- 糸井
- 7,000字って、書き始めたらそうなっちゃったんですか?
- 田中
-
2、3行のつもりだったんですよ。
そうしたら、初めて、
無駄話が止まらないという経験をしたんです。
キーボードに向かって、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」って。
- 糸井
- それは、うれしさなんですか?
- 田中
-
なんでしょう。
「これを明日ネットで流したら、
絶対笑うやつがいるだろう」と想像すると、
ちょっと取り付かれたようになったんですよね。
その後、雑誌に寄稿したこともあったんですけど、
やっぱりインターネットに比べると、反響が少なくて。
自分に直接、「おもしろかった」「読んだよ」とかが来ないと、
ピンと来ないんですよね。
- 糸井
-
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
それってすごいことですよ。
40歳過ぎてるんだから、
酸いも甘いも知らないわけじゃないのに。
- 田中
-
45にして、
すごくシャイな少年みたいに、ネットの世界に入ったんです。
- 糸井
-
コピーライターズクラブのリレーコラムって、
何回書いたんですか?
- 田中
-
2015年と2016年で、合わせて10回書いてますね。
あの頃はそこだけがはけ口だったんですけど、
残念ながら、あれはTwitterのようには反応が来ないんです。
- 糸井
- それは嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
なにしろ初めてのことだったんで、
「自由に文字を書いて、明日には必ず誰かが見てくれるんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
- 糸井
- あぁ、それはうれしいなぁ。
- 田中
-
糸井さんは、それを19年近く、
休まずにやってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
-
うーん‥‥そこは、休まないって決めたことだけがコツなんで、
あとは、なんでもないことですよ、仕事だからね。
野球の選手は野球やってるし、
おにぎり屋さんはおにぎり握ってるし。
- 田中
-
ぼくの中では相変わらず、お金じゃなく、
「おもしろい」「全部読んだよ」「この結論は納得した」
とかいう声が報酬になってます。
これだと、家族はたまったものじゃないでしょうけど。
- 糸井
-
だけど、「自分は文字を書く人だ」という認識がない時代が
20年以上あるっていうのは不思議ですね。
書くことに対して、好きとか嫌いとか
思っていなかったんですか?
- 田中
-
とにかく、読むのが好きで。
まさか自分が何かをダラダラと書くことになるとは、
夢にも思いませんでした。
- 糸井
-
‥‥それを聞いて、今ちょっと考えていたんですけど、
コピーライターって、
「書いてる人」っていうより、
「読んでる人」として書いてる気がするんですよ。
ぼくもそういうところがあって。
- 田中
- はい、すごくわかります。
- 糸井
-
視線が読者へ向かっているわけじゃなくて、
自分自身が読者なんです。
自分が書いてくれるのを待ってる。
- 田中
-
ああ、本当におっしゃるとおり。
いやぁ、それすっごくわかります。
- 糸井
-
ありがとうございます(笑)。
これ、お互いに初めてしゃべった話ですね。
- 田中
-
いや、そんな…。
だって、相手はあの糸井重里さんですよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- これ、説明するのむずかしいですねぇ。
- 田中
-
むずかしいですね。
でも、発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
-
受信してるんです。
「言いたいことがない人間は書かない」
っていうのは大間違いで。
読み手というか、「受け手」ということを、
伸び伸びと自由に味わいたいんです。
そして、誰がそれをやってくれるのかなというと、
「俺だよ」となるんですよ。
- 田中
-
そうですね。
映画評にしても、まず映画を観て、
次にいろんな人の評論を読んで。
そうすると、「この見方はないのか?」と思えてくるんです。
その見方がもう存在するなら、書かなくていいんですよ。
でもないから、
「じゃあ、今夜俺が書くの?」っていうことに。
- 糸井
-
あぁ、ぼく、今やっとわかりましたよ。
書かないで済んでいた時代、
書かなくてもなんであんなにおもしろかったかって、
広告屋だったからだ。
- 田中
- 広告屋は、発信しないですもんね。
- 糸井
- でも、受け手としての感性が絶対にある。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
たとえ発信していなくても、
「自分の受け取り方」っていうのは個性なんですよね。
その個性にピタッと来るものを
人がなかなか書いてくれないから自分でやって、
それが仕事だったんですよね。
今、わかりました。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
前から言ってますけど、
ぼくね、嫌いなんですよ、ものを書くのが(笑)。
- 田中
-
ぼくもすっごい嫌(笑)。
古賀さんもそう言ってましたけど、
みんな嫌なんですよ、本当に。
- 糸井
-
でも、ぼくも田中さんも、
「じゃあお前って、考えも何もないのかよ」って言われたら、
「そんな人間いないでしょう?」って返しますよね。
それを探しているから、日々生きているわけで。
- 田中
-
そうですね。
ご存じかどうかわかりませんが、Twitterに
「糸井さんふうに物事に感心する」アカウントがあるんですよ。
いろんなことに関して、
「いいなぁ、ぼくはこれはいいと思うなぁ」
って繰り返すだけ(笑)。
- 糸井
- ぼくはそればっかりですよ、本当に。
- 田中
-
でも、たとえば目の前のこの水に対して、
「ぼく、このボトル、好きだなぁ」っていうのを
世の中に対してちょっとだけ伝えたいじゃないですか。
「ぼくはこれを心地よく思ってます」って。
- 糸井
-
そうですね。
それは他のボトルでは感じなかったんですよ。
このボトルを見た時に思ったから、これを選んだ。
選んでいるということは、受け手なんですよね。
その時に、「このボトルのどこがいいか」っていうのは、
宿題にするようにしているんです。
いずれわかったら、またその話をします、と。
これは雑誌の連載ではできないんですよ。
インターネットだから、
わかった時に、わかったように書けるんですよね。
- 田中
-
インターネットだから、とりあえずその日に
「これがいいなぁ」って伝えることができるんですよね。
そして、「ツラツラ考えたら、何がいいかわかった」
っていう続きがまた話せる。
- 糸井
-
そうです。
だから、やりかけなんですよね。
田中さんがやっているのもだいたい同じパターンですね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
はぁ‥‥。
たぶん、このことを言いたかったんですよ、ぼく、ずーっと。
(つづきます)