ITOI

もともと、2月11日にぼくが書いたのは、
以下のような文章でした。
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景気が悪いという言葉も、あんまり聞かれなくなった。
言うまでもない、というところにまで来たからなのかな。
こういうふうに景気が悪くなると、
いろんな企業や商店が、苦肉の策というような、
せちがらいことをやりはじめたりする。
ぼくは経営の専門家でもなんでもないのだけれど、
「そんなことして、何かを失うんじゃないか」と、
ついおせっかいなことを思ったりもする。
いや、顧客としてふつうに感じるってことだな、きっと。
最近では、けっこう客としてひんぱんに通っている
スターバックスの紙カップのふたが、変わっていた。
「揺らしてもこぼれない」という特長はそのままなのだが、
明らかにコストを削減しているという印象がある。
ぼくは、前のあのふたが好きだったのになぁと、
かなりがっかりする。
飲み口を、自分の手でちぎって開けなくちゃならないし、
飲むときカップを傾ける角度が変わってくる。
こんなに見えやすい部分に、
「ケチなことをするもんだなぁ」と、感じてしまう。
すくなくとも、ぼくひとり分の信頼を、
この店は失ってしまった。
こういうことって、ついやりがちなんだと思うのよ。
例えば、一流のおいしい和菓子屋さんがあるとするでしょ。
そこが、不況とか、和菓子の人気がなくなるとかの影響で、
売り上げが減ってきたというようなとき、
店先に、缶ジュースの自販機を3台ほど並べたら、
きっと売り上げの足しにはなると思うんだよ。
でも、その「足し」って、たかが知れているんだよ。
それより、店の構えに「ちょっとでも儲けたい」ていう
がつがつした雰囲気が漂ってしまって、
一流だったはずの和菓子が安っぽくなる。
おいしくない和菓子を売ってる店と、同じになっちゃう。
ほんとうにやるべき工夫というのは、
ちょっぴりの「足し」を考えることじゃなくて、
もっと他の正々堂々としたことだと思うんだよなぁ。
なんだか、あちこちで「足し」程度のことで、
せっかく築いた信頼やブランドイメージを
ぶち壊しにしている人たちが、いるような気がする。
「そんなこと言っても、食っていかなきゃ」と、
ぼくの言い方を無責任だと反論するかもしれないけれど、
自分がお客さんだったら、と考えたら、
ぼくの言ってることのほうが正しいと思うんだ。
お客さんは、「金持ってくる人」じゃなくて、
「つき合っている人」なんだ。

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言いたいことのテーマについては、変わらないのですが、
とっかりの「スタバのふた」のことが、
どうやら、ぼくの誤解だったということらしいのです。
それを、スターバックスで働いている人から
メールで教えてもらいました。

あんまり詳しすぎる説明は、
企業の守秘義務に関わるかもしれないので省略しますが、
こんなふうなことらしいです。

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糸井さんの好きなふたは、まだありますよ!
こんな話は、まあ裏話なんですが、
たぶん、そこのお店の人が
穴のないふたをしたのは好意でやったことだと思うので、
聞いてください。
ふたのないほうは、お持ち帰り専用で
試験的に導入してるものなのです。
ぶっちゃけ、ドリンクを持ち帰りする時に、
特にバックに入れたりすると
穴のあるふたは意外と歩く拍子に漏れてしまうようでして、
それで来る苦情もかなりあるのです。
わざわざ穴のあるふたを二重にずらしてはめて
それを防いだりすることもしばしば。
「お気をつけてお持ちください」と声をかけても、
重力には逆らえない。
そこでどうやら会社で考えたのが
穴のないものの導入なのです。
(中略)
きっとドリンクを手渡した店員は、
こぼれないようにそちらを選んだのでしょう。
もし良ければ、今度「穴のあいてる方で」って
言ってみてください。出てきますよ。
今後ともどうぞ近所のスタバに行ってやってください。
糸井さんのような常連さん、きっと待ってますから。

スタバ某店勤務 ちえぞう



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ということです。
コスト削減というムードを、
一消費者のぼくがなんとなく感じて過ごしていたために、
「ふたもか?!」と、思い込んでしまったようです。
もうしわけありませんでした。

実は、このちえぞうさんとは別に、
もうひとりスターバックスでアルバイトしているという
大学生の「ほぼ日」読者の方です。
ふたについては、ちえぞうさんと同様の説明でしたが、
こんなことも書いてありました。

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それよりも今日のダーリンで心配になったのは、
余計な事かもしれませんが、
新しいフタになったのにそれについて
従業員と会話があまりないようだったことです。
そこでもし、従業員から
「フタ新しくなったんですよ。
使い勝手はどうですか?」とか、
ダーリンが
「これちょっと好きじゃないのよ」って
言える関係があったら、
もう少し違ってたのではないかなぁと思ってしまうのです。

「はなせばわかる」というのは万能だとは思いませんし、
むしろ日本人には逆効果かな、とも思ったりするのですが、
それでも話して理解したりされたりを積み重ねたいと
すごく思います。

・・・だんだん店の話か自分の事か区別がつかなく
なってきました。ここまで非常にとりとめなく長い上、
言いたい事もごちゃごちゃです。
やっぱり送るかどうか迷ってますが、
せっかく書いたので出します。
分かりづらくてごめんなさい。

それから「前のフタにしてください」とリクエスト
していただければお出しできる気がします。
試しに聞いてみてください。

それでは。
また楽しみに読みますね。



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ひとりのバイトの大学生が、
こんなふうに、思っているということが、
ぼくにはなんだかうれしかったし、
ちょっとうらやましかったです。
お店のことも、お客であるぼくのことについても、
慎重に思いやって書いている感じが、またいいでしょう?

おふたりにはお返事を書きましたが、
「自分の店が誤解されている」ということを、
「やさしくていねいに伝えられる」スタッフがいる
というだけで、
いままで通りにあの店に行こうと思ってしまいました。
スターバックスさん、どうもすみませんでした。
「ちえぞう」さん、「雪」さん、ありがとう。
ふたりとも、きっとこれからもいい仕事のできる人に
なると思いますよ。

2003-02-13-THU

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