もくじ
第1回近すぎる嫁姑関係 2017-05-16-Tue
第2回お母さんを泣かせる 2017-05-16-Tue
第3回お母さんに謝りに行く 2017-05-16-Tue
第4回正直になろう 2017-05-16-Tue

コピーライターです。

中国人のお姑と、日本人の私。

中国人のお姑と、日本人の私。

担当・小森谷 友美

第3回 お母さんに謝りに行く

それから数ヶ月後に、わたしにも息子が生まれた。
子育てに夢中になっていたら、
あっという間に、あの日から1年が経ってしまった。

お母さんは家に来ることもあったけれど、
あれから、なんとなくわたしに
気をつかっているように見えた。
近すぎた距離は、いつのまにか、
少しだけ離れてしまったように感じた。

わたしは意外にも、それが寂しかった。

そしてずっとあの日のことが気がかりだった。
本当はわたしが泣かせてしまったことを、
お母さんは知っているの?
わたしのこと、どう思っているんだろう。
知りたいけれど、聞くのはこわい。

でも、お母さんにわたしの気持ちを誤解されたくない。
わたしはお母さんのことが、嫌いなわけじゃないんだ。
ただ、距離のつかみかたがわからなかっただけなんだ。

だからわたしは、お母さんに
謝りに行くことにした。
会って、自分の気持ちを話してみることにした。

向かった先は、中国の武漢市。
お母さんとお父さん、
それに夫が生まれて育った街だ。
お母さんの帰省中に、すこしだけ時間をもらった。

あの日のことを、自分から切り出すのは
ちょっと勇気が必要だった。
でも話すなら、今しかない。

わたしはなるべく緊張しないですむように、
お母さんの隣に座って、話しはじめた。

ーーー

わたし
今日は、お母さんとゆっくり話したくて。
お母さん
うん。いいよ。
わたし
わたしは、その、自分が日本人だから
本当はお母さんが、中国のお嫁さんが
よかったんじゃないかと思って、
心配になることもあるんです。
お母さん
そうね。
本音はたしかに、中国の女性のほうが
いいかなと思っていたこともあって。
生活のしかたとか、習慣とか、合うしね。
わたし
はい。そうですよね。
お母さん
でもわたしにとって、いちばん重要なのは、
チャンジ(夫の名前)の意見を尊重することで。
あの子が自分の意思で、結婚したいなら、
それをわたしも応援したいと思ったの。
わたし
はい。
お母さん
それに、わたしはふたりを見て、
「ああぴったり合う。この子なら大丈夫」
って思ったのよ。
わたし
ほっとしました。
中国と日本のお嫁さんを見て、
違うと思うことはあるんですか?
お母さん
中国では、おじいちゃん・おばあちゃんが
子どもを見ることが多くて。
お嫁さんはそのかわり、仕事に行くの。
わたし
へえ!
わたしは、お母さんが家に来て
家事をしてくれるとき、
ちょっと「申し訳ないな」と
思っちゃうんですけど‥
お母さん
中国のお姑さんが家事を手伝うのは、当たり前のこと。
そうすれば、お嫁さんも仕事とかできるでしょう。
わたし
そうなんですか‥?
わたしは自分が仕事に行くのは、
わがままかなと思っちゃうこともあって。
お母さん
わたしが手伝いに行くときね、
友美ちゃんちょっと緊張してるでしょ(笑)
わたし
あはは(苦笑)
わたしはお母さんが来るたびに、
部屋を掃除しなくちゃいけないと
思っていたんです。
 
でも妊娠中は、体調がわるいこともあって。
「あと30分でお母さんがきちゃう!
でも掃除できない‥」って、
思ったこともありました。
お母さん
そのときはちゃんと、お互いのことが
わかっていなかったのよね。
妊娠中はなおさら、寝ていてもいいのよ。
だから手伝いにいくわけだから。
わたし
そうだったんですね。
お母さん
友美ちゃんの気持ちもわかるよ。
でもわたしが来るからって、
掃除はしないで。自然なままで。
わたし
お母さんが、すごく家事が早くて、
掃除も洗濯もかんぺきなので。
わたしもそんなふうに、やらなきゃいけない!
って勝手に思ってしまって。
お母さん
わたしね、友美ちゃんと同じ年齢のころは、
ごはんもつくれなかったの。
わたし
そうなんですか!?
お母さん
そう。
子どもが3ヶ月のときから仕事に戻ったから、
わたしのおばあちゃんが朝ごはんも昼も夜も、
ぜんぶつくってくれていたの。
わたし
‥‥‥なんか、その、前に。
チャンジさんが帰ってきてすぐ、
お母さんに強く言っちゃったときがありましたよね。
お母さん
ああ‥‥そんなこともあったよね‥
(ここでお母さんは、涙が出てしまう)
わたし
わたしは、あのときちょっと、
風邪をひいてしまって、イライラしていて。
「いろいろしなくちゃいけない」って
勝手に追い詰められてしまって‥
お母さん
たぶん友美ちゃんはわたしがくると、
気をつかっちゃったり、
チャンジはチャンジで真ん中に立って、
きっと大変だったんだろうって後からわかったの。
わたし
あのときは、本当に、
申し訳ないことをしてしまったなって
今までずっと思ってきました。
お母さん
うん、うん。
でも大丈夫。
大丈夫、大丈夫。
わたし
中国の習慣もわからなくて。
お母さんに誤解させちゃってたら
どうしようって、思って。
お母さん
でもいまは、友美ちゃんの
気持ちも状況も、よくわかったから。
わたし
お母さんだって、子どもが4歳のときに
日本にはじめて行って。言葉もわからなくて。
文化もちがう中で子育てするのは、
大変なことも多かったんじゃないですか?
お母さん
そうね。
お父さんはずっと中国で単身赴任だったし、
わたしは朝から赤坂の中華料理やさんで働いて、
夕方からは八王子の会社に行って、
1日かけもちで仕事していたからね。
わたし
朝から晩まで、ふたつも仕事を!
お母さん
そのときは、
チャンジを夜ひとりにしちゃうから、
本当にかわいそうな気持ちで。
わたしが帰ってくるまで、
ご飯も食べずに待っていたからね。
でも仕事をやめるわけにはいかないし、
大変でしたよね。
わたし
それは本当に‥‥大変です。
お母さん
特にね、12月25日。
クリスマスもね、夜遅くまで
会社で仕事をしていたから。
一緒に過ごしてあげられなくてね。
 
そのときは、本当に、
心からチャンジにわるいなっていう
気持ちがあって。
(お母さんは、涙がでてしまう)
わたし
‥‥はい、はい。
お母さん
スウェーデンに住むわたしの妹に電話して、
「仕事で遅く帰らないといけないから、
チャンジに夜、国際電話してくれる?」って、
お願いしたりしてね。
わたし
‥‥‥‥‥‥。
お母さん
でもそのときから、家事がどんどん上手になって。
どういう風に子育てして、仕事して、
家庭のこともしたらいいだろうって考えて、
うまくなっていったの。
わたし
わたしも、お母さんのように
いろいろできるようになるのかなあ。
お母さん
できる!できるできる。
 
友美ちゃんもね、この先、
仕事とか、家庭のこととか、
つらいこともあるかもしれないけどね。
でもだんだん、自分が、強くなるの。
やっていくうちにね。
それをわたしは、手伝うからね。
わたし
そうなるといいです。
ありがとうございます。

 

 

窓からみえた長江は、
とても大きくて、広かった。

夕陽は、中国人のお母さんのことも、
日本人のわたしのことも、
平等に包みこんでくれているようだった。

いろいろな嫁姑関係があっていい。
わたしはこの話を終えて、
なんだかとてもホッとした。
お母さんも、それまでより
すっきりしているように見えた。

お母さんとわたしの関係は、
それまでよりもずっと、
強いものになった気がした。

最後に、わたしがいま感じていることを
書いてみたいと思う。

(つづきます)

第4回 正直になろう