HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その51 秋の朝のひとコマ

セミの声が聞こえています。
ジーーウヮジュワ、ジーーウヮジュワと通底音のような。
クロイワツクツクの鳴き声です。
このセミが鳴き始めたら奄美はもう秋の気配なのです。

秋は鳥の渡りの時期です。
バードウォッチャーには楽しくもまた忙しい季節。
干潟に行ってはシギやチドリの識別に精を出したり、
高台にあがってはタカの渡りをカウントしたり、
農耕地に珍しい鳥が降りていないか探し回ったり。
そんななか、わたしのお気に入りは何を置いても水田。
水田地帯というのは生物好きにとって魅力的な環境です。
水を張った田んぼは小魚やカエル、水生昆虫などの楽園、
休耕田の草むらはヘビやネズミ、多彩な昆虫たちの王国。
それらの小動物を虎視眈々と狙っている鳥たちは
さながら世界の支配者のように堂々としています。
他にも水鳥が遊ぶ小川が流れていたり、
小鳥が好むアシ原があったりと見飽きることがありません。

そんな光景が見たくなって、
ある朝、日の出とともに出かけました。
島で最もまとまった水田が残る龍郷町の秋名という集落へ。
奄美大島の稲の収穫は、なんと7月半ばです。
夏休み前の稲刈りはちょっとびっくりの超早場米!
夏休みが終わったこの時期には、
刈り取った株から二番穂が伸びて黄金色に実っています。
「またぶ」と呼ばれ、地元で消費されるお米です。
またぶの間に鳥が潜んでいないかと双眼鏡で探していると、
ドン ドン ドン
風に乗って太鼓(チヂン)らしき音が伝わってきます。
さらに車を進めると太鼓に混じって人の喚声も。
「こんな朝っぱらから運動会の練習か?」
と、ふと音のするほうを眺めてみたら、
ショチョガマの真っ最中でした。


ショチョガマは旧暦8月の初丙の朝行われる

国の重要無形文化財のショチョガマは豊作祈願の祭事です。
稲藁を束ねて巨大な「馬」のような舞台を作り、
そのうえに成人男子と子供たちが数十人が乗っかっては、
太鼓のリズムに合わせて豊作を祈って歌い、
歌い終わると今度は掛け声とともに引き綱を揺すります。
そしてまた歌い、また揺する。この繰り返し。
スローテンポの太鼓の音と方言でよく聞き取れない歌が
実におだやかなハーモニーとなって耳に届き、
心をなごませてくれます。
歌って揺する単調な繰り返しが10回ほど続いたでしょうか。
「馬」がめきめきと倒れ始めました。
数十人の騎手を乗せたまま、どすん。
同時に拍手喝采が起こります。
上の人たちは最初から「馬」を倒そうとしていたのです。
倒れる方向によって来年の稲の作柄がわかるのだそうです。
それによると来年は豊作だそうですが…ちょっと待った!
どちらに倒れるかは上に乗った人たちの力加減による訳で
出来レースのような気もするが…
堅いことは抜きにして何はともあれ、よかったよかった!

微笑ましい気分なって空を仰げば
1羽のタカが舞っています。
ハトくらいの大きさのアカハラダカです。
まるでショチョガマを見終わって飛び立ったかのよう。
山の端から太陽が昇り、大気温が徐々に上がってきました。
上昇気流をつかまえたタカは輪を描きながら高く高く舞う。
それを見つけた仲間のタカが集まってグループになる。
そしてどの1羽かが合図したのでしょうか、
グループはまとまって南東のほうへ流れていきました。
わたしだったらタカの渡る方角で作柄を占いたくなります。
南に渡れば吉、北に向かえば凶と決めれば万全。
彼らは南を目指すに決まっているわけですから。
そんなこと委細気にせず無事に渡れよ、ファイトファイト!


円を描いて舞うアカハラダカ

2001-10-14-SUN

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