HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その13 マングローブ探検隊

奄美大島には日本北限のマングローブ原生林があります。
住用村の役勝川と住用川が合流して湾に流れ込むあたり。
71haの広さは、国内では西表島に次ぐ規模だそうです。
このマングローブ林をカヌーで探索するツーリングが、
観光客の人気の的。ライフジャケットを身につけて、
発着場から漕ぎ出した瞬間から、即座に探検隊気分です。

誤解されることが多いのですがマングローブというのは
特定の植物の名前ではありません。
熱帯・亜熱帯の河口や内海など、海水と淡水の交じり合う
汽水域に生息する数種類の植物の林のことなのです。
住用村のマングローブはおよそ20種類の植物で成り立って
いるようですが、主要樹種はメヒルギとオヒルギです。
板状の根を発達させ白い可憐な花をつけるメヒルギに対し、
膝状の根を地上に突き出し赤いガクが目立つオヒルギ。
板根も膝根も呼吸根で、干潮時には空気を取り込みます。

ヒルギの呼吸根が入り組んで迷路のようになった部分では、
ミナミトビハゼが元気にピョンピョン飛び回っていたり、
オキナワアナジャコが立派な砂の塚を作っていたり、
ノコギリガザミが巣穴を掘って潜んでいたりします。
美味で高価なノコギリガザミは漁師の格好の標的で、
カニ籠をしかけて捕まえますが、素人が迂闊に手を出すと
危険。巨大なハサミで指なんか挟まれようものなら…!

マングローブの先端、干潟の部分に裸足でおりてみます。
軟泥がムニュムニュと足裏にさわり、こそば気持ち良い。
一歩ごとにズブズブとくるぶしあたりまで埋まる快感。
子供の頃に戻ったような気持ちになり、動物観察です。

白い大きなハサミを振り上げては振り下ろすあいつは、
オキナワハクセンシオマネキの雄。自分の体ほどもある
片方のハサミで「潮を招く」ような奇妙な行動をします。
これは必死の求愛行動。雌が興味を示してくれるまで、
ひたすらハサミを振り続けます。
パチンコ玉くらいの丸い体から足が生えたような彼らは、
ミナミコメツキガニ。潮が満ちてくると、
大群で行進していきます。カニなのに前歩きなのです。
さながらロボットの進軍のよう。危険を察知したときに
スクリュウのように回転しながら泥に潜る様子も、
なんだか動物離れしたメカ的な動きです。

マングローブ林に限らず干潟はどこも生き物の宝庫です。
カニや小魚、貝類が豊富な干潟は、それらを狙う鳥たち
にとっても、あるいは潮干狩りの人間にとっても貴重。
近年、干潟を埋め立てる開発事業が全国で目立ちますが、
ムニュムニュ、ズブズブの泥んこ感を
大人も子供も同等に楽しめる数少ない場所は、
それだけでも十分に存在価値があると思うのですが。

2000-08-11-FRI
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