HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その58 奇人列伝

旧暦の3月3日、奄美大島はひと足早く海開きしました。
この日は大潮で海水がとてもよくひくため、
集落の女性や子どもがリーフに入り、
貝を拾ったり、タコを探したりしています。
そんなようすを眺めながら、
シーカヤックのガイドをしているIターン者のYくんと、
昔の会社の後輩でお気楽失業者のM子、
それにわたしの三人は海辺でぼーっと座談をしていました。

「奄美には変わった人が多いんだよ」
YくんがM子に話しかけています。
「例えば、Bという人がいて……」
Bさんは昔は民宿をやっていたのですが、
何しろお金がないから客に出すおかずを作れない。
それで客に飯を作ってもらって食べていたというツワモノ。
もちろんそんな民宿が成り立つはずもなく、
いまは年20万円で生活しているというのです。
草が茂り放題に茂った廃屋に暮らし、
夜はロウソクの火をともしてしのいでいるとか。

M子 「電気もひいていないんですか?」
Yくん「いや、電気はあるけど、
    もったいないから来客用」
M子 「来客用?」
Yくん「来客のときには電気を点ける。
    そして感動する」
M子 「何に感動するんですか?」
Yくん「わー電気って明るいね、と心の底から感動できる」
わたし「いいね、その省エネモードの生活」

わたしは奄美って何でもありかもしれないと思いました。

「海に入れば食べ物が手に入るし、何とかなるわけですね」
M子は眼前の潮干狩りに目をやりながら感心しています。

「何でも食べるといえば、Hという人がいて……」
H氏は仲間と始めた事業の失敗の責任をひとりでかぶり、
数千万の借金を抱えてしまった、驚くほどのお人よし。

それでもおちこまないのがH氏、
素潜り漁だけで借金を返済したというイルカみたいな人。
野生児ぶりは素潜りだけにとどまらず、食生活もワイルド。
野山でも人の庭でも木になった実をみつけたらすぐに食べる。
H氏とYくんが歩いていたら、美しい花が咲いていたらしい。

Yくん「その花が次の瞬間、なくなってるんだよ」
M子 「どうしたんですか?」
Yくん「Hさんがちぎって食べちゃった」
M子 「食べちゃったって、その花、食べられるんですか?」
Yくん「知らない。しかも、Yくんは食べないの?、だって」
M子 「食べませんよねえ、普通」
わたし「いいね、その仙人のような生活」

わたしは奄美って何でもありだと意を強くしました。

「自給自足というんでしょうかね」
M子はあきれ返っています。勢いづいたYくん、
「自給自足といえば、Sという人がいて……」
Sさんはティピ(註)を立てて、その中で暮らしているとのこと。
こちらは電気もなく、畑を耕して限りなく自給自足に近い生活。
人柄もよく集落の人からも愛されているSさん、
みんなからSの愛称で親しまれているけれども、
実は誰も本名を知らないらしい。

Yくん「そのSが一度手紙を書いてよこせというんだ」
M子 「でも本名がわからないんじゃ、出せませんよね?」
Yくん「それもそうだけど、そもそも住所がわからない」
M子 「ティピですもんねえ」
Yくん「Sは集落のみんなが知っているから着くはずと言い張る」
M子 「住所も名前も不定で、本当に手紙が着くんでしょうかねえ」
わたし「いいね、その不法滞在者みたいな生活」
わたしは奄美って何でもありなんだと確信をつかんでいました。

わたしたちはそんなバカ話を三時間にも渡って繰り広げました。
その間に潮は満ち、海から女性や子どもが戻ってきます。
向こうから見たら、大の大人が三人、
海を見ながら延々と笑い転げているのですから、
奇異な人びとに見えるに違いありません。
でも、いいんです。
奄美って何でもありなんですから!


(註)北アメリカ平原のネイティブ・アメリカンが利用した
   移動式住居で、円錐形のテント。



ところで少し宣伝をさせてください。
3月に新刊が2冊出ました。

1冊は角川書店から出た『非在』。
思わせぶりなタイトルですが、難しい本ではありません。
生き物がたくさん出てくる孤島物のミステリーです。

出版社名:角川書店
発売日:2002年03月08日
定価:本体1600円(税別)
ISBN:4-04-873367-2-C0093

もう1冊は世界文化社から刊行された『昆虫探偵』。
こちらはタイトルそのまんまの昆虫ミステリー。
昆虫界で起こる事件を昆虫の探偵が昆虫の論理で解決します。


出版社名:世界文化社
発行年月:2002年03月
定価:1,400円 (税抜)
ISBN:4-418-02503-0

   

2002-04-24-WED

HABU
戻る