もくじ
第1回 2017-04-18-Tue

30歳で独立し、会社をつくって3年目。

私の好きなもの</br>「いい質問ですね」

私の好きなもの
「いい質問ですね」

担当・尾崎えり子

「質問する」って簡単そうで、ものすごく難しい。
そんな私が「いい言葉ですね」に出会って、どう変わっていったのか。
私と同じように「質問する」ことが苦手な方にぜひ読んでもらいたい。

▶池上さんが「いい質問ですね」という2つのケース

『2010 ユーキャン新語・流行語大賞』
(現代用語の基礎知識 選)のトップテンに
ジャーナリスト・池上彰さんの
「いい質問ですねぇ」が選出された。

池上さんは選出にあたって、こうコメントを残した。

『私が「いい質問ですね」と言うとき、
実は2つのケースがあります。

ひとつは、次の場合です。
私が想定していたニュース解説の流れが、
出演者のタレントさんのアドリブ質問で
横道にずれることがあります。
こんなとき、話の流れを元に戻してくれるような質問が
出ると、「これで話を元に戻すことができる」と、
思わずほっとして出てしまう言葉です。

もうひとつは、その質問で、
私自身が認識を新たにする場合です。
ニュースの本質を衝いた出演者の質問に、
私ははっとさせられ、
私自身がニュースをより深く理解するきっかけになったとき、
私は嬉しくて、この言葉を発します。
つまり、いい質問によって、
私自身が勉強になるからです。
出演者の「いい質問」によって、
私も勉強させていただきました。
よき出演者に恵まれて、私も成長してきました。
みなさんに、感謝します。ありがとうございました。』

このコメントは私が強く持っていた
「質問すること」に対する罪悪感を和らげてくれた。

▶私が持っていた罪悪感とは?

私はずっとずっと「質問すること=時間泥棒」だと思っていた。

小学校の時、授業で分からないことが多くて、
何度も手を挙げて質問した。
学年があがるにつれて
「なんでわからないの?(笑)」
「先生、私たちはわかるから時間の無駄です。」と
友達から笑われるようになった。

先生は「授業中ではなく、後から質問に来なさい」
と言ってくれたが、休み時間は次の授業の準備で
質問するタイミングがなかった。
算数も理科も社会も国語も、全ての質問をため込んで
放課後に先生のところに行ったときには
もう何がわからないのか、わからなかった。

それでも一つ一つ質問していく。
私:「書き順を守る意味が分かりません。」
先生:「きれいな文字をかけるからよ。」
私:「黒板に書き順を間違えて書いたら笑われました。
テストではどうやって書いているかわからないから
〇ですよね。書く順番と〇×が関係ないなら、
別にどう書いても良いですよね?」

先生は残念そうな顔をしたように
小学生の私には見えてしまった。

書き順で止まり、足し算で止まり、
私は前に進むことができず、
宿題をしていかなくなった。
廊下に立つことも多くなった。

私の質問は先生をがっかりさせる。
なんで私は一度で理解できないのだろう。
と廊下で授業を聞きながら考えていた。

中学生になると、
質問は「空気の読めないやつ」がするものになった。
思春期が関係しているのか、
みんなと違うことを言うと変な目で見られた。

高校生になると、質問は頭のいい子がするものになった。
質問は自分の馬鹿さをみんなの前で露呈するだけなので、
私にはもう怖くてできなくなった。

18年間かけて、私の頭の中で
【質問すること
=理解できない・流れを止める・空気読めない
=他人の時間を奪うこと】
という罪悪感がしみ込んでしまった。

▶罪悪感を持ったまま社会人になってしまうと。。。

そんな私が社会人になった。
学校の勉強のように教科書もなければ、塾もない。
分からないことは「質問」するしかないのだ。

先輩は、みんな忙しそう。

入社式で「まず自分で考える」と言われたが、
今自分が立ち止まっている問題が
自分で考えることなのか、
人に教えてもらうべきことなのか、の判断すらつかない。

私は質問しても優しく答えてくれそうな先輩を探した。
その先輩のスケジュール表を見て、余裕があることを確認。
次に顔をチラッと見て、機嫌をチェック。
よし、今だ。今なら大丈夫だ。
そう思った矢先に同期がその先輩に声をかける。
あ、私がうかがっていたチャンスだったのに。。

結局、先輩が煙草を吸いに行くタイミングを見計らって
声をかけるしかできなかった。

「大変お忙しいところ、申し訳ありません。
私の理解できないことが問題であることは
重々承知なのですが、
3点ほどわからないことがございまして。
今お時間5分ほどよろしいでしょうか?」
とものすごく恐縮しながら声をかけた。

一通り質問に答えをもらった。
しかし、質問をしたことに対して
先輩の説明が分からなかった時、
「やっぱりわかりません」と言えない。
大切な時間を私のために使ってくれたのに、
それでも理解できないなんて、申し訳なくて言えない。

分からないままにしておくと、当然ミスがでる。
質問をする内容を整理することに時間をかけ、
声をかけることに時間を費やすると、
無駄に会社にいる時間が長くなる。

私の仕事の効率の悪さは
「質問できない」が大きな要因だった。

▶「いい質問ですね」との出会い

そんな社会人4年目。
池上彰さんの「いい質問ですね」に出会った。
言葉そのものというより、背景にある、
質問を受ける側の「質問への構え方」を
私は好きになった。

質問は受け手にとって迷惑な行為ではなく、
学びの機会になり、感謝するべきことだ、という構えに、
「質問すること」への罪悪感が少し軽くなった。

<少し>の理由は、
学びの機会や感謝すべきは「いい質問」のみで
「質問をすること」自体が肯定している表現ではないからだ。

でも、自分が質問を受ける立場になり
思わず「いい質問ですね」と言ってしまう経験を経て
「質問すること」への罪悪感は徐々に消えていった。

自分が質問を受けてみて初めて分かったことがある。
質問する人は、相手をその分野での専門性を認め、
どんな質問も受け入れてくれると信頼して
この人に聞いてみたい、人としての興味をもってくれているということ。
つまり、どんな質問でも相手からの強い好意や興味の上に
成り立つものだということ。
さらに、答えにつまったり、分からない方がワクワクするということ。

だから、全ての質問はありがたい、と私は思う。

「質問すること」は「時間泥棒」ではなく、
「?(はてなマーク)のラブレター」だと
今では思えている。

▶「いい質問」にするための構え

本屋に行くと、「質問力」「質問の仕方」のような
質問をする側のノウハウ本はたくさんある。
しかし、質問受ける側について書かれた本は
少ないように思う。

いい質問かどうかは受け手によっても変わる。
返答次第で「つまらない質問」を「いい質問」に
変えてしまうことだってできる。
逆もまた然り。

私は「いい質問ですね」が好きだ。
どんな質問も「いい質問ですね」にしたい。
自分にとって新しい気づきとなり、
質問者はもちろん、それを聞く周囲の人にも面白いものにしたい。

だから、質問を受ける側の構えを習得したい。

ここからは家で修行している「構えの練習」を紹介する。

子ども達は1分に10個くらい
「なんで?」「どうして?」と質問をしてくる。

今回は私の5歳の息子からの
「なんで、バイキンマンはドキンちゃんの言うこと聞いて
悪いことするの?」
という質問を例にしてみる

■第一の構え
<その好奇心は素晴らしいものだとほめる>
「おお!!!いいね!いいところに気が付いたね!いい質問だ!!」
少しオーバーに褒めることで、こちらのテンションを上げる。

■第二の構え
<答えをひねりだしてみる。>
「もしかしたらさ、バイキンマンはいつもものすごいメカを作るでしょ。
毎回アンパンマンに壊されては直してる。かなり、お金がかかるはず。
そのお金がドキンちゃんが出してもらってるから断れないのかもしれない。
または、ドキンちゃんは友達がいないから、
自分はドキンちゃんに味方になろうって思っている優しい男の子なのかも」
といくつかの仮説をひねり出す.

■第三の構え
<わからなかったら質問返しする>
「あなたはどう思う?
どんな時に友達の言うことを断れないかな?」

考えてみたこともない質問にテンションを上げ、
色々な角度から質問への回答の仮説を立て、
さらに、一緒に考えて深める。

この3段構えが「面倒だな」「わからないな」と思う質問を
自分にとって新たな気付きをうむ「いい質問」に変えることができる

▶<おまけ>すぐに構えの姿勢をとるためのシステム

こんなものを用意してみた。
質問を瞬間的にできる装置だ。

子ども達は質問が浮かんだから、机の上のボタンを押す。
「ティリン!」と音がなる。

その瞬間に私は質問を受ける側として構えるのだ。

構えが悪いと、
つまり「今忙しいんだけど」「つまらない質問しないで」
という返答をした場合は
×がブーという音とともになる。

きちんと構えられると
〇がピンポーンとなる。

(終わり)