的に音楽(ハム)やってるところ、
あとパフォーマンス系の
アート学校があって、
ファインアート(アム)があって、
あとアプライド・アート
(ウンプルン)があるんですね。

そのパファーマンス系が
さらに舞台(ダム)と
映像(ファム)に分かれていて、
人形劇はダム、
アニメーションはファムかな。
でも、バルタさんは
アプライド・アートの大学、
「ウンプルン」に
唯一、アトリエを持ってたんですよ。
シェフ
アプライド・アートというのは
「工芸」と訳していいんですかね?
shino
うーん、
そこはいつも論争になってるとこですね。
工芸と訳されるの、
嫌う人もいっぱいいるんですよ。
世界中で。要するにファインアートに
相対するものとして
アプライド・アートっていうのがある。
でもまあ、日本だとクラフトとか
工芸っていう訳され方が多いですね。

シェフ
純粋な芸術が
ファインアートだとすると、
アプライド・アートは、本来‥‥
shino
応用美術とか訳しますね。
そういう、せめぎあいがあるんです。
シェフ
その「ウンプルン」の
バルタさんのクラスは
たくさん生徒がいるの?
shino
とんでもない。すごく少ない。
1学年にえっと
2人とか3人しか入れないんですね。
すごい競争率で
そこにもう現役で入れるって言ったら
ほんとにみんなから、
えー、イジー・バルタのクラスに
現役で入ったの?
って言われるぐらいすごいことで。
やえ
へえー。
シェフ
今も先生なんですか?
やまもと
やめられたとは聞いたんですけども。
この映画を作るためにやめたみたいな、
話を聞きました。
shino
え、やめちゃったんですか?
やまもと
と聞いてます。
フリーに、今、なってるって。
shino
2年ぐらい前に、そこの学校の
大改正があったんですよ。
そのアプライド・アートの学校を
デザインスクール系にしようという動きが
ちょっとあって、
もしかしたらそれと
合せたのかもしれないです。
シェフ
チェコでアートをやるっていうのは
実はものすごい
大変なことなんだそうですね。
日本は入るのが大変、
ま、向こうもそうなんですけど、
入るときにある程度の技量がないと
日本では美大に受かんないじゃないですか、
デッサンから何から。
よしくみ
そうですね。

シェフ
そうじゃないんですよね?
shino
入るのにすごく大変なのは
同じなんですが、
それはまず
ちょっとしか人数を取らないから。
各アトリエがまず
2人から3人しか取らない。
シェフ
で、学科というよりは
教授が取るんですよね?
shino
そうです。そうです。
でも教授も、
建築科なら建築科っていうのがあって
教授が所属するのではなくて、
その教授によって
その科が構成されるんですね。
だからその教授がいなくなると
その科もなくなっちゃう。
やえ
うわー(笑)。
よしくみ
すごい、面白いですね。
shino
だから卒業生が1年間に
10人から15人ぐらいしか
出ないんですよ。
その学校全体で。
やえ
大変だー。
shino
それで卒業するにあたっては
国家試験なので。
よしくみ
お医者さんみたいですね。
shino
そうですね、お医者さん、ほんとに。
で、6年出ると一応マスター。
その6年間、実は毎日、午前中が
実物大の人体デッサンなんですね。
それはひたすら必須ですね。
ていうのは、基本的に
アプライド・アートの精神ていうのは、
もののかたちというのは人体にあり、
っていう考え方に沿っていて。
やえ
へえー。
shino
それで人体を知らない限りは
もののかたちは描けない。
全てのものの、要するに地球上に
存在するもののかたちというのは
人体にあるっていう考え方なんで、
生態学も勉強するし、
学生たちは全部、骨の名まえとかも
すべてそらんじて覚えるくらいです。
よしくみ
それはチェコ独特の考え方なんですか?
shino
おそらくそうですね。
日本は美大に入るのに
その美大によってデッサンを
描き分けるぐらいの技術が必要じゃない?
ところがチェコの場合には
入ったときの学生のデッサンて
もう、すんごい下手なんですね。
でも6年出るまでにものすごく上手になる。
山下
で、イジー・バルタさんはそんな中で
ものすごく力がある作家であり。
人気がある教授だったわけですね。
shino
そうです。
シェフ
という人がこれを作ったわけですね。
ああ、やっと前説が終わったかんじ。
やえ
じゃ、感想言っていい? いい?
山下
どうぞ!
やえ
造形が、もうすごく細かいところまで、
しかもものすごく
オリジナリティがあるでしょ。
1つひとつのかたちに。
あの動きときたら、本当、
何かリアル以上のリアリティっていうか、
うん、ビックリしました!
ぐっさん
これ、コマ撮りですよね。
よしくみ
コマ撮りですね。
やえ
あ、コマ撮りなんですか?
よしくみ
コマ撮りですよ?
やえ
ひえー。
山下
(気づいてなかったんだ‥‥)
やえ
これ、じゃあ1分撮るのに
1日とか2日とかかけるってことですか?
よしくみ
そうですね、この作品に関しては
3班に分かれて2年かかってますね。

シェフ
3班、2年。
1チームだったら6年てことですね?
よしくみ
撮影だけで、はい。
やえ
えーーー!
山下
日本だと
許されない作り方になっちゃいますよね。
よしくみ
そうですね、贅沢ですね。
シェフ
何でそんなことができるの?
shino
チェコ時間ですよ、それは。
山下
チェコ時間。
やえ
チェコ時間、ああ、
チェコ時間だからか。
シェフ
わかるの?
shino
チェコ時間ってゆっくりだから、
2年かけるなんて
別にそんなにたいしたことでも、
っていう感じ。
(どよめき)。

(つづきます!)
2009-08-11-TUE

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