HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

突然ですが、復活しました。
こんな感動体験を自分ひとりのものにしておくのは
もったいないと考え、性懲りもなく原稿を書きました。
気が向いたら、読んでみて下さい。

その49 母ガメの目にも涙

七夕の一晩前、7月6日夜の天気は曇。
水平線上に垂れこめた雲の中で稲光が乱反射しています。
せっかくの満月も雲のベールをかぶっています。
こんなコンディションだと今晩も無理かなと思いながら、
龍郷町の海岸に向かったのです。
今年すでに5回目の挑戦、ウミガメを観るために。

アカウミガメは静岡、愛知、和歌山、徳島、宮崎などで
産卵場所の砂浜が知られており、なじみ深い動物ですが、
北太平洋では日本でしか産卵しない貴重なカメなのです。
鹿児島県にも薩摩半島の吹上浜や屋久島の永田浜という
日本を代表するアカウミガメの集団産卵場があります。
ここで彼らを観るのは比較的容易です。
時期を見計らって行けば必ず数頭が上がっていますから。

さて、彼らは奄美の砂浜にも律儀に上がってきます。
ただし奄美らしいというのか、カメもいいかげんで、
ぽつんぽつんと気の向くときに気の向く浜に上がる。
だからウミガメウォッチングはなかなかにラクじゃない。
無駄を承知で何度も足を運ぶ必要があります。

大潮の夜のほうが歩く距離が少なくていいはずだ
満月の夜こそ、月明かりで歩きやすいんじゃないか
いやむしろ暗い夜のほうが安心して上陸しやすいかも

カメに気持ちになって、様々に試行錯誤するのですが、
去年は6戦6敗、今年も4戦4敗…仮説は全て外れました。
開き直って、こう考えました。

カメはテキトーに上がって来るんじゃないか?

ビンゴ! 
ついに連敗記録は10でストップしたのです。

波打ち際を懐中電灯で照らしながら歩いていると、
すぐ目の前にキャタピラのような軌跡を発見。
ウミガメが不器用に浜の上をはいずった跡です。
もしやと電灯の光で跡を追うと、草陰に巨大な影。
産卵中のアカウミガメのメスとの感動の初対面です。
それにしてもでかい。
体長は1メートル強くらいのものでしょうが、
至近距離で観ると、とてつもなくでかく感じます。
母ガメは巨体を持て余しながら、
必至に卵を産んでいる最中。
ピンポン玉のような球状の卵が、ポコンポコポコッ、
ポコンポコポコッ…次々穴の中へ産み落とされます。
産卵中のウミガメといえば、涙がつきものでしょう。
失礼して顔を少し照らしてみると、
確かにしとどに泣きぬれているではないですか。
お産の苦痛に涙を流しているというのは俗説で、
体内に取り込んだ余剰塩分をだらだら排出しているだけ
(だから常に“泣いている”)だと知ってはいても、
やっぱりこの演出は不可欠。

大変そうだよなあ
頑張れよなあ

と、つい声をかけたくなる感動の一瞬なのです。
思い入れたっぷりに観察すること15分程度。
母ガメが産卵を終え、穴を埋め戻し始めたのを合図に
わたしも観察を終りました。

産み落とされた卵は50日から75日でふ化します。
小ガメの性はなんと卵のときの地中の温度で決まります。
39℃より高いとメスになり、
39℃より低いとオスになるのだそうです。
南国奄美生まれの小ガメはさぞかしメスが多そうですが、
サンゴ質の白砂は意外と熱を吸収しないため、
予想外にオスになる確率が高いのだとか。
ともあれ、オスであろうがメスであろうが、
無事にかえって、元気に海を目指して欲しいものです。



母ガメの顔のアップ。泣いているように見えるでしょ。

2001-07-10-TUE
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