商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里 商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里
(6)センスがあったんです
糸井
独立してからヒットが続いていた頃を
振り返ってみて、いかがですか。
田中
小さいながらも業績は良かったです。
ただ、売上利益も、社員数も、
当時の自分には合っていなかったんですよ。
糸井
大きすぎた?
田中
当時の自分の人間の器として、
受け容れられなかったというか、
キャパを越えていた気がするんです。
糸井
あぁ。
田中
私は20代後半から30代前半って、
毎晩飲みに行っていたんですよ。
今で言う、キャバクラみたいなお店ですね。
飲みに行って憂さを晴らしていましたが、
振り返ってみれば、あれはきっと、
気持ちの渇きを潤しに行っていたんですよね。
糸井
辛かったんだ、本当は。
田中
そんな気がします。
でも、どんなに飲んでも潤わないんですよ。
自分の気持ちから逃げていたんでしょうね。
糸井
ぼくもすごく優秀だって評判の人と
いっしょに食事をしたことがあって、
「どんどん飲んでください」と勧めたら、
その人は本当に、どんどん飲んだんです。
たしかに辛いことがあったから、
会社を辞めてきているんだけど、
前の会社が、相当よくないものを
彼に与えたんだという飲み方なんですよ。
紹介をしてくれた知り合いも、
「あの飲み方してる人は、
しばらく立ち直れないでしょうね」
と、ぼくに言うんです。
田中
ああ、わかります。
糸井
無理してでも飲んでいる人には、
そうじゃない側に何かがあると
思ったほうがいいですね。
田中
はい、そんな気がしますよね。
糸井
飲んだくれている時には
気づかないでしょう?
田中
うーん、気づきませんね。
50歳を過ぎて振り返った時に、
あの時は辛かったんだ、という感覚に気づきました。
糸井
ぼくも50歳の手前ぐらいの頃かな、
あらゆる踏み倒した借金は、
後で請求書が来ると思いましたね。
田中
はい、はい。
糸井
過去にふざけたことをやったら、
「あんなことをしたから、今がこんなことに」とか、
「頭の中で考えたことないでしょう?」とか、
「あれは、どうなってるの?」というのを、
後になって、たくさん問われるようになりました。
いい加減にしてきたことは、
後でまた考え直さなきゃならないんです。
田中
因果応報とは、よく言ったもので。
糸井
まったくそうですね(笑)。
「請求書はずっと追いかけてくるよ」って、
ぼくはよく言っているんだけど、
田中さんも同じようなことを思っていたんですね。
田中
そうですね。
糸井
田中さんの会社では、
ヒットがずっと続かなかったにしても、
新しい商品が次々と売れていますよね。
それは、ラッキー以外の何かがあったんでしょうか。
というのも、卸しの商売がうまくいったのは、
かわいいエプロンや、ポーチという、
コンテンツが救ったとも言えるわけですよね。
それを一所懸命に考えることで、
新しい商品が思い浮かぶだけの
何かがあったわけじゃないですか。
田中
自分で言うのもおこがましいんですけど、
なにかこう、センスがあったんですよ。
糸井
「世の中に、なにかが足りないな」
みたいなことですか?
田中
「今これを出したら売れるんじゃないか」
ということを掴むセンスというんですかね。
こう言っちゃうと身もふたもないかもしれませんが、
なんでもセンスな気がするんですよね。

誰もが東大医学部に行く頭脳はないし、
誰もが100メートルで10秒を切れません。
人間の持っている才能って全部、
突き詰めていくとセンスなんじゃないかと。
糸井
たしかに身もふたもないようだけど、
田中さんのセンスがあったんだ。
田中
たまたま自分にセンスがあるものは、
比較的好きだったりするんですよ。
自分のセンスがどこにあるかというのは、
何が好きかっていうことと、
ニアリーイコールな気がするんです。
糸井
「こういうことなら、いけそうだな」
みたいなセンスがあったんだよ、と。
田中
当時やっていた商売は地方大会、
いわば前橋大会みたいなものですが、
その中で得るものがありました。
今は、全国大会に出ているっていう感覚です。
糸井
うんうんうん。
その頃って、ポーチだとかの具体的なデザインは、
田中さんが絵を描いて作っていたんですか?
田中
自分のイメージしたものを、
デザイナーに描いてもらってましたね。
糸井
そこを任せるのもセンスですね。
最後まで自分でやりきっちゃって、
思っていたものと違うものが
できちゃうことも大いにあることなんで。
田中
私にそういうセンスはないんですよ。
糸井
それは知ってたんだね。
「自分にはこのセンスがある」ことと、
「自分にはそのセンスはない」ことの、
両方を知っていないと任せられないですよね。
そこが見事です。
田中
見事って言われると、ちょっと恥ずかしい。
糸井
ものすごく難しいと思いますよ。
田中さんは、今のJINSでもデザイナーに任せて、
いろんなものを作ってますよね。
デザイナーの中には暴走する人もいるだろうけど、
暴走したら、引き寄せることをするし、
物足りなかったら、もっとやってくれと、
要望を出すようなこともやってますよね。
田中
はい。
糸井
それは、大したことですよ。
その役割をトップができるのって、
重要なことだと思うなぁ。
できることと、できないことの、
見極めがすごいんですよ。
田中
あっ、人に任せるといえば、
私は小学生の頃から、
宿題をやったことがないんですよ。
宿題を、勉強のできる
同い年のいとこにやってもらってました。
糸井
奥の手がいたんだ(笑)。
田中
私の筆跡に似させて。
糸井
ワルいなあっ!
そのいとこの子は、
なんで田中さんの言うことを聞くんでしょう?
田中
子どもの時からずっとそうだったから、
「まったくもう」と言いながら
やってくれたんでしょうね。
糸井
仲がいいってことなのかな。
お駄賃をあげることもないんですか?
田中
子どもだから、お駄賃はないですよ。
仲はよかったですね。
糸井
じゃあ、仲がいいっていうだけで
宿題をやってもらっていたんだ!
それも、もしかしたらセンスなのかなぁ。
今もいとこの子は元気でいるわけですよね。
田中
元気ですよ。今は学校の先生をしています。
糸井
その時のインタビューをしてみたいよね。
「なんで田中さんの宿題したんですか?」って。
田中
そうですね(笑)。
糸井
「宿題やっとけよ」って言うんですか?
ジャイアンみたいに。
田中
いやいやいや。
でも、強引にやらせちゃったことも
あるのかもしれないなぁ、
子どもの頃だったから‥‥。
糸井
やっぱり本人に聞いてみたいなぁ。
普通は、ありえないことだと思うんです。
自分の得意なことを見つけるのと、
不得意なことを見つけるのと、
両方ができるだけで、いろんなことできますね。
田中
はぁー。
糸井
田中さんは、自分ができないことについて、
平気で笑って見ていられる人なんですね。
田中
そうなんですかねぇ。
(つづきます)
2017-12-26-TUE