糸井 え?
山下さん、
スウィングだけを取りだして
今、やってくださるんですか?
山下 はい、そこだけ、やってみます。
糸井 豪華ですねぇ。
こんなことして、いいんですか?
タモリ 今日はもう、
どんどんやってもらいますから。
はじめてのジャズは、
それぐらいやらないとわかんないもん。
糸井 ご親切な!
山下 (メンバーに合図して)
じゃ、みんなでやります。
ここが気持ちいいんじゃないかなぁ、
と思ってきいていてください。

(演奏)
タモリ うわぁ、わかりやすい。
気持ちいいですね、これね!
糸井 いや、なんだぁ、こりゃぁ!
山下 1拍ずつをみんなが感じて
乗っていくところが、
気持ちいいんですね。
タモリ そうそうそうそう。
糸井 スウィングって、
ロックミュージシャンには
感じられないものなんでしょうか?
山下 いやぁ、ありますよ。
ロックだろうと邦楽だろうと、
能の音楽だろうと、なんでも。
糸井 「ここ、くるぞ!」と。
……ということは、
山下さんは歌舞伎座に行っても、
「お、スウィングしてるじゃないか!」
と思いながらいるんですね。
山下 そういう感覚でものごとを見ますね。
「やった! これはスウィングしてる」と。
見栄を切る瞬間も、スウィングですからね。
タモリ スウィングはしてないんだけど、
ただ乗ってるヤツって、多いですよね?
山下 はい。
ただ、その人なりの
スウィングだと、私は思いますけど。
糸井 山下さんはもう、
歌舞伎だろうがロックだろうが、
日常生活でも、
中華料理屋のおじさんが
チャーハン炒めてるときであろうが、
というぐらいまで、
スイングを感じて生きてらっしゃる?
タモリ あぁ、それ、わかりますね。

昔、博多の時代に
行ってたラーメン屋がありまして、
すごい繁盛してるんです。

いつも同じ人が作るんですけども、
チャーシューを載せる時……
ひとり3枚なんですけど……
チャーシューがいっぱいあるのを、
こう、パパパパパッと乗せるのに、
首がちょっとこう振れるんですね。
糸井 (笑)あはははは!
タモリ あれ、やっぱりスウィングしてるよね?
山下 (笑)そういうことだね。
タモリ 今考えりゃあ、
あれがスウィングですよ。
それ見たさに、よく行ってたんです。
やっぱり日常生活にもスウィングがある。
糸井 スウィングって、どことなく
ほくそ笑んでる感じがありますよね?
タモリ そうそう。
その人もチャーシューを乗せる時は、
ちょっとニコッと笑う。
他のところでは笑わないんですけど。
山下 スウィングする(笑)。
糸井 ぼくはスウィングに憧れました。
これからは、スウィングします。

……あ、『スウィング・ガールズ』という映画で
ジャズに興味を持った人もいると思うんですけど。
あのスウィングも、今、話したスウィングですか?
タモリ そうです。いちおう、
スウィングジャズという、ジャンルがありまして。
糸井 あれはジャンル名なんだ?
タモリ そうです。
山下 1930年代に、
かならずジルバを踊りまくるという
ブームがあった時のものなんですよ。
糸井 それは今の話と比べると、
ずいぶんわかりやすいスウィングですね。
山下 その感覚を前面に出して、
つられて浮き浮き踊るという音楽だから、
スウィングにはまちがいないです。
糸井 ただ、タモリさんは、さっき、
ノリとスウィングとはちがうんだと。
山下 ノリっていうのは、
興奮ということと重なりますよね。
あいつ没入しちゃって、いつまでもやめないとか。
……それがいいともかぎらないわけです。
タモリ そうすると、
だいたい聴衆は引いていくんですよね?
山下 (笑)


2005-05-03 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005