「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

05 俄然、おもしろくなる。

糸井 フィギュアの造形を作るときって、
CGとかは使ってないんですか?
つまり、隠れた部分の構造や、
向こう側がどうなってるかみたいなことを
理屈で知るために、
アニメーションの世界なら、
いまは、どんどん3Dにしていきますよね。
そういう仕組みは使ってない?
松村 使ってないですね。
糸井 なるほど、CGは補うものであって、
この場合は、骨格を知っていれば
必要ないってことですね。
松村 そうですね。
糸井 犬のひたいの、
左右の中心にある頭蓋骨の凹みなんかも、
最初の試作品の段階で、
すでにちゃんとありましたよね。
松村 ええ、ええ。

最初の「ねてる」の試作。
糸井 「この人は、さんざん骨を見てきてるんだな」と
思ってたんです。
ここは、毎日なでつけてる
ぼくがいちばんよく知っていますから(笑)。
松村 そうですね。
じゃあ、犬の口元に、
ぽこっと出てるところ、わかります?
糸井 口元の‥‥ああ、はい。
松村 これって、臼歯なんですよ。
上あごの臼歯はこう、
下のかぶさってるところはこう。
糸井 そう、そう。
松村 それがこのへんにぼこっと出ていて、
そこに歯があるのがわかるんですけど、
俺、そこの立体加減が好きで。
一同 (笑)
松村 だから、犬のフィギュアを作るときは、
口元に必ずこのふくらみを入れるんです(笑)。
触るとわかりますよ、顔をこう触ると‥‥
糸井 あるある、ありますね。
そのへんの観察はほんとにすごい。
犬そのものをよく知ってますよね。

あの、生きものって、
死んだものとか、命のないものに比べて
ぐねぐねしてますよね。
松村 ええ、哺乳類がとくにそうですね。
獣は、皮膚に隠れてる部分が
多いですよね。
糸井 そうか、哺乳類がとくにそうなんですね。
松村 そうです。
隠れている部分がけっこうあるんですよ。
人間なんかは露出してる部分が多いですけど、
犬って、膝とかも埋まってる感じですよね。
糸井 うん、そうですね。
松村 膝まわりの関節は
体につながってる部分なんで、
こう、皮のなかでこう、
ぐりぐりぐりと動いてる。
糸井 生命感って、なにかそういった
「ぐねぐね感」とつながってますよね。
よその犬って、
わりとシンプルに見えるんだけど、
自分んちの犬って、ほんと、
ぐねぐねしてるんですよ。
色気みたいなものにも通じる、
なにかがあると思うんです。

はぁー、おもしろい。
松村 (笑)
糸井 うちの犬はもっと汚いよっていうことと、
この白いきれいなフィギュアとのあいだの
会話があるわけ。
飼い主としては、
本物の、もっと汚れた犬に、
「この子(ちいさいブイヨン)より、
 おまえのほうがかわいいよ」っていうふうに
言ってあげたいわけ。
「あんなにきれいなわけないよな」って。
松村 (笑)
糸井 弱点も含めて自分んちの犬だからね。
「こんな白い犬、いるわけないよ、
 よしよし」って。

昨日もブイヨンが布団にもぐってきたんだ。
俺はいつも布団から顔を出して寝ていて、
ブイヨンだけなかに入ってるんだけど、
昨日はたまたま朝方に寝て、
まぶしいもんだから、俺も布団をかぶったんだ。
ブイヨンと、同じ空間を共有した状態になって、
ここで俺が屁をした場合には
ブイヨンに悪いなと思うから
そういうことしないように
俺は布団の外でするようにしてるわけ。
で、昨日、布団をかぶったら、臭かった。
‥‥やつが。
松村 ああ(笑)。
糸井 先にしてた(笑)。
だいぶ時間が経ってるみたいだったけど、
いつもの犬の匂いじゃない匂いがした。
それはフィギュアでは味わえないね。
一同 (笑)
糸井 ま、そもそもいらないな。
でも自分んちの犬については
そういうことまでが、
自分との関係ですもんね。

(つづきます)

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2011-06-14-TUE