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第0回キウイの声 2017-04-18-Tue

1993年東京生まれ。一にカレー、二にあんこ、三にビール。とにかくおいしいものに目がない人です。

わたしの好きなもの</br>キウイ

わたしの好きなもの
キウイ

担当・柴萌子

「好き」とはなんだろう、と考える。
たぶん、「好き」とは雨粒のようなもの。
雨の降るなか傘をさしていると、
ときどき大きな雨粒が「ぼた」とおちてくる。
はっと傘を見上げる。
「好き」になる瞬間は、雨粒の「ぼた」と似ている。
その雨粒が傘から滴り落ちて
消えてなくなってしまうように、
初めて「好き」と思った瞬間は特別でも、
時間がたつにつれて
どんどん当たり前の気持ちになって
ほかの気持ちのなかにうもれてしまう。
だからこそ、「好き」の芽を見つけては
水をやりながら、大切にはぐくみたい。
‥‥ということで、今回は、
わたしの好きなもの、キウイのおはなしです。

キウイが、好きだ。
なにより見た目が好みだ。
それと手ざわりだとか、食べるときに聞こえる音も、いい。

まずは、見た目。正直かわいくない。
丸と四角の中間のようなかたちをしている。
そして、色はみどり。
まるで恐竜のたまごのような、
机の角にゴツンとぶつけてみると
何かが生まれてくるような、
そんなかたちだ。
おまけにうっすらと毛におおわれている。
動物ではないのに、植物なのに、毛が生えている。
不思議でしかたがない。
手のうえにキウイをのせると、
ひな鳥をのせているようなこころもちになる。
なにか新しい生きものが生まれそうな、
生命の息吹が、キウイから聞こえてくる。
そしてその息吹に身をそっとゆだねたくなる。

そして、キウイを食べるときの音。
キウイを口に入れた瞬間に、
ジャリ、と黒いたねが口のなかではじける。
それとともに甘酸っぱさが、口いっぱいに広がる。
ジャリ、ジャリ、ジャリ。
それはとても小さい音だけれども、
耳をすませばたしかに聞こえてくる。
たねとたねのぶつかりあう音が、聞こえる。

キウイさん、いただきます

キウイを食べるたびに
頭のなかで流れるフレーズがある。
宇多田ヒカルさんの『Flavor Of Life』
という曲の1フレーズだ。

収穫の日を夢見てる 青いフルーツ

宇多田ヒカルさんが歌う「フルーツ」の響き、
そのなかでもとくに
「ル」の発音にうっとりしてしまう。
フルーツを噛むとにじみ出てくる果汁みたいに
甘くとろけてしまいそうな官能的な「ル」なのだ。
まるでことばを実のようにつまんで、
食べているかのように、
宇多田ヒカルさんは「フルーツ」と歌っている。

その「フルーツ」というフレーズを歌うように、
わたしもいつくしみ深くキウイを食べたくなる。
キウイの果肉のひとかけらを指でつまみながら、
両手を果汁でびちゃびちゃにしてみたり、
果汁のついたくちびるをなめまわしてみたり。
一見ちょっとお行儀の悪い食べかただけど。
本当のところは、そんなふうにキウイを食べてみたい。

キウイへの敬意を最大に払った食べかたとは、
いったいどんな食べかたなんだろう。
模索の日々である。