ITOI
糸井重里の脱線WEB革命

こどもの偽ウォークマン。(その1)

ぼくは、パチンコが好きだ。
賭博的なマニアでなく、
あの単純な「乱数的なゲーム」が
好きなのだと思っている。
ものごとを、「ストック」と
「フロー」に分けて考えるのは、
ぼくのこの頃の癖で、これは、釣りをやっている間に
なんとなく身につけてしまったものらしい。
経済学の世界ではどういう使い方をしているのか、
よく知らないが、
ぼくは、ストックを「わかっているもの」、
フローを「わからないもの」というふうに
雑に考えている。

仮に、試験があるとして、出題された問題の解答は、
わかっている人にはわかる。
いわゆる、これが実力といわれるものだ。
これが、ぼくの考える「ストック」だ。
しかし、なにもかも知っていて、
なんでも答えられる受験者はいないわけで、
どういう範囲からどういう問題が出るかの、ヤマを張る。
この、ヤマを張る対象の部分がフローなのである。
イトイ式ではね。
しかし、フローは、
解析されてストックになったりもしていく。
大学別の出題傾向なんてものが本になるのも、
フローのストック化だ。

釣りは、素人にとっては、フローのかたまりである。
ラッキーとか運とかで、
釣果は左右されると思いこみやすい。
しかし、素人にとってフローに見えていることは、
玄人にはストックである場合が多い。
沈むタイプのルアーを投げて、竿を小脇に抱えたまま
一服しようとタバコを探しているときに、
放って置いたルアーで魚が釣れたとする。
初心者は、これをフローだと思うから、
「ラッキーッ!」とよろこぶ。
それを横で見ていたプロがいたら、

1、魚は、ボトム(底)にいる。
2、速い動きのルアーには反応しきれない。
3、どのかたちの、どんな色のルアーだったのだろう?
4、そのルアーの沈んでいたはずの場所には、
   なにかストラクチャー
   (水中の障害物)はなかったろうか?

などということを、一気に推理しはじめて、
その推理にあった方法を実行にうつす。
つまり、素人のフローの結果を、
自分のストックのファイルのなかにドラッグしてみて、
次の戦略をたてるわけだ。
そうやっても、おなじ結果が得られるとは限らない。
なんでもすぐにストック化
できるというものではないからだ。

「モノポリー」というボードゲームは、
ストックとフローのバランスが絶妙だ。
戦略もある。戦術も大事である。
しかし、ひとりひとりのプレーヤーの動きを決めるのは、
サイコロなのである。
だから、「モノポリー」にはんぱにつきあった人は、
「あれは、サイコロのゲームでしょう」などと、
すこし嘲笑気味に言ったりする。
でも、そのサイコロの遊びで、世界大会2回連続で
優勝と準優勝を獲得した人がいるのである
(ぼくの友人なので、実はここで、
ともだち自慢をしてるんだ)。
強い人たちが、モノポリーの技と運の比率について、
だいたい一致して言うのは、
「技7/運3」というバランスだ。
ただし、各プレーヤーの実力(ストック)が
全体に大きくなって、
その差がなくなってくると、
サイコロ(フロー)の比重がぐんと高くなる。
ぼくは、この場合のストック比率は、
5割5分くらいだと考えている。
ただし、実力者同士の対戦では、体調や意欲、
人徳などというわけのわからん要素の微妙な差が、
勝敗に結びつくことも多くなる。運というものだけで、
残りの4割5分をしめるというわけではないのだ。

フローのストック化が、
「統計」というものを鍵にして行われているのは、
みなさんご承知のとおりだが、
統計だけで勝率をあげていこうとすると、
どうしてもディフェンス重視の考え方になってしまう。
これは、つまらない。
だれでも熱心にやればできることと、
その時のそいつにしかできないことの区別は、
はっきりつけてもらわないと、
せっかく生きてる張り合いがなくなる。
その考え方を大事にしたいから、ぼくは、
「負けることも楽しみ」だったりすることが
多いのだと思う。

すっかり脱線してしまったよ。
パチンコの話をしていたんだった。
しかも、テーマは、
パチンコの「景品」のことだったんだよ。
これ以上、長くすると、読んでもらえなくなりそうなので、
この続きは、次回にまわします。
次回こそ、ほんとに、
「こどもの偽ウォークマン」のことを、書きます。

1998-07-18-SAT

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