金井 コミュニケーションとは、
やはり、誰にでも何でも聞けるし、
曲がってるものは曲がってるんだと
会社に言うことができる、
つまり風通しのいい社風だということ。
糸井 それはもう、ベースとしたい部分ですよね。
社員のあいだで、言いたいことを
言えなくなっちゃ、おしまいですから。
金井 そのとおりですね。

そして次に、本当に人材を
「価値」とみなしてしているんだったら、
実際に事故や病気になる人が少ないはず。

これ、最低限だと言われそうなんですけども、
たとえば、健康診断の場合だったら
「受診率」だけでなく
「再診率」まで、心づかえる会社ですね。

糸井 うちの会社でいうと、
健康については、ものすごく厳しいんです。

社員が健康を損なってたりすると、
怒るくらいなんですよ、僕が。

その部分をも「コスト」として考えるのが、
社長の仕事だと思っているので。

金井 長期にわたって業績のいい会社は
実際、人材をすり減らしていません。
社員の健康のことを
ものすごく意識してますよね。

たとえばキヤノンという会社は、
創業者の御手洗(毅・初代社長)さんが
お医者さんだったということもあり、
「健康第一主義」というのが
企業理念のなかに入っているんです。
糸井 ああ、そうなんですか。
金井 これは暴論かもしれませんが、
将来的には「昇進基準」の中に
「健康」という項目が、入ってきたっていい。

もちろん「健康差別」が起きては困りますが、
生活習慣病だけに関する異常値を見て、
たとえば、それが2個ぐらいまでだったら
何々の役職に昇進する資格を与えられる、と。

役員になればなるほど、
みんなはつらつとしてて元気、というのは
やはり、「いい会社」の
条件なんじゃないかと思います。
糸井 コミュニケーションと、健康。

その軸は、会社の大小にかかわらず、
どこにでも当てはまるんでしょうね。
たとえば、「ふたりだけの会社」でも。

でもじゃあ、それですべてかというと、
きっとそこにまた「肉付け」が必要ですよね。
金井 そういう意味でいくと、
感動する人が多い会社、というのも
いい会社の条件に、入ってくると思います。
糸井 なるほど。

たとえば、先生にとって、
「思い出の映画」というものが、
きっと、ありますよね。
金井 ええ、ありますよ。
糸井 その映画を観たか観ないかということは、
先生の書く経営学の論文に
影響してくるんだ、ということですね。
金井 はい、まさにそうです。

若いときに観た映画だとか、
聴いた音楽だとか、出会った人物だとかが、
仕事に影響を与えることは、
絶対にありますね。
糸井 そういう、いくつになっても、
感動を忘れない人の多い会社。
金井 ええ。

ここまで感動するなんて、
やっぱり人生っていいなあ、と。

音楽でも、人物でも、建物でも、
なんでもいいんですけど、
この音楽を聴かずに、この人と会わずに、
この建物を見ずに死んでしまってたら
どうしようかというぐらい
深くこころが動くようなこと。
糸井 うん、うん。

金井 深く感じることがあればこそ、
世界のことがよりよく見えるようになる。

いまの仕事に、間接的だけど
大きな影響を与えてることがあるとするなら、
それは深いレベルでの経験というか、
大きくこころを動かされた経験、なんですよね。
糸井 「まったく感動はないんだけど、
 でも、うまくいく人生」なんて
あんまり選ぶ気がしないですよね。
金井 まったくです。

あと、企業側からのアプローチでいうと、
「リアリスティック・ジョブ・プレビュー」、
略して「RJP」という考えもあります。

これは、就職するまえに
その企業が実際にはどんなところなのか、
ありのままの姿を見せるというもの。

つまり、学生を採用するときに
誠実であろうとするなら、
自社のいい点ばかりではなく、
若干ネガティブなところまでも
知ってもらったうえで、来てもらったほうがいい。
学生の側も、
そうした部分を知って、入った方がいいでしょう、
ということなんです。
糸井 要するに、いいところと悪いところと
両方について言う、ということですね。
金井 そうです。

学生は、そうして示された
いい部分、ネガティブな部分の両方について考え、
自己選択する。

そうすれば、就職というキャリアの節目を
自分でデザインしたんだ、という実感が
ともなってくると思うんですよ。

糸井 いい部分については言いやすいでしょうけど、
ネガティブな部分というのは
たとえば、残業が多いですよ、とか‥‥。
金井 以前、この考えかたに
野村総研が賛同してくれて
実際、働いている社員に
「入社してみて、いいと思ったところ、
 がっかりしたところ」をリサーチし、
その結果をまとめて
就職のパンフレットを作ったんです。
糸井 はぁ‥‥おもしろいですね。
金井 プラスの面としたら、
日本を代表するシンクタンクだけに
人に会うにもアポイントをとりやすいし、
設備的にも
研究の環境が整っている、などが
出てきたんですけれど
マイナス面はね、
けっこうサラリーマンタイプも多いとか、
やりがいはあるけど、納期が厳しくて、
家に帰るころには
コンビニくらいしか開いてないとか‥‥。

そういうところもわかったうえで
入ったほうが、
入社後の適応度と定着率は
むしろ上がるんですよね。

糸井 「ほぼ日」のことでいうと、
Tシャツやタオルなどの商品ぜんぶに
「デメリット表示」を入れているんです。

アピールできるところと同時に
デメリットな部分も
先に知っておいてもらうんですよね。
金井 なるほど、なるほど。

いいところはもちろん
気をつけてほしいところを
あらかじめ伝えているということですね。

就職の場面でも大切なのは、
そうやって、企業側がリアルな情報を提供し、
それらにたいして、
学生側が自己選択する、ということなんだと思います。

<続きます>


2007-06-06-WED